混浴
僕は低いランクの依頼を受けて軽くこなし、お金を貰う。
夕方ごろに、メジさん達と漁に出る。
魚たちを沢山捕まえて、ボートに積んだ魚をカエルラギルドに運ぶ。
魚は種類や量によって値段が決まり、カエルラギルドが購入する。その魚はカエルラ領の復興作業に当たっている騎士達が消費する。
食費は騎士団持ちなので、国が払う。その売り上げがカエルラギルドに入る。税金によってカエルラ領が潤う。何とも、質が良い循環になっていた。前と大違いだ。
仕事が終われば宮廷に戻り、シトラとミル、アルブの四名と共に食事を取り、お風呂に入る。広めのお風呂で、ほぼ貸し切り状態。ほぼの理由は、
「キース君、ちょうどよかった」
僕たちがお風呂に入っていると、緑色の髪の女性が手を振りながらお風呂場に現れる。
混浴の風呂で、お風呂の時間が被れば、僕たち以外の者と鉢あう可能性がある。
といっても、宮廷で寝泊まりしているのは僕たちとプラスさん、キュアノだけなので問題ないといったら違うと思うが、問題が起こりにくい。
プラスさんは体に掛け湯して、真っ白な肌をお湯の中に静める。そのまま、ちゃぷちゃぷと波紋をたてながら近づいてくる。
「あぁ~。幸せぇ~」
プラスさんは僕の体に抱き着きながら、お酒でも飲んでいるのかと思うほど柔らかい声を出す。
毎日仕事で忙しい彼女の息抜きの時間。ミルとシトラは遠慮して先に体を洗いにいく。プラスさんの仕事の辛さがよくわかっているから、何の不満もないのだろう。
「もう、私、キース君のために仕事しているみたいなもんだよ~」
プラスさんは猫なで声のまま、僕に擦り寄ってくる。魔力が移動する感覚から、彼女の疲労が肌感でわかった。後頭部を優しく撫で、疲れを少しでも癒してもらう。
「プラスさん、お疲れ様でした。プラスさんのおかげで、カエルラ領の方達がとても助かっているはずです。毎日お仕事がんばれてとても偉いです。さすが年上のお姉さん」
僕はプラスさんを褒めまくる。彼女は褒めると伸びる。以前、彼女を強くしたときにわかったことだった。
「えへ、えへぇ、えぇぇへぇぇへぇへぇえ」
プラスさんの顔が、とろとろに溶けていく。褒められるだけで、心の底からほぐされていくようだ。
「プラスさんがどんどんキースに沼っているわ……」
「このままじゃ、キースさんがいないと生きていけない体になってしまいそうです」
シトラとミルは体を洗いながら僕たちの方を見ていた。プラスさんの状態を見て、今後を危惧しているようだった。誰かに依存し過ぎるのは危険な状況に陥りやすい。
「あら……、鉢あうなんて珍しい」
プラスさんがいる時に、今日初めて鉢あったキュアノがお風呂にやってくる。
布を体の前に垂らし、隠れる部分はしっかりと隠れている。まあ、出ている部分が無いので隠れやすいのだろう。
「な、なな……。キュ、キュアノさん。なぜここに……。いつもは避けてたはず……」
「ちょっとね。今日からは入ってもいいかなって思って」
キュアノは体に掛け湯してプラスさんと反対側に入ってくる。
「ど、どういうこと……」
「私もキースと結婚するの。ただそれだけのことよ」
「にゃ、にゃ、にゃんですとぉおおおおおおおっ!」
プラスさんはキュアノと僕を見回す。首がそのまま、捥げてしまいそうだ。
「うるさいわね。お風呂は静かに入りなさいよ」
キュアノとプラスさんが喧嘩になってしまいそうだったので、僕はプラスさんに事の経緯を説明した。
「ぷぷ……、誰にも振り向いてもらえなくて、キース君に貰われたんだ」
「ぐぬぬ。も、貰われたんじゃない。貰われてやったのよ。私があまりものみたいなこと言わないでくれる。どうせ、あんたもその口なんでしょ」
「くっ……、ち、違うもん。私は純粋な心でキース君を好きになったんだもん」
「私だってそうよ! 心の底から、キースのことが好きになったんだから!」
青髪と緑髪の勇者が喧嘩なんて、みっともない。なんなら、両者の三原色の魔力が少しずつずれている。
「二人共、落ちついて。喧嘩は良くないよ。絶対に良くない」
僕は両者の腹を抱えるように引き寄せ、しっかりと座らせる。
「お風呂は落ち着いてゆっくり入るところ。騒がしくしたら、怒られるよ」
僕の発言に両者はグッと口をつぐみ、規則を守ってくれた。数が増えると、喧嘩も増える。信頼関係がなかったら、真面な生活も難しい。
「私も、仕事頑張ったのに……」
キュアノは斜め下方向を見ながらぼそっと呟いた。僕がプラスさんを褒めているところを見ていたのかもしれない。
僕はキュアノの頭をポンポンと撫でながら小さな耳に口もとを少し近づける。さすが、青の勇者だね、と呟き、ほど良く褒める。
両者が体を洗いに行ったら、シトラとミルが戻ってくる。
「うぅ……、やっぱり、数が増えると甘えられる回数も減っちゃいそうです……」
「そうね……。でも、二人がキースと一緒に生活するのはまだ先だから、その間は私たちが独占出来るわ」
シトラとミルに腕を掴まれる。数が増えたら、僕は甘えられる回数が増える。逆に、皆は甘える回数が減る。そうなると、皆に鬱憤が溜まる可能性が高い。数が多い時は皆を一変に愛した方が、効率がいいんじゃないだろうか。
キュアノやプラスさんともども、魔力の量が多くなって安定していなかった。獣族に無色の魔力が溜まって発情するのと同じように、人も近しい現象が起きているんじゃなかろうか。
「今日、皆で寝る?」
「四人なら、キースも満足できるかしら……」
「余裕をもってキースさんを幸せにさせてあげられるかもしれません。今までは、ボコボコにされちゃってましたけど、今日こそ、キースさんを滅茶苦茶にしてやります!」
なぜか、僕が四人一気に愛す話になっていた。後方から花の香りと冷気が迫る。両者の魔力が自然に出てしまっているようだった。
「えっと……、キュアノは初めてだと思うから、シトラとミルは困っていたら助けてあげて」
僕はシトラとミルにぼそぼそと呟いておく。僕が入っているとわかっておきながら入ってくるということは、おそらくそいうつもりなのだろう。キュアノはわかりやすい性格なので、助かる。




