祝いの席
「ドワーフの金槌を六時間……。はは……。そう言われると規格外の筋力でも納得できますね」
「あの重さを六時間も振ってたのか。俺も昔持たせてもらったが、一回持ち上げるだけでも、相当苦労したぞ」
リークさんとエルツさんは僕を見て、いったい何者なんだといった疑いの目を向けてくる。
「おい、二人とも。今は食事の時間だ。あと、エルツ、この修繕費は出してもらうぞ」
「く……、わかった」
「ご、ごめんなさい。エルツさん、僕も半分出しますから」
「いや、俺は勝負に負けた。敗者が金を払うのは冒険者の仕来りみたいなものだ。だから修繕費は俺が出す。あと、さっきの力、すっげー痺れたぜ。いつの間にそんなに強くなったんだ」
エルツさんは僕の下げている頭を笑いながら撫でてきた。
「あ、ありがとうございます」
――いったい何で勝てたんだ。僕に力が着いたのか。でも、見た目は全く変わっていないし、筋肉痛にもなっていない。
自分が強くなったと勘違いするのは危ない。きっと何か別の原因があるはずだ。
僕は要因を考える。
ただ、思い当たる節が全くない。
――考えられるのは、黒卵さんしかないけど今は寝ている。魔力を使っている痕跡もない。じゃあ、何で僕の力がこんなに上がっているんだ。
僕は疑問に思いながらも、別の席に移動しアイクさんの美味しい料理を頬張る。
「キース、明日も臨時休業だ。この状態で客は入れられない」
「そうですよね……。本当にすみませんでした」
「大丈夫だ。リークから家賃として一日の売上金を巻き上げるからな。あと今回の食事代も全部リークのおごりだ」
「ぶっ! ちょ、アイクさんそんな話は聞いていませんよ!」
リークさんは貪り食っていた料理を噴き出して、アイクさんに近寄る。
「この中で一番稼いでいるのはリークだろ。加えて、フレイの情報で大金を儲けたそうじゃないか。その金は還元してもらわないとな」
「はは……、冗談がきついですよ、アイクさん。もう少し甘めでお願いしますよ」
「冗談を言っているつもりはない。まぁ、金を出したくないなら今からでも宿を取りに行くんだな。お前を家にいれていたら、どんな情報を抜き取られるか分かったもんじゃない」
「もう、僕って本当に信用度薄いんですね。情報屋は信用が命だと思うんですけど」
「なら、信用されるようなことをしてから、もう一度来るんだな。実際、今日の事件だってお前が絡んでるんだろ」
アイクさんがリークさんを睨む。
「…………てへ!」
リークさんは舌を出してバカっぽい人を演じた。
「燃やすぞ……」
アイクさんは手から炎を出して、リークさんに向ける。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。僕はただ盗み聞きしてただけですよ」
「盗み聞き……。それがどうして火事になるんだ」
「フレイの奴が僕の髪色に反応したんです」
「髪色……、藍色にか? お前、その時はフードかぶってなかったのか?」
「いや、そこの店は高級な飲み屋……、まあ風俗ですよ。顔の見えない客は相手してくれないじゃないですか。顔は変装してましたけど、藍色の髪は受けがいいので変えなかったんです」
「お前、仕事がてら楽しんでただろ」
「いや、まったく、べつに、全然、大きなおっぱいを揉みたくて行ったとかじゃありませんよ」
「……お前への信頼が全く上がらない」
「男なんですから、僕にだってそう言う時くらいありますよ」
「まぁ、この際どうでもいい。それで、髪色に反応したって言うのは本当か?」
「本当です。ここからは、この店に一泊させてもらえたら教えますよ」
――リークさんは情報を使って、お店で止まる権利を得るつもりだ。凄い、これが情報の力。
「ちっ、分かった。一泊だな。それで、続きを聞かせろ」
「焦らないでくださいよ、アイクさん」
「もったいぶらずに、さっさと言え。なんでフレイは藍色の髪に反応したんだ」
「黒髪、だそうです」
「黒髪……」
――く、黒髪……。ぼ、僕のことか。
「黒髪、何で黒髪なんて言葉が出てくるんだ?」
「さぁ、そこまでは分かりませんが。酔っぱらっていたフレイは僕を『黒髪』と言って赤色魔法を放ってきました。そのせいで髪が少し焦げましたよ。本当に黒髪になるところでした」
「黒髪がいったい何に関係しているんだ。勇者の伝説に黒髪の者が出てくるが、フレイはそいつに嫉妬心でも燃やしているのか」
「いたとしたら王国が放っておきませんし、と言うか生まれた時点で有名人ですよ。黒い目の人すらほぼいないんですから」
「だよな……。だが、フレイが無断で攻撃するとしたら、喧嘩を売られた時か、ののしられた時、強い者を見た時くらいだからな」
「確かに黒髪は最も魔力の質が高く強いと言われています。実在するのかもわからない架空の人物。そんな人物の髪色を言いながら攻撃してくるなんて、酔っていたとしても不自然です」
「ああ……。領主なら何か知っているのかもしれないが、俺達には教えられていないな」
――あの火事……。僕が原因だったのか。ああ、ごめんなさい娼婦の皆さん。
フレイは未だに黒髪を敵視している。また今回みたいな事件を起こされると、僕の心が痛んでしまう。
髪色が暗い人は中々いないから頻繁に起きたりはしないと思う。
少ない回数でも、事件が起こったら死者が出るかもしれない。
そうなったら、遠回しに僕のせいになってしまう。ただ、どうしたらいいんだ。フレイの記憶から黒髪を抜くなんて絶対に出来ないぞ。
「だが一つ言えるのは、リーク、お前はフレイの前で顔出すな。それだけだ」
「そうですね。今度からは自重しますよ」
☆☆☆☆
「それで~、ぼいんぼいんって、凄かったんですよ~」
「た~、俺も見ておけばよかった~。リーク、何でそれを早く言ってくれなかったんだ」
「だって~、僕が火の中から助け出して~、持ち上げる時に無理ない程度に触れるあの高揚感、もうたまらんですよ~」
「か~羨ましい奴め~」
「おい、お前ら飲み過ぎだぞ。もう少し大人の自覚をもってだな。このままじゃ、フレイの二の舞いになるぞ」
「も~、アイクさんは硬すぎるんですよ~、もっとふにゃふにゃになりましょう~」
「ふざけるな、俺はいつまでも硬いんだよ」
アイクさん達は途中からお酒を飲み始めて酔っぱらっていた。
僕はまだ飲む気にならないので、遠慮しておいた。




