回復草の群生地
午前一〇時、赤の森、花園。
僕は回復草と解熱草を二時間探した。だが、日当たりのいい花園でも見つけられなかった。
「ダメだ……。目がちかちかする。水分補給しよう」
僕はウェストポーチから革製の水筒を取り出し、花園で座りながら水を飲んだ。
「はぁ~、生き返る。にしても、綺麗だ……。こんな場所でシトラと暮らせたらいいな。シトラも花が大好きだから、いつの間にか僕も好きになっちゃったんだよな。きっとプラータちゃんも元気に仕事を頑張っているんだろうな。よし! 僕も負けてられない。別の場所を探そう」
僕は見切りをつけて、花園をあとにする。
回復草と解熱草の群生地を探しながら赤の森を進んでいると、崖が現われた。
「うわ……危ない。高さは一八メートルくらいか。高いな……」
僕は身の危険を感じながらも、地面に這いつくばりながら谷の斜面を見た。
「あ、あった。解熱草。どう見てもあれは解熱草だ。こんな危ない所に生えていたのか」
解熱草は僕が手を丁度伸ばした位置に生えており、五本採取出来た。
「よし、あと一種類だけだ。回復草さえ見つければ帰れる」
僕が解熱草を見つけたのは花園を出て一時間後だった。
解熱草を見つけたあと、森の中をまた一時間さまよい、日当たりがいい場所を探した。
回復草は一向に見つからない。
「手引きに書いてある群生地に足を運んでるんだけどな……。何でないんだろう。他の人が取りつくしているのか。でも、それは違反だってギルドのお姉さんが言ってたのに」
僕は冒険者の欠点の片鱗に触れる。
「仕方ない。花園に戻って昼食にしよう」
僕は日が真上に来た頃、おそらく一二時ごろ花園に戻ってきた。
「今のところ順調そのものなんだ。焦らず暗くなる前に森を出ればいい。魔物にだけ注意しておこう」
僕はウェストポーチに入っている弁当箱を取り出し、開ける。
「サンドイッチだ。なるほど。汁物を入れたらぐちゃぐちゃになっちゃうもんな」
僕は具が鶏卵のサンドイッチを食べる。冷めていても美味しい。
塩と卵が絶妙に絡み合い、チーズによって纏まっている。パンも柔らかくとても食べ応えのあるサンドイッチだった。
僕は美味しいサンドイッチを間食し、水筒の水を一口飲む。
「はぁ~、凄い元気になるな。お弁当の力は偉大だ。よし! 残りの回復草を探すぞ! まだ回っていない群生地がある。一か所ずつしっかり調べていこう」
僕は花園を出て、まだ訪れていない回復草の群生地を目指す。
花園を出てから三〇分ほどたった。先ほど向かっていた群生地と別の方向に移動している。
「さてと、手引きによると回復草の群生地はここら辺を示していると思うんだけどな。『回復草は毒性の強い偽草にそっくりだから気をつけてください』って書いてある。葉の裏を見て、黒い線が入っているかどうか見ないと」
僕は回復草に似た草を何度か見つけたが、全て偽草だった。
偽草の汁が体の中に入り込むと呼吸困難で死に至るらしい。
本当に気をつけないといけない。
偽草によって毎年数人の冒険者が死に至っていると手引きに書いてあった。
「手引きに書いてある回復草の群生地は七カ所。でも、もう四カ所回ったから。残り三カ所だ。時間はまだある。焦らずに向かおう」
僕は回復草の群生地を目指して移動する。
☆☆☆☆
午後一五時〇〇分。
「いや……。五カ所目、六カ所目もなかった。もっとよく探せば見つかるのかもしれないけど、何で回復草だけこんなに生えていないんだ」
これなら回復草を探さずに帰った方が時間を有効に使えるのではないだろうか。
全部集める必要はない。今から帰ってアイクさんのお店で働けば、いつもより多くお金が入る。
「でも……、せっかくここまで来たんだから、最後の一か所も見ておくか」
僕は三種類の薬草よりも回復草の一種類を見つけるために、長い時間を使っていた。
回復草を探していた時間に意味が欲しい。
見つからなかったという結果でも、全ての群生地を回ったと達成感を得られる。
このまま帰ったら、最後の群生地を見ずに諦めたと僕の頭が勝手に悪い印象として記憶してしまう。それは嫌だった。
だから、最後の群生地に向った。
「えっと、最後は……。うわ、この崖を上った頂上にあるのか。上の方で手が滑って落ちたらひとたまりもないな」
僕の目の前に高さ二〇メートルはあるのではないかと思うほど高い崖が立ちはだかった。
「でも、ここまで来たんだ。最後に諦めるのは僕の性に合わない」
僕は矢を岸壁に刺しこむ。矢がめり込み、足場になった。
矢が足場になると確信した僕は刺した矢を一度引き抜く。
矢に外傷はなかった。そのことから、作戦を考える。
「矢を足場にして頂上に向おう。この矢は返さないといけないから最後に回収しないといけない。回収しやすい位置に差し込まないと取れなくなるぞ。あと、出来るだけ使わないようにしないと頂上に到達する前に無くなってしまう」
僕は思いっきり地面を蹴り、跳躍した。
矢を岸壁に差し込み、ぶら下がる。
矢を矢筒から一本取り出し、反動をつけて上に向って移動する。
矢一本で五メートルほど進み、五本の矢を使ったところで崖の頂上にやってきた。
「うわぁ……。何本生えているんだ。凄い。これだけ生えてれば五本なんてあっという間に集められる」
僕は崖の上に登ったら、その場は一面回復草で埋め尽くされていた。
よく見ると偽草も生えており、体がひりつく。それでも、圧倒的に回復草の方が多かった。
「間違えて偽装を千切ったら大変だ。草で指を切って死んだら悲しすぎる」
僕は薬草をすべて手に入れた。
もし薬草の依頼が舞い込んで来たら今日、薬草を取った場所を覚えておけば、それなりの量を集められるはずだ。
「四種類の薬草を五本ずつ。採取完了っと。あとはこの崖から降りるとき、矢を引っこ抜いてから降りないと弁償金が発生する。何としてでも引き抜いて帰らないと」
僕は一本の矢を壁に突き刺し、落ちる速度が出過ぎないように注意し、元から刺してある矢を足場にしながら降りる。
足場にした矢は引っこ抜いていった。
僕は無事に下まで降りられた。引っこ抜いた五本の矢は矢筒にしまう。
「凄く丈夫な矢だよな。魔法でも掛けてるのかな……」
矢に傷が一つもついておらず、手に持っていた最後の矢も矢筒にしまう。
「よし、帰ろう」
僕は『赤の森』の出口に向かって駆けようとしていた。
「だ、誰か……、た、助けて……」
「え……。声がする」
「だ、誰か……、誰か……」
僕は声のする方向に走って行った。
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