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白服の集団

 僕はテリアちゃんに事の経緯を話した。

 結構重たい話だったけれど、プラータちゃんは親身に聞いてくれた。

 ほんとによくできた一〇歳だと思う。


 シトラに言ったら『何弱音はいてるんですか? 早く運動したらどうですか。また私に蹴り飛ばされたいんですか』とか言ってきそう。

 実際よく蹴り飛ばされてたし……。


 話を終えた後も列車は順調に進んだ。


 ☆☆☆☆


 六日目、七日目と過ぎていくと乗車する人は目まぐるしく変わって行く。

 駅員さんも駅ごとに変わり、僕達の乗っている六両目に王都からずっと乗っているのは僕とプラータちゃんだけ。


 僕には乗り継ぎするお金はない、銀貨五枚だって手痛い出費だ。

 季節が夏でよかった。

 雪風が吹き荒れる冬だったらと思うと背中に怖気が走る。


 ――もし冬まで働き口がみつからなかったら、僕は凍え死ぬのか。いや、一応成人しているから、どこかで働かせてもらえるよ。でも三原色の魔力を持っていないからな。どこも雇ってくれないかもしれない。ダメだダメだ、暗い現実ばかり見てたら。


「ねぇ、プラータちゃん。ルフス領ってどんな所なの?」


 ――生活費を貯められるまで、ルフス領にいる。ルフス領の情報を少しでも聞いておかないと。


「そうですね。熱い人が多い、ですかね」


「熱い人?」


「はい、何でも熱心に行動する人が多い印象です。マゼンタの髪色の人は特にそうですね。赤に近づけば近づくほど、その気質が高まっていると思います。ですから、結構な頻度で喧嘩が起きます。その点が観光地として少し人気のない理由ですかね」


「そ、そうなんだ……」


 ――喧嘩か。僕、弱いからな……。大丈夫かな、また不安になってきたんだけど。


 ☆☆☆☆


 王都を出発してから八日目、それは突然だった。

 ルフス領一歩手前の街の駅に入ろうとしたとき……。


「うわぁっ!」


「きゃぁあ!」


 列車が急停止し、僕は前の座席に顔をぶつける。血は出ていないが、首が寝違えたように少々痛む。


「痛た……。いったいどうしたんだ」


 ――黒卵は割れてない。よかった。


「キースさん。み、見てください……」


 プラータちゃんは窓から見える白服の集団を指さしていた。


「何だ、あの集団。真っ白なローブを着て、素顔が全く見えない……」


 白服の集団はいつの間にか列車の周りを囲んでいた。強盗集団だろうか……。


「プラータちゃん、伏せるんだ!」


「は、はい」


 僕は窓の外から中が見えないようにプラータちゃんの頭を下げさせる。


 ――列車を止めるような集団だ。いい集団な訳がない。強盗かそれとも反社会勢力か。どちらにしろ、絶対に関わらない方がいい。


「おい! 中にいる金持ちは全員、金を列車の外に投げ出せ!」


 少年少女。どちらとも言えない声が鳴り響く。


 ――よく通る声だな。列車の中にいるのに外からの声が一音ずつしっかり聞える。まるですぐ近くにいるみたいだ。


「どうした、さっさとしろ! このまま列車を攻撃してもいいんだぞ! 炎上させた後、燃え残った金を回収してもいいんだ。ほら! さっさと出しやがれ!」


 声が聞こえると数組の老夫婦が列車の窓から袋を外へ投げ捨てる。それを切っ掛けに多くの者が硬貨を投げ捨てていった。


「ぼ、僕の金貨も……」


 僕が金貨の入った袋を投げ捨てようとした時だった。

 身の毛が逆立つほどの怖気が背筋を襲う。

 何かしら巨大な化け物に睨みつけられたような感覚だ。

 身が震えるのもつかの間、鼓膜が破れるかと思うほどの爆音が後ろの方から聞こえた。


「うわぁあ!」


「きゃぁあ!」


 プラータちゃんは僕に抱き着き、黒卵を二人のお腹で包むような体勢になる。


 車体が大きく揺れ、木の焼け焦げた臭いが車両の中で充満していた。


「おいおいおいおい! せっかく良いところだったのによ! どうしてくれんだ、このクソ野郎どもが!」


「こ、この声……。赤色の勇者。後ろの方で爆発があったから、一〇両目付近に乗ってたのか……」


 僕は窓際により、外の景色がぎりぎり見えるほど頭を上げる。

 すると僕の視界は真っ黒な煙で覆われた。眼が焼けるように痛い。息も出来ないほどの熱気が舞っている。


「キースさん、この列車から一度出ましょう! このままだと焼け死んじゃいます。早く連結部分に……って! 火がもうすぐそこまで来てます!」


「まさか車両ごと燃やすなんて……。いったい何を考えているんだ」


 六両目の後部扉から見える七両目から黒煙と火の粉がごうごうと迫ってきていた。


 ――七、八、九、一〇両目の人達は大丈夫なのだろうか。


「今は他人の心配している場合じゃないか……」


 六両目に乗っていた人たちは皆、五両目の車両に目掛けて走って行く。

 僕とプラータちゃんも身を低くして煙を吸わないように前に走る。

 すでに視界は真っ黒の煙で全く見えなかった。


「オラァぁぁぁああ! 燃えろや! 『赤色魔法:オーバーフレア』」


「くっ! 皆、いったん引くぞ! 赤色の勇者が乗っているとは計算違いだった。近くにある硬貨を握りしめて走れ!」


「どこに行くんだよ! ネズミ共が! 俺の楽しい時間を壊しやがって……。ただで済むと思うなよ! 『赤色魔法:プロミネンスストーム』」


「みんな! 青色魔法を使える者は水の壁を張るんだ! 『青色魔法:ウォーターシールド』」


「初級魔法で俺様の攻撃が止められるかよ! 燃え尽きろ!」


 フレイと思われる男の声と強盗集団の良く響く声の者が魔法を打ち合っているのか、初めの爆発よりも強い爆発が車体を襲った。

 その威力は容易に車体を吹き飛ばし、横転する。

 僕とプラータちゃんが吹き曝しの連結部分にちょうど差し掛かったところで、爆風と共に車体から投げ出された。


 僕は左手で黒卵を抱きしめて、右手でプラータちゃんの手を握っていた。

 投げ出された瞬間は視界が真っ白に染まり、熱風が押し寄せ身が焼けてしまうかと思った。


 ☆☆☆☆


「う、うぐ……。い、いったい……。どうなった……」


 僕は、爆風によって草原に投げ出され、事なきを得ていた。体の節々がずきずきと痛む。だが、数秒で痛みは引いていく。打ち身は多少あるものの、スーツが焼け焦げている程度で済んでいる。

 ふと、辺りを見渡すと、近くにプラータちゃんが倒れていた。


「うぅぐっ……」


「プラータちゃん!」


 プラータちゃんは頭から地面に打ち付けたのか、頭部から真っ赤な血を流していた。

 僕は何よりも先にプラータちゃんの頭部から流れる血を止めようと、着ているシャツを脱いで思いっきり裂く。その後、ひも状に長く伸ばして包帯の替わりにする。

 左から地面に打ち付けたのか、左側頭部からの出血がひどい。


「大丈夫。きっと助かるから……」


 僕は余ったシャツを傷口に押し当て、それを固定するように包帯替わりに割いたシャツを巻き付けていく。

 シャツは真っ白な色からあっと言う間に赤色に変わり、痛々しい。


「き、キースさん……。私……」


「大丈夫だよ、プラータちゃん。話せているから、今のところ命に別状は無いと思う。気をしっかり持つんだ」


「は、はい……」


「ハハハハハハハハハ! 愉快愉快! やはり俺には赤色が映えるな!」


 炎炎に焼かれている列車に、上裸の赤色の勇者が立っていた。


 勇者の周りに数体の黒々と焼かれた物体が転がっている。


 勇者の視線の先には団子状に身を寄せて固まっている白服たちの姿が見えた。


「はぁはぁはぁ……化け物め。現状報告、今何人いる……」


「四〇人中、一五人です……。初めの一撃で不意を突かれ二〇人ほどが……。二撃目の攻撃で間に合わなかった者が五人」


「そうか……。まずいな。このままだと確実に殺される。皆は先に逃げろ。私が少しでも時間を稼ぐ」


「そ、そんな。白の聖女様、我々には貴方様が必要なんです」


「いいから行け! ここにいても無駄死にだ。少しでも長く生き延びろ!」


「おいおいお~イ。俺から逃げられるとでも思っているのか?」


「やってみないとわからないだろ……。それに、お前は本当に勇者なのか。いったい何人の者を殺したと思っている!」


「さぁ~な。おい、ギルドマスターの女。この列車に乗ってたの、何人だ?」


 炭になっている車両の中から、赤い髪の女性がなにも着ていない状態で這い出てきた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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[気になる点] 冒頭の >僕はテリアちゃんに事の経緯を話した。 このテリアちゃんって誰なんだろう。 これまで話にでてきたっけ?
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