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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
シトラを取り返すために身なりを整える

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命の恩人の、命の恩人

「くっ!」


 ゴブリンの攻撃に気づけず、僕の体は振り返るのが遅れてしまい剣を振りかざせなかった。


 ――どうする。このままだと僕の首の血管を切り裂かれて死ぬ。振り返っている暇はない。

 ここから最短でゴブリンの体に剣をとどかせるには……、そうだ! あの時の動きを再現出来れば倒せるかもしれない!。


 この土壇場で僕はアイクさんが斧を振り回している場面を思い出した。

 あまりにも自由自在に振り回していたからよく覚えている。

 その動きの中に、後ろを見ずに後方へ攻撃を繰り出す動きがあった。


 ――確か武器の柄を逆さに持ち替えて後ろに突き刺す。


 僕はアイクさんの動きを見よう見まねで行った。

 この場を打開するにはそれしか思いつかなかったからだ。

 剣は僕の想像よりもよく動いた。


「グギャッ!」


 僕の背後に突き出された剣がゴブリンの体を貫く。

 ゴブリンの体から流れてくる生暖かい黒い血が手に付着した。

 加えて、二八キログラムほどの重さが右腕にのしかかっている。

 腕を前に出し、ゴブリンの体から剣を一気に引き抜く。


 地面に腐ったトマトを叩きつけたような音と、黒い血が広がる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。よ、よかった。で、できた」


 僕はつい数秒前まで死の淵にいた。

 ゴブリンの脅威が去ってから、どっと疲れが現われて額から変な汗が噴き出してくる。


「もう、ゴブリンはいないよな」


 僕は別の場所からゴブリンに不意打ちされないか辺りを警戒する。

 数秒経っても追撃が来なかった。

 どうやら、もうゴブリンはいないらしい。


「はぁ。生きた心地が全くしない……」


 僕はその場に尻もちをついて深く深呼吸をした。


「あ、あの……」


 前にいる女性が話しかけてきた。


「あ、ごめんなさい。すぐに運びますから」


 僕は震える脚に拳を叩きつけ、立ち上がろうとする。


「えっと、白髪さんですよね?」


「え……。僕のことを知っているんですか?」


 僕の目の前にいた人をもう一度よく見てみた。

 マゼンタで赤みの方が少し強い髪色、ショートボブと呼ばれるような短い髪型。

 冒険者だとすぐわかる胸もとを大きく見せた露出の多い服装は僕にとって少し刺激が強い。

 顔はどこか幼く、子供っぽいが体はしっかりと大人だった。


 ――この人、どこかであった覚えがある気がする。えっとどこだったかな。


「私、あなたを助けたことがあると思うんですけど覚えてませんかね?」


「あ! そ、そうだ! 僕を焼け野原から助け出してくれた命の恩人さんだ! ご、ごめんなさい、命の恩人の顔を忘れていたなんて、本当に申し訳ございません!」


 僕は地面に頭を付けて謝った。


「え、ちょ、何で謝るんですか。今、助けてもらったのは私の方ですよ」


「いえ、助けてもらった恩を忘れるなんて……。神への冒涜に等しい行為だと思い、謝罪いたします」


 僕は頭を今よりもさらに深く下げて謝る。


「頭をあげてくださいよ。助けてくれた方が謝るなんておかしいです。本当は私の方がお礼を言わないといけない立場なんですから」


 女性は僕と同じように頭を地面に付けて感謝してきた。

 初めてあったときも同じように同じことを繰り返していた気がする。


 僕は頭を上げてこの場を離れると決めた。


「あの、今すぐにこの場を離れましょう。まだ、あなたの体についた傷はちゃんと回復していないと思いますし、病院か回復師(ヒーラー)のもとに早く行きましょう。回復薬だけじゃまだ不完全ですから」


 女性が普通に動けるのを見ると毒の効果はないみたいだ。ナイフに毒が塗ってなかったのかな。アイクさんのくれたポーションが毒を分解してくれたのかもしれない。


「えっと、ゴブリンを倒した証拠に魔石と右耳を捕っていきましょう」


 女性はよろめきながら立ち上がり、落ちていた剣を鞘に納めた。

 そのまま、おぼつかない足取りで死体になったゴブリンに近づいていき、腰に着けてあったナイフでゴブリンの体を裂き、魔石を取り出したあと、右耳を切り取った。

 二体のゴブリンから同じように魔石と右耳を取る。


「よかった。魔石はどれも割れていません。これならお金に換えてくれるはずです」


「魔物を倒したら魔石と倒した魔物の一部を持ち帰る規則なんですか?」


「ゴブリンは素材になる部位が無いので倒した証拠に耳か魔石を持ち帰るのが決まりです。素材の取れる魔物の時は魔石が素材をもっていけば倒したとみなされて依頼を達成できます。加えて買い取ってくれるので、素材有の魔物討伐は冒険者にとって、とても儲かる依頼なんですよ」


「なるほど……。えっと、あなたはどうしてここにいたんですか?」


「あはは……、えっと、恥ずかしながら仲間とはぐれました……」


 女性は髪を掻きながら苦笑いを浮かべる。


「それは災難でしたね。仲間が心配しているでしょうから森の外に出ましょう。僕が背負って運びますね」


「はい、お願いします」


 僕は女性を背負うために、黒卵さんを胸の方に持ってくる。

 背中の時と同じように紐で縛り付けて落ちないように固定した。


「どうぞ。僕の背中にのってください」


「し、失礼します」


 僕の背中に硬い胸当てが当たる。

 だが、胸当ての奥から何やら圧迫感を感じた。


 ――胸当てがあってよかった。直に当たってたら避難させるどころじゃなかったかも。


 女性は僕の首元で手を組み、落ちないよう少し力を入れている。

 僕は女性の太ももを外側から包み込むように持ち上げる。


 ――あ、柔らかい。女性の太ももを持つの初めてだから知らなかったけど、こんなにしっとりと柔らかいんだ。って、何を考えているんだ。早く運ばないと。


 僕は女性を背負いながら、赤の森の出口を目指す。


 ☆☆☆☆


 午後五時ごろ。『赤の森』入口。


「うわぁ~ん! みんなぁ~、怖かったよぉ~」


「もぅ、引き返そうっていたのに。ほんとドジなんだから」


「まぁまぁ、リーダー、この子がドジなのは昔から知っているでしょ」


「それより、お腹減ったっす。夕食に早く行こう」


 僕が赤の森の入り口に到着したころ、助けた女性の仲間らしき三人の女性冒険者が待っていた。


 僕は助けた女性に三人を見せると、泣き出したのでパーティーメンバーなのだろうと思い、連れて行った。


 三人は女性を見るや否や僕の方に頭を下げてきた。どうも手慣れた感じがしたので、女性が迷惑を掛けるのが日常茶飯事なのだと推測できる。


 僕は胸に移動させていた黒卵さんの入った袋を背中に移動させておいた。

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