『赤の森』で薬草探し
「よし『赤の森』はすぐそこだ。薬草を早く見つけてアイクさんのお店に帰ろう」
僕たちが住んでいるプルウィウス王国は中央の王都と周りの七つの領土に分かれており、王国をぐるっと囲うように壁が作られている。
唯一壁がないのは海に面しているカエルラ領のみだ。
壁の外は魔物と呼ばれる生き物がいて猛獣と同じく人を襲う。
壁も中にも魔物はいるようだが壁の外にいる魔物の方が危険らしい。
僕は出来るだけ魔物に合わないよう気をつけながら、ルフス領の近くにある『赤の森』に向わなければならない。
「えっと地図によるとこの舗装された道をまっすぐ進めば『赤の森』があるはずだ。地面が固められているから行く道が分かりやすいな」
僕は舗装されている道を走る。
いつもは両手にビラを持って走っているが今回は両手が開いているのでとても走りやすい。
僕が走りだして一〇分ほどで森の入り口が見えてきた。
「あそこが入口か」
僕は『赤の森』の入り口に到着する。入り口といっても、森の木々が少々開けた位置にルフスギルドの役員がいるというだけだ。
すでに何人かの冒険者が帰宅の準備に取り掛かっていた。
――今から帰る人達は夜にしかできない仕事だったのかな。夜行性の魔物の討伐か何かか。
危険な森があるのに近くに村が結構あるんだよな。
ルフス領に入らず、わざわざ外で生活している理由が何かあるのかな。
でも、その人たちを守るのも冒険者の仕事だって言うし……。ほんと多忙だよな、冒険者の人たち。
「君は今から『赤の森』にはいるのですか?」
僕はルフスギルドの職員らしき人に声を掛けられる。
「はい、そうです」
「では、ギルドカードを提示してください」
「あ、はい。わかりました」
――ここでもギルドカードを見せないといけないんだ。
ギルド職員は名簿に僕のギルドカード(仮)の情報を書き込んでいく。
「ギルドカード(仮)お返しします」
「ありがとうございます」
僕はギルド役員からギルドカード(仮)を受け取った。
「では、頑張ってくださいね。最近、魔物の被害が多いですから、くれぐれも無理をなさらぬようお気を付けください」
「わ、わかりました」
僕はギルド職員さんにまたもや注意喚起されて身を引き締める。
「ふぅ……。よし!」
僕は頬を叩いて気合いを入れたあと『赤の森』の入り口をくぐった。
☆☆☆☆
午前七時〇〇時頃、赤の森、入口付近。
「えっと、来た道は覚えておかないと森で遭難するかもしれないからな、気をつけないと危ない」
僕は『赤の森』の中を進んでいく。
ウェストポーチに入っている手引きを取り出し、各薬草の群生地を調べる。
「『解毒草は日の当たりにくい暗い場所に生えていることが多いです』か。なら、岩の裏とか、土の壁があるような場所に生えてるかもな」
僕は森の中を少し進み、地面に倒れて腐った木を見つける。
だが、地面に絶妙に当たっていない部分があった。
木の幹には苔が大量に生えており、木の下側面は真っ暗になっている。
「ここならあるかも……」
僕は木の下側面と地面の隙間を覗き込んだ。
すると、紫がかった色の草が数本生えていた。
「あった。手引きに書かれている絵と全く一緒だ」
僕は解毒草を五本、根っこが抜けないように千切る。
根は残しておかないと薬草が取れなくなってしまうため、根まで引っこ抜いたらダメらしい。
「よし。森に入ってまだ三〇分も経っていないのにもう解毒草を五本採取したぞ。次は解麻痺草を探そう」
僕は手引きを見て生えている場所を調べる。
「なになに『解麻痺草は風通しのいい場所に群生しています』か。それならもっと吹き抜けた場所に行かないと生えていないな」
僕は森の中のじめじめとした場所を抜け、木の間が開いており、風がよく通る気持ちのいい場所に来た。
「ここら辺なら生えてるんじゃないかな」
そう思い、僕は辺りを見回してみる。
「あ、見つけた。この黄色っぽい草だな」
僕はまたしても三〇分ほどで解麻痺草を手に入れた。
「凄い順調だ。今の一時間で金貨二枚か……。アイクさんの所で働いてたら一〇時間くらい働かないと手に入らない金額が一時間で手に入った。す、凄い大金だ」
僕は冒険者の利点の片鱗に触れる。
「でも、常時周りを見渡して危険を察知しないといけないのは凄い不安感が掛かるな。まぁ、これは仕方ないのか」
僕は解麻痺草をウェストポーチに入れて保管する。
「あと二種類だ。回復草と解熱草、どっちも日当たりのいい場所に生えているって書いてあるな。とりあえず日当たりのいい場所に移動しよう」
僕は風邪通しのいい場所を走り、森にぽっかりと開いたひらけた場所に出る。
そこら中に花が咲いており、とても綺麗だった。
人工物ではなく天然の花園……。
風が吹き抜けると花吹雪が舞い、幻想的な空間だった。
「す、すごい……。街の中でこんな場所見たことない。これが冒険」
僕は冒険者の利点の片鱗にまたもや触れる。
「か、感動している場合じゃない。この森には魔物がすんでいるんだ。気を緩めたらすぐに倒されてしまうぞ。でも、お昼はここで食べよう」
僕は花園に足を踏み入れ、回復草と解熱草を探す。
「ん~。見つからないな……。そう上手くはいかないか。でも、ここ以上に日の当たる場所があるかな。もう少し根気強く探してみるか」
花園には数多くの草花が生えており、ただの草にしか見えない回復草と解熱草を見分けるのがとんでもなく難しかった。
二種類の薬草と似ている草が何本もあるのだ。
やっと見つけたと思っても、絵と絶妙に違う。
「これも、違う……。こっちも違う。
はぁ、解毒草や解麻痺草みたいに色が違えばいいのに。回復草と解熱草はどっちも緑色だから見つけるのが難しいよ。これは慣れだな。
たくさん見て、やっとすぐ見分けがつくような絶妙な違いだ。ふぅ……集中して探さないとずっと見つからないままだぞ」




