復興
水族館の中を掃除したり、これからの営業計画をどうするのか考えたり、他のカエルラ領民たちより何倍もやる気に満ちている。
その中で、一番やる気があったと言ってもいいのがキュアノだった。
「冒険者ギルドの立て直し? 貴族の屋敷の改修工事? はぁ? 知るかそんなもん! どこよりも早く、水族館を立て直すのが先だろうが!」
キュアノは従業員たちを鼓舞するように叫び、自分を奮い立たせていた。水族館で働くのが夢だった彼女にとって、不本意ながら楽しいと思ってしまっている様子。
日常生活は壊滅しているが、仕事が楽しいと思えるなんて、ありえないとでも言わんばかり。
僕はそんな人生を謳歌している彼女の姿を近すぎず、遠すぎない距離で見守っていた。
キュアノのようにずっと水族館に構っているわけにもいかず、カエルラ冒険者ギルドがあった場所に顔を出す。建物は完全に壊れているが、土地は残っているため、木材を組み立てて作った受付所に受付嬢たちが……いない。皆、ギルドの立て直しを図るために、労働を泣きながらしていた。
「おらおら、泣かずに働け、バカ共。奴隷にされたくなければ、しっかりと体を動かして金を稼ぐんだな!」
マレインさんが、自分も働きながら周りの受付嬢たちを鼓舞していた。お金は一応出るようだ。まあ、彼はクラーケンを狩ったため、多額の報酬があるだろう。それを見越して、彼が多くの者を雇っている様子だ。頭がいい。何かあれば、僕がお金を貸そう。
「マレインさん、こんにちは。何か困っていることがあれば、手伝いますよ」
「戻って来たのか。丁度いい、デスシャーク、何なら、メガロシャークを狩って来てくれ。あいつらは食べられる部位が多い。避難民たちにも食わせられる。報酬は後払いでどうだ」
「わかりました。じゃあ、狩ってきます」
僕はカエルラ領の人達の食事に使われるという素材の調達に向かった。
海にいるデスシャークやメガロシャークを八頭狩り、カエルラギルドに戻る。食べ盛りのフルーファで、解体していき、多くの者たちが生でも食べられるように『無菌』で綺麗にする。これで、刺身として食べられる。焼きが好きな人は自分たちで焼いてもらおう。
何百人分もの食糧が得られた。避難生活を送る者たちに分けていく。皆、限界寸前の様子で、僕が白髪とかどうでもいいと言いたげな表情だった。食事にありつけただけでも神に祈る様子が見て取れる。
カエルラギルドに所属していた冒険者たちはマレインさんが最低賃金で雇い、カエルラ領の復興のために働いていた。
何もしなければ、野垂れ死ぬとわかっていたのだろう。ただ、高級な武器や防具を買っていた者たちは、他の領土に向かうと決めたらしい。貯金もゼロになったが、借金もゼロになったのだ。残っている武器類を売れば、それなりのお金になると考えたのだろう。ただ、他の領土に行くために長い道のりを進まなければいけない。実力者なら問題ないのかな。
一一月に入ったころ、王都や近くの領土からカエルラ領に騎士達が到着した。その瞬間、騎士達がカエルラ領を見た顔を僕は一生忘れないだろう。言葉を失って、変わり果てたカエルラ領を見ていた。
「これほどとは……」
国王もカエルラ領に到着し、長い間、水の都として栄えてきた領土の変わり果てた姿を涙が浮かぶ双眸で見つめている。
「皆の者! 今、カエルラ領は未曾有の危機に瀕している。それは、ルークス王国の危機に瀕していると言っても過言ではない。皆で力を合わせ、民たちの生活を取り戻すぞ!」
国王は聖杯を持ち、多くの騎士達に意思を伝えた。
彼が脚を運んだのは、多くの貴族たちが仕様人に運ばせていた酒や食料を使い食っちゃねしている場所。宮廷の中だった。多くの者たちが、職や賃金を失ったというのに、貴族たちは働きもせず、自堕落な生活を送っていた。その姿を見た国王は床に臥せていたと思えないほどの剣幕で貴族たちに声をかけていた。
国王がカエルラ領に現れて多くの貴族たちは顔を真っ青にしていた。酒や女に入り浸り、完全に遊んでいたのが明るみに出た。多くの貴族たちは、周りにいる者たちに罪をなすりつけようと声を大にして叫ぶ。自分は無実で、周りの者たちがの方が悪いと……。
国王は貴族たちの位を一時的に剥奪し、平民と同じ扱いにさせた。多くの仕様人や奴隷のような人々の所有権利は国王に移り、皆を対等に働かせる。
貴族たちは国王に逆らえず、大人は仕事、子供は保護対象として扱われた。
多種多様な髪色の騎士がカエルラ領の中で働いていた。臨時に建てられた救護施設や炊き出し所、テントの貸し出しなど、騎士団は仕事を全うしている。国王が来ているのだから誰も手を抜いて仕事などできないといった表情だ。
巨大地震やクラーケンに襲われたカエルラ領に、数多くの人々が集まり復興作業に見舞われている。まだ、一ヶ月も経っていないのにカエルラ領の人々が魔物に怯えて眠る必要が無くなるほど、生活が安定していた。まあ、以前のような生活ができるようになるのは相当先になるだろう。でも、多くのカエルラ領の者たちは、他領の者たちに助けられた形になる。そうなると、他の領土の者たちをバカに出来なくなってしまったようで、騎士に罵詈雑言を吐く者は誰もいない。
きっと、カエルラ領は生まれ変われる。人々の助け合いで、危機を脱したという経験は、大きな資産になるはずだ。
「キースくーんっ!」
国王が到着したのと同じくらい。ウィリディス領からも支援がやってくる。シトラとミルも戻って来たのだが、緑のポニーテールが大きく揺れるほど走り、飛びついてくる女性が一人。
「ぷ、プラスさん。お久しぶりです」
「あぁー、キース君の温もり……。キース君のにおい……。キース君の魔力……」
プラスさんは僕に抱き着きながら頬を擦りつけてくる。こう見えても、緑色の勇者だ。ものすごく甘えん坊になっている気がする。預けておいた犬に久しぶりに会った気分。
「プラスさん、今はカエルラ領の復興の方が大切ですから、力を貸してください」
「もちろん! キース君とせっく……、じゃなくて、カエルラ領の復興のために来たんだからね。で、でも、時間が出来たら……、ね」
プラスさんは指先を突きながら頬を赤らめ、チラチラと見てくる。背後に立つ、シトラとミルの視線が僕ではなくプラスさんに向けられていた。




