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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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金貨二〇〇枚の紳士服

「アイクさん。ミリアさんになんと言ったんですか。眼の下が黒くなるくらい眠そうだったミリアさんがもの凄い勢いでお店を飛び出していきましたけど……」


「別に大した言葉は言っていない。俺は五文字の言葉をあいつの耳元で囁いただけだ」


「五文字の言葉? 『しごといけ』とか、かな。でも、ミリアさんがあんな風に元気になって飛び出していったりはしないよな。全然わからない」


「気にするな。お前には関係ない」


「そうですけど……。気になるんですよね」


 五文字の言葉を頭に浮かべるが、どれもしっくりこなかった。

 考え疲れた僕は食器を片付けて、部屋に戻る。


「服を着替えて領主邸に向おう」


 着る服と言っても、何度か洗ってようやく赤みが少し抜けた白シャツとボロボロの黒ズボン。

 お店の制服で行くのはさすがに礼儀がなっていない。

 何か言われたらその時に直そう。とりあえず話を聞きに行かないと考える問題すらわからない。


 僕は服を着替えて寝ぐせのついていた髪を綺麗に整える。

 顔を洗って、歯を磨き、服以外の所は完璧に近しい状態にする。


「よし……、行こう」


 僕は身なりを出来るだけ整えて領主邸に向った。もちろん黒卵さんも一緒だ。武器は持って行かない。

 今日は戦いに行くのではなく話し合いに行くだけだ。

 領主が初っ端でシトラを返してくれるわけがない。アイクさんみたいに無理難題を押し付けてきたら、それをこなしてやればいい。


 僕は領主邸まで走って行く。

 少しでも速くついて話し合いの時間を作るためだ。

 領主とどの時間なら、話し合いが出来るのかでも知れたら成果になるはずだ。


 ☆☆☆☆


 僕は領主邸に到着した。

 大きな門の前に立っている綺麗な紳士服を着た男性に、話しかける。


「すみません。領主と話は出来ますか」


「どちら様ですか?」


「あ、えっと、初めましてキース・ドラグニティと言います」


「キースさんですか。申し訳ありませんが今、イグニス様は仕事中です。お話は出来ません」


「そうですか。それならいつ話せますか?」


「イグニス様と話すためには、服装をどうにかして来てください。そのままでは屋敷に入れられません。高級街に店を構える仕立て屋の最高級紳士服を着てまたお越しください」


「そ、そんな。少しだけでいいんです。話をさせてください」


「出来ません。イグニス様にお会いするには服装を整えるのが絶対条件です」


「わ……、わかりました……。高級なスーツを着てこればいいんですね。なら、この屋敷の中にいる銀髪の獣人族に伝えてください。絶対に助けるって」


「イグニス様に発言を通していただけるか検討します」


「よろしくお願いします」


 僕は頭を下げて、一回目の突撃を終えた。

 領主邸を離れ、高級なお店の並ぶ地域に向う。


 ――まさか、領主と話すらしてもらえないなんて。と言うか、領主邸の敷地内にすら入っていない。

 でも確かに、領主はこのルフス領で一番偉い人物。そんな人に合うのにこの服装じゃダメか。


 僕は高級なお店が並ぶ地域に到着し、仕立て屋を探す。


「仕立て屋、仕立て屋……。もしかして、ここかな……?」


 紳士服の色である黒を基調とした光沢のある木材の外壁。

 それだけで高級な店だとわかる。

 ガラス扉もあまりにも透き通っており、お店の中が丸見えだった。


 ――どうしよう。僕が入るには場違いすぎる気がする。でも、ここの最高級紳士服を買わないとシトラに合えないんだ。値段だけでも聞いて、死ぬ気で働くしかないな。


 僕は意を決してガラス扉を押す。

 仕立て屋の中は暖色の灯りを放つ魔道具が天井に吊るされており、外の空気とは全く違う世界になっていた。


「いらっしゃいませ。今日はどのような紳士服をお探しですか?」


 店員さんは女性用の紳士服をピシッと着こなしており、とてもカッコいい。

 その人がお店の入り口付近に立っており、僕に近寄ってくる。


「えっと……、値段の一番高い紳士服はいくらですかね? それを聞きに来ました」


「値段が一番高い紳士服ですか? それでしたら、ブラックスパイダーの出した糸とニグレードスネークの皮を使ったこちらの商品ですね」


 店員さんは僕を一着の紳士服の前に連れて行った。そこにあったのはガラス張りの展示用箱。

 展示されている紳士服はあまりにも黒く、光を全て吸収しているように見える。


「す、すごい……。真っ黒だ」


「こちらの紳士服のお値段は金貨二〇〇枚となっております」


「金貨、二……、二〇〇枚! 税金込みですか?」


「はい。税金込みで金貨二〇〇枚です」


「わ、わかりました。僕、この紳士服を絶対に買うので取っておいてください」


「そう言われましても……、取り置きできるのは購入を保証できる方だけでして。金貨八枚程先にお支払いいただきたいのですが、可能ですか?」


「金貨八枚ならあります。えっと、僕が買わないと言った場合は金貨八枚がなくなるということですよね」


「そうなります」


「わかりました。金貨八枚でこの紳士服を取り置きしておきます」


「取り置き期間は三ヶ月ほどとなりますが、よろしいですか?」


「その時に金貨八枚をもう一度払えば取り置きできるんですよね?」


「はい。可能です」


「わかりました。三ヶ月後、またここに来ます」


「了解しました。お待ちしております」


 僕は店員さんに金貨八枚を手渡し、お店を出た。


「僕のもとから持っていた金貨とリークさんから前貰った金貨があったおかげで何とか取り置きで来た……」


 えっと三ヶ月後だから、約九〇日。この間に金貨二〇〇枚を貯めればいいんだ。

 一日約金貨二枚。アイクさんのお店でいくらもらえるのかまだわからないけど、間に合わなかったら、金貨八枚をまた支払って取り置きすればいい。

 今回は生きるか死ぬかの戦いじゃない。僕が仕事をコツコツとやり続ければ絶対に溜められる。


「僕の根性の強さはアイクさんのお店で証明されているんだ。イグニスさん、いつか絶対に会ってシトラを返してもらいますから」


 僕は急いでアイクさんのお店に帰った。

 今、お店の中は修理中らしく作業員が魔法を使って治している。

 お邪魔するのも悪いと思い、そそくさとアイクさんがいるであろう書斎に向う。

 書斎に到着した僕は扉を三回叩き、アイクさんがいるかを確認する。


「キースです。アイクさんはいますか?」


「開いてるぞ」


 アイクさんの声が部屋の中からした。


「失礼します」


 僕は扉の取っ手を握り、下げながら押し込む。

 部屋に入るとアイクさんは椅子に座り、机で本を読んでいた。


「あの、アイクさん。お聞きしたいんですけど仕事の報酬はいくらですか?」


「仕事の報酬? そう言えばまだ言ってなかったか。時給は銀貨二枚だ。キースの働きしだいでもっと増やしてやってもいい」


「時給銀貨二枚ですね。わかりました」


「なんだ。買いたい物でもあるのか?」


「はい。紳士服を買いたいんです」


「紳士服か、結構高い買い物だな。いくらなんだ?」


「金貨二〇〇枚です」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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