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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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お風呂場でシトラのことを考える

 酔った三人は話に方向性がなくなり、突拍子もない会話が始まる。


 僕は内容についていけず、先にお風呂場に向った。

 脱衣所で服を脱ぎ、今まで懐に入れていた包丁とシトラの鉄首輪を新しい服の上に置く。

 黒卵さんを革製の袋から出し、抱えながらお風呂場に入った。


「はぁ、酔っぱらいの相手は出来ないよ……」


 僕は体の汗をお風呂のお湯で洗い流したあと、足先からお風呂の中にはいる。

 体にじんわりと広がっていくお湯の温かさがとても気持ちがいい。もう、お風呂がない生活は難しいかもしれない。


「今日も色々あったな。包丁を貰ってフレイのことを少し知った。これだけでも疲れたのに、酔っぱらいの相手まではさすがに勘弁願うよ」


 僕は少し余裕が持てたため、シトラのことを真剣に考える。


「シトラはお風呂に入れてもらえてるのかな。いや、お風呂なんて毎日入れてもらえるわけないか。水で体を拭かせてもらっているだけでもありがたかったもんな……」


 少なからず、仕事はできる。お金が稼げる。シトラに頼らなくても生きていく基盤がある。今なら、シトラを迎えに行ける。


「明日は臨時休業ってアイクさんが言っていた。シトラに合いに行こう。領主に何て言われるかわからないけど、何か言われたら、正々堂々とやりこなせばいいだけだ」


 僕はシトラに早く会いたくて仕方がなかった。

 今ならシトラを支えられる。

 お金はまだ稼げてないが稼げる環境は整った。

 あとは僕が労力を惜しまず一心に仕事をするだけだ。

 昨日までずっときつい仕事をこなしてきた。僕ならできるはずだ。


 ――大丈夫、僕ならできる!


 そう言い聞かせてシトラとあったら何を話そうかと考える。


「出会って早々に告白するのはありかな。いや、さすがになしか。逆に結婚してくれと頼むのも……。シトラに会えるだけでもよしとするか。仕事を早く覚えられるように頑張ろう」


 僕はお風呂の中で拳を掲げ、仕事への熱意を込めた。


「あ、そう言えば黒卵さんってスペシャルウエポンだったんですか?」


 黒卵さんからの反応は無し。


「黒卵さんが道具って気もしないんだよな。ぜったいに生きている。じゃあ、何でアイクさんは持ち上げられなかったんだろう……」


 黒卵さんが生まれてくるまであと五ヶ月くらい。

 今は九月の始まり、来年の二月くらいに生まれる予定だ。

 その間ずっと僕の近くに置いておかないといけない。全然苦ではない。

 もう一ヶ月継続できてる。あと五回同じように時間を過ごせばいい。


「黒卵さんは命の恩人……いや、恩卵なのか。でもそうなると温玉になっちゃうね」


 黒卵さんからは返答が返ってこない。だが、どこか脈打つ鼓動は感じ取れる。

 程かな、温かさがあり、殻の中で確実に生きている。


 ――僕が親代わりと言ったら変だけど、助けてもらったお礼に孵化の手伝いをしてあげたい。

 生まれたらどうなるのかすごく気になる。産まれてくる子供を待つ親の気持ちが少しわかった気がするよ。


 その後、僕はお風呂場で体と黒卵さんを洗い、石鹸を綺麗に流したあとお風呂に再度入り、体を温め直す。

 体のほてりが強くなってきたころにお風呂を出て脱衣所に戻った。


 僕は乾いた布を使って体の水気を取り、黒卵さんに着いた水気を拭く。

 服を着替えたあと、懐に包丁と鉄首輪を入れて大人たちの様子を見に行くため、食堂に向った。


「おぇ……。飲み過ぎた……」


 エルツさんが麻袋に嘔吐している。


「うっぷ……、さすがに悪酔いしちゃったみたいですね……。アイクさん、トイレを借ります」


 リークさんは口元を手で押さえ、よろめきながらトイレに向っていく。


「リーク、嘔吐したらちゃんと流せよ」


「はぁい……、うっぷ……」


 僕が戻ったころには、その場でしゃんとしていたのはアイクさんだけだった。

 片手にガラス製のグラスを持ち、葡萄酒を入れて優雅に飲んでいる。

 酔っている様子が一切見えない。


 ――凄い、大人だ……。か、かっこいい……。


「おお、キース。風呂に入ってきたのか?」


「はい。さすがにこの場には、いられませんから」


「キースはこういった大人にはなるなよ。まぁ、冒険者っているのは大抵こんな奴らなんだがな。べつに、酒は飲んでもいいが自分の限界を知っておかないと駄目だぞ」


 アイクさんはしっかりと話した。呂律が周り、説明が通っている。


「わかっています。反面教師がいるのでありがたいです」


「はは……、反面教師か……。そうだな、俺達からとことん学んでくれ……、う、おろろ……」


 エルツさんはさらに吐いてしまった。


「それじゃあアイクさん、僕はそろそろ寝ますね」


「しっかり休むといい。明日、業者に来てもらうから、店はすぐに直るはずだ。明後日から仕事を再開する。体調だけは整えておけよ」


「はい、わかりました。それじゃあ、お休みなさい」


「ああ、お休み」


 ――アイクさんにお休みって言われたの初めてな気がする。

 もしかして、お酒飲んでるから気分が良くなっているのかも。それか、少しだけ甘くなっているのかもしれないな。

 アイクさんにもそんな一面があったんだ。


 僕はアイクさんの新しい一面を発見して少しうれしくなった。

 いい気分のまま、部屋に戻る。


 僕は部屋に入り、机の上に包丁と鉄首輪を置いてベッドに倒れ込むようにして寝ころんだ。


「安息の地……ベッド。この場所にくると勝手に眠たくなってしまう。明日がいい日になるよう、神様に祈りを」


 僕は黒卵さんを抱きしめながら眠った。


 ☆☆☆☆


「ふぁ~、よく寝た……。さて、今は何時くらいかな?」


 僕は部屋に飾られている時計を見る。

 午前五時前。


「ちょっと早い気もするけど起きよう。仕事は見つかったとはいえ、いつどうなるかわからない。健康な体は維持しておかないと」


 健康な体になるためには運動が大切だと兄さんから聞いた覚えがある。


「少し走ってこようかな。そうすれば目が覚めるし体も起こせる」


 僕は黒卵さんを抱き上げて部屋を出た。

 そのままお店の出入り口を通って外に向かう。

 外に出ると空がうっすらと白んでいた。よく晴れている。それだけで気分がいい。季節が夏と秋の間で気温が苦しくなく、さっぱりしていた。

 ビラ配りと同じ速度で走り始める。

 別にもっとゆっくりでもいいのだが、本気でやるのなら記録を更新したい。

 二週間の仕事によって、僕は自分とのちょっとした勝負に楽しさを覚えてしまっていた。


「朝一番なのに脚の回転が速い。調子がいい。人が出てくると危ないから、大通の道を走ろう。今の時間は馬車や荷台が全く走っていないから清々しいく走れるぞ」


 僕はいつものように楽しく走っていた。

 一時間ほど走った後、領主邸の近くを通りかかったので下見がてら様子をうかがいに足を運ぶ。

 実際、プラータちゃんから話を聞いただけで、ルフス領に来て一度も領主邸に訪れていなかった。

 なので未だにどのような建物なのか知らない。

 走っている途中、少しだけ見える建物があったくらいの認識しかない。


「さてと、どんな場所なのかな……」


 いきなり入口に向う勇気はなかったので、遠目から建物を見る。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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