夕食での会話
「そ、そうね。ちょっと聞き過ぎた……。ごめん」
トーチさんは頭を下げる。
「いや、気にしないでください」
僕達が話している間に、アイクさんが料理を持ってきた。
「シチュー、ミートスパゲッティ、ビーフストロガノフ、ビーフシチュー、照り焼きチキンだ」
テーブルの上に大量の料理が置かれる。
僕は普通の照り焼きチキンを頼んだはずなのだが、鶏一羽あるのではないかと言う大きさの肉が出てきた。
さすがにこれを銀貨一枚で出したら赤字だろうなと思いながら神に感謝して食べ始める。
「ん~! 美味しいい! すごい、こんなに多くて美味しいなんて!」
「ほんとです~。これが銀貨一枚なんて嘘みたいです」
「ガツガツガツガツ……。美味いっす! 最高っす!」
「ハグ……。ん~、パンも美味しい~。こんなお店を知ったら、他のお店行けなくなっちゃいそうだよ~」
『赤光のルベウス』さん達は大変好評のようだ。
もちろんわかっていたがアイクさんの料理はどれも美味しそうだ。
僕もナイフとフォークを使って照り焼きチキンを食べる。
いつもながら頬が落ちそうなほど美味しい。
――今日の夕食は女性に囲まれながらか……。悪くないかもしれない。でも、異性と言うよりかは友達の感覚に近しい気がする。
僕達は料理を一口も残さず食べきった。
「ほ、本当に銀貨一枚でお腹がいっぱいになった……」
「お腹いっぱいと言うか、はち切れそう……」
トーチさんとマイアさんは何とか食べきり、テーブルに突っ伏している。
「お代わりくださいっす!」
「はいよ! 嬢ちゃん、食べっぷりがいいな!」
「ありがとうございますっす! アイクさんの料理めっちゃおいしっす!」
「ハハハ! 嬉しいこと言ってくれるじゃないか。鶏肉のボイルをおまけに着けてやるよ」
「ありがとうござますっす!」
アイクさんはフランさんの食べっぷりに感服し、銀貨一枚では到底賄えない量の料理を出していた。
「うぅ……もう食べられません……」
ロミアさんはあと一口と言う所でスプーンが止まっている。
だが、根性を出せばあと一口は食べられそうなので、実質完食していた。
「凄い、皆は初めてなのに、食べきれてる。多くの冒険者さんが一回目は残すのに……」
僕は普通に食べきり、美味しいという満腹感を得て幸せが溢れる。
トーチさん、マイアさん、ロミアさんの三人が突っ伏してから三〇分ほどしてフランさんが満腹になったみたいで、ご満悦な表情。
「はぁ~、最高だったっす」
フランさんはお腹を摩りながら幸せそうな顔をしていた。
「そうか。俺も久々に食べっぷりのいい女冒険者に出会えてうれしい限りだ。体格も恵まれてるし、冒険者として十分やっていけそうだな」
――アイクさんが初対面の人を褒めるなんて珍しい。
「ありがとうござますっす!」
「ところでキース。どこでこの四人と知り合ったんだ?」
「えっと……色々ありまして」
僕はアイクさんに今日何が起こったのかを話した。
「なるほど、お前がロミアを助けたら感謝されて、失言を吐いて空気が悪くなったから良い店があると言って連れて来たのか?」
「そ、そうです……」
アイクさんはおでこに右手を置き、喋り出した。
「『赤光のルベウス』のリーダーはトーチだったか?」
「は、はい! そうです」
「冒険者は仲間の死がつきものだ。どれだけ注意しても死ぬときは死ぬ。それを考慮しての行動が手引きに書かれていた通りだ。リーダーとしての判断は正しい。だが、仲間としての判断は間違っている。俺の言いたい内容は分かるか?」
「な、何となくは……」
「今は何となくでもいい。だが、常に考えて行動しろ。リーダーは仲間の死を受け止めなければならない大切な役割だ。他の者より多くの考えが必要になる。それこそ、常に考えていても足りないくらいな」
「き、肝に銘じておきます」
「パーティーメンバーとはぐれたのはロミアだったか。お前は最悪の場合、仲間を危険な状態に陥らせていたかもしれないとわかっているか?」
「は、はい。理解しています」
「なぜはぐれたかは知らないが、それを自分の性格のせいにしている間は強くなれない。加えて、冒険者の仕事も中途半端な結果しか残せずに死ぬぞ。自分の性格を理解し、どういう行動をとるのが正解か常に考えろ。行き当たりばったりで行動するな。それほど冒険者の仕事中危険な行為はない。わかったか?」
「わ、わかりました。私、皆の危険の種にはなりたくありません。絶対、私の性格を理解して自分に合った仕事の仕方を見つけます」
「その意気だ」
――何でアイクさんは『赤光のルベウス』さん達に助言しているんだろう。
あれかな、可愛いからかな。いや、アイクさんがそんなしょうもない理由で助言するわけない。
きっとこの四人に期待しているんだ。アイクさんの助言は正しい。正論すぎて言い返せない。でも、徹底的に考えさせようとしている。そこがアイクさんの教育方針なのかな……。
アイクさんはマイアさんとフランさんにも助言していた。
「最後はキースだな。お前は……、もっと相手の気持ちを考えられるようにならないとな」
「な! なんか僕だけ、冒険者と全く関係ない助言じゃないですか!」
「いや、人との会話は大切だ。キースは物腰が柔らかいからまだいいんだが、言葉選びを間違えないようにな。そうしないと、間違った伝わり方をする。最悪、切りかかられる可能性もある」
「こ、怖いですね……。アイクさんは切りかかられた経験があるんですか?」
「あるぞ。言葉が足らない場合も相手に伝わりづらいからな。出来るなら、簡潔にかつ、明確に、を意識しろ」
「は、はい……」
「逆に言えば、冒険者の依頼はほぼ文句なしと言うことだ。完璧に近いな」
「本当ですか。そう言われると嬉しいです。逆にどこか駄目な部分はありますかね?」
「冒険者の依頼に完璧など存在しない。どこまで完璧に近づけられるかが課題だ」
「なるほど……。どれほど上手くいっても仕事に完璧はない。その時以上に速く、正確に、を突き詰めて、完璧に近づけていくそれが冒険者の仕事ですか……。奥が深いですね」
「そうだ。常に日々精進していかなければ、冒険者で食っていけない。同じ依頼をこなしているようじゃ、騎士と何ら変わらないぞ。何なら年を取って報酬が上がる騎士の方がいいまである。冒険者は常に上を目指し、自分を磨き続ける職業だ。まぁ、辞め時を見極めなければならないのが難しいところだがな」
元冒険者の言葉は新人の冒険者さん達に深く刺さったらしく、お店の中にいた冒険者さん達が、アイクさんにお礼を言って『また食べに来ます!』と言ってお店を出て行った。
だが、実際に食べにくる冒険者さん達は六割くらいだそう。
残りの四割は冒険中に何らかの原因で亡くなるか、冒険者を止めてしまうらしい。




