フレイの気持ち
すっごく大きい家だ。さすが領主。
きっとここまで家が大きいと使用人を何人も雇っているんだろう。
使用人の人件費に土地の税金、修繕費やら沢山お金がかかる。
王都の貴族とは違い、家の装飾はさほどされていなかった。
領主邸はレンガや石造りの建物だった。赤レンガが基調で、とてもルフス領っぽい。
大きいが質素で景観を損ねていない。
庭の手入れもされており、雑草の一本でも綺麗な草に見える。
悪い領主が済んでいるような場所には見えない。
家は性格の鏡だ。綺麗にしているところを見ると几帳面な人なんだろう。
領主邸の敷地の周りに雑草やゴミが全くない。相当綺麗好きなのだろう。
シトラと相性がよさそうな領主だ。
「って、相手を褒めてどうするんだ。今からその領主からシトラを奪い返さないと行けないのに」
奪い返すというと、僕が悪者みたいだな。と言うか、シトラは元々僕のものじゃない。
いやいや、家族を迎えに来ただけだ。
――僕はシトラのことを考えると、どうも熱くなってしまうところがあるな。
僕は領主邸の近くで領主邸の観察を少し行っていた。
三〇分ほど過ぎたころ、聞き覚えのある大きな声が聞えてきた。
「うるせえな! 毎回毎回! お前に説教される筋合いはない! 俺は帰る!」
「ちょっと待て、フレイ。素行をいいかげん改めろ。このままだとさらに信用を無くすぞ!」
「俺の信用があろうが無かろうがお前には関係ないだろ! 俺は自分の生きたいように生きているんだ。お前らの道具になった気はさらさらない!」
「関係ある。お前はルフス領の顔なんだぞ。お前の評価がルフス領の評価につながるんだ。
それにも拘わらず、なぜ評価を下げるような行動しかできない。
魔物を普通に討伐し、プルウィウス王国に貢献していればいいんだ。それくらい簡単だろ。そうしてくれるだけでルフス領の評価が上がる。
昔のような野蛮な領土にしたくないだろ。今は俺の考案でルフス領が変わりつつある。このまま行けば、教育にもさらに力を入れられるはずだ」
「ルフス領の為……、領民の為……、俺はそんなこと微塵も思ったことがない。はっきり言ってどうでもいい。マジで面倒だ。
俺はルフス領に思い入れなんかまったくない。はっきり言って嫌いだ。何で俺が勇者になったかと聞かれれば、待遇がいいからに決まっている。
誰かの為なんかじゃねえ。俺の為に勇者をやってるんだよ。俺が何をしようがお前に指図される筋合いは全くない!」
「お前の放つ魔法で多くの者が死ぬんだぞ。昨日だって大量の死人が出ていた可能性があった。もし、それが公になったらどうする気だ!」
「皆、こういうさ。『勇者なら仕方ない』ってな。大体これで治まりがつく。ほんといいご身分だよな、勇者って言うのはよ。時には王よりも偉い存在になれる。それだけしたわれているんだ。勇者っていう存在は!」
「だから何をしても許されると言いたいのか……」
「ああ、そうだ。勇者ならたとえ領土を半分火の海にしようがそれ相応の理由があれば許される。敵国が攻めてきたとか、魔王軍が攻めてきたとか、魔物の大群が攻めてきたとかな。実際、敵がいなくても俺の魔法で消し飛ばしたと言えば、大概の奴らは信じる。なんせ俺は勇者だからな」
「クソ野郎が……」
「言ってろ。逆に俺が勇者じゃなくなってもルフス領は終わりだろ。次の勇者候補でも探し回った方が時間を有効活用できるんじゃないか。勇者候補にすらなれなかったイグニスのおっさん。恨むのなら自分の弱さを恨むんだな」
「く……。さっさと帰れ」
「言われなくても帰るに決まってるだろ。こんなむさ苦しい所は、二度とごめんだ。『赤色魔法:炎の翼』」
フレイは背中から炎の翼を出現させ領主邸の玄関から飛び立ち去っていった。
「くっそ!」
イグニスさんは握りこぶしを作り、入り口の扉を殴りへこませる。
「直しておけ」
「了解しました」
領主の裏にいた紳士服を着たマゼンタ髪の男が凹んだ扉に手を翳す。
手を放したときには元通りになっていた。
「凄い、何の魔法だろう。いいなぁ。いろんなものを直せそうだ」
僕は領主邸の窓から働いているシトラが見えないか、現在地からもう少し身を乗り出して屋敷内を覗こうとするも、さすがにこれ以上は犯罪になりかねないので、領主邸をあとにする。
もう少し日が昇ったらまた来よう。
☆☆☆☆
僕は朝食の為にアイクさんのお店に戻った。
入口から入り、そのまま調理場に向った。
時間は午前七時くらいだ。
仕事をしている時と全く同じ時間の感覚で動いているため、休みと言う気がしない。
僕は手洗いうがいを済ませたあと、料理台の上に置かれている朝食を得る。
いつもこの時間になると朝食が置かれているなんてすごい贅沢だ。
――僕も自分で料理を作れるようになりたいな。アイクさんのもとで料理をしっかりと学ぼう。それで、シトラと一緒に料理を作るんだ。
僕が朝食に手をつけようとしたころ。
「うぅ……ただいま。はぁ、眠い……。でも、今から仕事に行かないと……」
徹夜したミリアさんが帰ってきた。顔がやつれ、化粧が落ちかけている。眼の下のクマが酷い。相当眠そうだ。
「アイク……緑の瓶、飲んでいい?」
「いいが、朝食を食べてからにしろ。液体も胃に入らなくなるぞ」
「はぁ~い……。あ、これ、夜食の弁当箱。これのおかげで頑張れた……」
「そうか。ならよかった。今日の昼食は活力が着く食べ物を入れておいたから、頑張って仕事に行ってこい」
「あぁ、仕事休みたい……。でも、今休んだら仕事が溜まる……」
ミリアさんは料理台に突っ伏したまま眠ってしまった。
「おい、起きろ。朝食が冷める」
アイクさんはミリアさんの肩を揺すり、眼を覚まさせる。
「あぁ~ん、ねむいの~。このままじゃ仕事頑張れない~」
――ミリアさん、寝不足で凄い子供みたいになってる。
「何、子供みたいなこと言っているんだ。料理をさっさと食べて仕事に行け」
「じゃぁ、アイクが私の眼を覚ましてよぉ。覚めたら、仕事行くから」
「たっく……仕方ない奴だな。一度だけだぞ」
「な、何するの、痛いのはなしだよ……」
ミリアさんは自分で言っておいて、何をされるのか怖がっていた。
「分かってる。耳かせ」
「ん?」
アイクさんはミリアさんの耳元に口を持っていく。何かつぶやくとミリアさんの顔が一瞬で赤くなり、眼を見開いてアイクさんの方を向く。
「眼は冷めたか?」
「う、うん……。一瞬で覚めた……」
「じゃあ、料理を食べて仕事に行ってこい」
「は、はい! わかりました!」
ミリアさんはいつもの朝よりもはきはきと動き、数分で朝食を食べ終え、お風呂場の方に向い化粧を直してきたあと、弁当を持って仕事に向った。
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