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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
シトラを取り返すために身なりを整える

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順調な滑り出し

 初日の仕事から八日後。

 九月一五日。水曜日(晴)


「はぁ、はぁ、はぁ、もう少しで朝のビラ配りが終わるぞ。その後は朝食を食べて皿洗いと食材の下準備だ。急げ、急げ」


 朝のビラ配りが研修期間を含めて約三周目。一時間三〇分掛っていた道のりが一時間にまで短縮していた。

 初日が六時間かかっていたのを考えると物凄い成長だ。

 自分でも驚くほど体が動くようになり、息が切れなくなった。気絶もここ最近していない。

 おかげで走るのが楽しくて仕方がなくなっている。


 僕は全てのビラを配り終わり、アイクさんの店に戻ってきた。


「今、戻りました」


 僕は午前七時に出発すればいいところを午前五時に出発し、午前六時に帰ってくる。

 食べられるときに朝食をとり、昨日溜まった皿を丁寧に洗っていった。

 七日間やっていると慣れるもので、丁寧さを保ちつつ速度を上げ、二時間ほどで終了。

 午前八時ごろに皿洗いを終えた僕は食材の下準備に入る。

 もちろん食材の下準備も順当に技術をあげ初日とは見違えるほど速くなり、二時間ほどで終了。

 すると午前一〇時には朝の仕事が終わってしまった。


「アイクさん。午前中の仕事が終わりました。他にすることありませんか?」


「もう終わったのか……。じゃ、じゃあ昼まで店の掃除でもしてもらおうか」


「わかりました!」


 僕は雑巾や綺麗な布巾、長い柄の付いた雑巾(モップ)をお店の控室から取り出して人の少ないこの時間に掃除する。

 床を水拭きしたあと乾いたモップで綺麗に水気を拭き取っていく。

 その後、手を綺麗に洗い、濡れた綺麗な布巾と乾いた綺麗な布巾でテーブルや椅子を拭いていった。

 テーブルと椅子を拭く布巾は取り替えている。


 アイクさんの店内は元からそれほど広くないので、掃除は小一時間で終了した。

 僕はついでに窓ガラスの水拭きと乾拭きや外の掃き掃除も行い、丁度正午になった。

 以前までこの時間になるとひいひい言いながら食材の下準備していたのが嘘のようだ。

 今は一息付けるだけの余裕がある。だが、一息ついている暇はない。


 昼を回ったころの為、お客さんが増え始めた。

 僕は昼食を得てから、店員になる。


「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」


「いつも頑張ってるね~。今日もいつものお願いできるかな」


 高そうな紳士服を着たお爺さんが来店し、注文してくる。


「かしこまりました。赤カニと赤エビのトマトソーススパゲッティですね。少々お待ちください」


 僕はアイクさんに注文を通し、お爺さんに水を注いだコップを持っていく。


「どうぞ」


「ありがとう」


 お爺さんは杖をカウンター席に立て掛け、椅子に深く腰を掛ける。

 黒色のシルクハットを取ると、薄くなっているが若いころをさぞかし真っ赤だっただろうと思わせる髪が現れる。

 いつも驚かされるが、この人からどこか得体のしれない強さを感じる。


「お爺さんはよく来られてますけど、いつから通っているんですか?」


「私かい。私はもう……五年くらい通ってるかね。昼になると、ここの料理が無性に食べたくなるんだよ。どこか懐かしい味がするんだ」


 お爺さんは遠目で何かを見ている。

 視線の先には何もないが、僕には瞳の奥に何かが映っているように見えた。

 ただ、いつも見ているお爺さんの横顔が、どこかで見た覚えがあるような気がしてならない。


 ――釣り目の二重瞼、凛々しい顔立ち……。どこかで見た覚えがあるんだけど、思い出せないなぁ。


 アイクさんは料理を作って品だし棚に置き、僕は受け取ってお爺さんに持っていく。


「お待たせいたしました。赤カニと赤エビのトマトソーススパゲッティです」


「おお、きたきた」


 僕はお爺さんの前にスパゲッティの盛られた皿を置いてその場を去る。


 お爺さんはゆっくりと食事を楽しみ、綺麗に食べ終わると金貨一枚を皿の隣に置いてお店を出ていく。


「あのお爺さん……。毎回、金貨を置いていくんだよな。本当は銀貨一枚と銅貨五枚なのに……。払い過ぎだよ」


 僕は数日前、値段を間違っていると思い声を掛けた。

 その時に言ったのは小銭を持ち歩くのは老体にとってきついのだそう。

 目が悪いと小銭を探すのも大変らしい。

 なので金貨一枚を置いているのだとか。


「アイクさん。あの人、いつも金貨を置いていくんですか」


「ああ、そうだ。贔屓にしてもらえて光栄なことだ」


「え……、そんなに凄い人なんですか?」


「凄いも何も、あの人は前々回の赤色の勇者だ」


 アイクさんはさらっと言った。


「えっ! あのお爺さん、赤色の勇者だったんですか!」


 僕は一瞬聞き間違えたかと思ったが、アイクさんが言うのなら間違いないのだろう。


「声が大きいぞ。周りにも人がいるんだから気をつけろ」


「す、すみません……」


 僕は口を両手で押さえて声を小さくする。


「あのお爺さん、赤色の勇者だったなんて……。まぁ、髪が赤かったしおかしくないか」


「あの方は一番長い間、赤色の勇者を務めていた凄い人なんだ。俺が子供の頃はあの方が赤色の勇者だったんだよ」


「へぇ……。やっぱり勇者も歳には勝てないんですね」


「人間である以上、老いに勝てない。今は激務を終えて余生を過ごしているみたいだ。貴重な昼の時間を使ってもらってるんだ。最高の料理を出さないとな」


「ですね」


「それにしてもキース、もう仕事に慣れたのか?」


「慣れはしましたけど、まだまだ雑な部分が多いですね。もっと丁寧にビラを配れるはずですし、皿の汚れも一段と綺麗に出来るはずです。食材の下準備も捨てる部分を最小限にできるはずなんですが、まだできていません。もう少し仕事をすれば出来るようになると思うんですけど、今、出来ないのが悔しいです」


「いや……。もう十分やりこなしているんだがな……。まぁ、向上心があることはいいことだ。これからも精進してくれ」


「はい、もちろんです」


 元赤色の勇者であるお爺さんがお店をあとにして来店する人が増え始めた。

 目まぐるしく人が入れ替わっていき、僕は息つく間もなく働く。


 その後ビラ配り、夕食に使う食材の下準備、店員、清掃員と仕事を入れ替えて働き続け、午後一一時に仕事が終わった。


「ふぅ……。今日もやり切った。あとはお風呂に入り、魔法を練習してから寝るだけだ。今日の残り時間は一時間。就寝時間が正午くらいにやっぱりなっちゃうな。もう少し早く寝たいけど、お客さんが増えすぎて時間が伸びているんだよな……」


 僕が働き始めてから七日目でアイクさんのお店が前よりも大繁盛するようになってしまった。

 理由は分からないが僕の入った時でよかったと思っている。


 僕はお風呂と寝る準備を済ませて部屋に向う。


「あ、キース君。ちょっといい?」


「ミリアさん。どうしたんですか?」


 僕は調理場にいたミリアさんに声を掛けられ、椅子に座らせられた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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毎日更新できるように頑張っていきます。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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