奴隷への情
「ぼくたちも、超ぜつ溜まってますから、抜け駆けは駄目ですよ……」
「わたしたちよりも先にキースに愛されようなんて良い身分になったものね……」
ミルとシトラはイライラしている様子。半月ほど離れて暮らしていたので何があったのかわからないが、機嫌が悪いのは確かだ。
「も、もちろん。私はまだ結婚してないし、緑色の勇者としての仕事の方が大切だからぁ……」
プラスさんは泣きたそうな表情を浮かべ、カエルラ領の中に走って行った。
「キースさん……、ぼく、もう、我慢できそうにないです……」
「キースのにおいを久しぶりに嗅いだだけで……、体が、心が、言うこと言きかないの……」
ミルとシトラは久しぶりに発情しており、鼻息荒めに僕に近づいてきている。だが、家も無ければ真面な建物もない。外で二人を愛するわけにもいかないし、はてさてどうしたものか。
僕はミルとシトラにぎゅっと抱き着く。ずっとほしかった温もりがここにある。両者も僕に抱き着いて来て、尻尾を盛大に振っていた。とりあえず、魔力を吸っておく。急激な発情は納まるはずだ。
「二人共、今はカエルラ領の復興活動に随時しよう。そうじゃないと、気が散ってしまう」
「うぅ……、キースさんはぼくたちよりカエルラ領の方が大切なんですか……」
ミルは金色の瞳を僕に向けてくる。ふるふると揺れており、涙が溜まっている。両者よりも大切な者なんて無い。お金や宝石なんかよりもずっと大切だ。でも、僕たちが愛しあう時間は今後いくらでも作れる。
カエルラ領の人達が安心して生活できるようになるために時間は取りにくい。今が一番大変な時だと思うので、出来る限り力を貸したかった。
「はぁ……、お人よしだから、仕方ないわよ……。私達は夫の意思に従う。妻はそういう者でしょ」
シトラにそう言われると僕の心がずきっと痛む。僕だけの意見ではなく、皆の意見が大切だ。僕の考えだけに付いてくるなんて、奴隷と変わらないじゃないか。
「シトラ、僕たちは家族だ。カエルラ領の方が大切なわけがない。そのことはわかってほしい。多分、僕の自己満足のために、二人を待たせると思う……。ごめん」
「ううん、私たちだって、キースに愛されたいって言う自己満足だもの、多くの人を助けたいと思う気持ちの方が大切だわ……。でも、その分、私たちを……愛してね」
シトラは銀髪を潮風に靡かせながら小さな声で呟く。真っ白な頬がほのかに赤くなっており、自分で言って自分で恥ずかしくなっているようだ。そう言う自爆しちゃうところも可愛くて仕方がない。
「王都に行ったら、ライアンに会った。ライアンはティナさんと結婚して子供が出来たらしい」
僕がシトラの羞恥心をかき消すために話題を変える。すると、両者共に驚愕していた。あのライアンがティナさんと結婚したのかと言う点と、子供が出来たという点に。
「さ、先こされたぁああああああああああああっ!」
ミルは頭に手を当てて、髪をグシャグシャと乱す。結婚の方よりも、子供が出来たという点に何か思うところがあるのだろう。
「うぅ……。まさか、あのティナさんがライアンと子供を作っているとは……」
シトラもティナさんと仲良くなっていたため、自分たちより先に母親になってしまったのが悔しいのだろうか。いや、どこか、嬉しそう。何だかんだライアンはいい男なので、ティナさんを幸せにするとわかっているのかもしれない。
「はぁー、ぼくたちもティナさんと歳が近いんですけどねー」
ミルは僕の方を見ながらブツブツ言っている。人一倍子供を欲しがっているので、羨ましいのだろう。ただ、あっちはクサントス領に永住している。僕たちはまだ、住む場所を決めていない。だから子供は作れない。それは、ミルやシトラもわかっているはずだ。
「ま、まだ、子供は難しいかな……。さ、さあ、頑張ってカエルラ領を綺麗にしよう。本格的に冬になる前に片付けないと多くの人が凍死しちゃうよ」
一一月なので、もう雪が降ってもおかしくない寒さになっている。獣族ならまだしも、人族の体は弱い。子供が冬の外にいたら死んでしまう。
プラスさんが緑色魔法で簡易的な家を作り出す。家と言うにははばかりだが、雨風が防げるだけマシな建物だ。草木を生やせるというのは便利だなぁと思いながら、魔力が枯渇した彼女に無色の魔力を渡す。
何度も繰り返していれば、避難所が何カ所も作れた。それだけで、少し進歩したように見える。
皆、必死に働き、カエルラ領を少しでももとに戻そうと努力を続ける。だからと言ってすぐに元に戻るほど、復興は簡単じゃない。
ボロボロになった下水管や水道管など直す場所はいくらでもある。材料我残っていればアルブの力で元に戻せるのだが、波に攫われた品が多く、不完全な修復になってしまう。しっかりと直した方が将来的に安全なので、僕の手は加えないことにした。そう考えると水族館の方も、しっかりと点検してもらった方がいいな。
ドワーフたちも土木工事などでカエルラ領に来ていた。首に鉄首輪をつけた奴隷たちも……。今はとにかく人手が欲しいのだろう。人や獣族の奴隷が泥や瓦礫を回収していく。どれだけ働いてもまともな賃金はもらえない。
カエルラ領に住む獣族達は、奴隷にされた獣族達を見るのが初めてではないはずだが、同族が奴隷になっている姿を見るのは辛いのだろう。
僕も人が奴隷として働かさられている姿を見るのは辛い。だが、奴隷になるのは何かしら理由がある。もちろん真面な理由ばかりじゃないだろう。攫われて売られるというのもある。だが、奴隷のほとんどが犯罪に手を染めたものたちだ。奴隷落ちと言うやつか。
あまり深く考えてはいけない。出来る限り情を薄く……したいが、そう簡単にいかない。子供の奴隷だったり、女性の奴隷だったり、目をそむけたくなる点と多々遭遇する。
奴隷制度の撤廃も示唆されているが、まだまだ先の話になりそうだ。
僕たちは簡易的な建物で寝泊まり出来れば十分だったのだけれど、国王が融通を利かせてくれたのか宮廷で寝泊まり出来るようになった。一泊金貨一〇〇枚以上する宿として利用出来たが、今もお金を払う必要があるわけではない。
水は問題なく使える。下水も生きていた。初代国王の魔力のおかげだろうか。




