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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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カエルラ領に戻る

 時間があるので、武器の手入れに入る。生憎、王城なのでほしい品は何でも手に入った。

 フルーファとアダマスの二本を丁寧に磨いていく。今回は相手が巨大すぎて、あまり活躍させてあげられなかった。剣術の修行をもっとこなさないといけない。

 三種類の基礎の技だけでは、実践で戦うのに不十分だ。

マレインさんから教わっていたが、まだ、実践で使えるほどうまくいっていない。


「気持ちいいですぅ……」


 アルブの体にある鱗を艶々に磨いていく。翼や、爪、角なども武器に塗る油を軽くなじませると凄く綺麗になる。人の肌と違うので、油でギトギトになったりしない。なんなら、鱗が傷つくのを押さえてくれる効果もある。


 ある程度、出発の準備を終わらせると、イリスちゃんが目を覚ました。


「ふわぁ~、キース君、おはよう……。うわぁー、すっごい、体がかるーい」


 イリスちゃんは僕の無色の魔力に当てられて体の機能が回復していた。


「それならよかった。えっと、僕はもうカエルラ領に戻るよ。列車の状況とか、色々重なって今年中に戻って来れるかわからない」

「そうなんだ……。でも、キース君が無事でいてくれるだけで、私は嬉しい。怪我だけしないように気を付けてね」


 イリスちゃんは色々言いたそうなのに、必要以上に口にせず、優しく背中を押すように送り出してくれる。ものすごくありがたい。一生をかけて彼女を幸せにする必要がある。そのためにも、僕は死ぬわけにはいかない。

 王城の入口付近まで一緒に出て、扉の前でいったん止まる。


「キース君、行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 最後に軽く抱き合い、イリスちゃんと離れる。王城から出て、すぐに王都の城壁まで走る。門を出てからカエルラ領までアルブの脚を掴み、三日飛び続けてカエルラ領まで戻って来た。

 七日程度離れただけだが、カエルラ領の状況は風変りしている。冒険者が使っていたテントがいくつもカエルラ領だった場所に立てられている。これから寒さも厳しくなっていくため、薄い布で作られたテントなど、無いも等しい。

多くの貴族たちが、初代国王が作った建物の中で生活しているらしいが、豪勢とは言い難い。

 どの貴族も、自分の所持品全て水没し、海の方に流れて行ってしまった。なんなら、クラーケンに完全に破壊されてしまった。所持金ゼロ。多くの者が貴族と言うより、平民に近づいたというのに、今も貴族だと主張して好待遇を受けようとしている。

 能力がある者が貴族ならいいのだけれど、能力のない者が貴族でも仕方がない。初級貴族なら、貴族の位を失っても仕方がない事態になっている。


 冒険者たちも生活資金がない。魔物や山菜を食して命を繋いでいる。

 クラーケンの討伐に加担した者は巨大なクラーケンの肉で腹を満たし、生活するための寝床を確保しようと廃材を集めていた。海岸近くにあった造りの荒い集合住宅が海の近くに作られていた。また、津波が来たらどうするのだろうかと考えたが、この場以外に住処がない彼らにとっては仕方がないのかもしれない。


「キースの兄貴っ!」


 廃材集めに奮闘していたメジさんが両手を振りながら飛び跳ね、僕に抱き着いてくる。泥まみれだと気づいたのか、ものすごく謝られた。でも、気にしないように伝えると、良い笑顔を浮かべながら状況を話してくれる。


「いやー、色々流されちまったっすけど、俺たちにとってはゼロに戻ったくらいなんで、何ら問題ないです。逆に、カエルラ領の人間が茫然としている間に、廃材や流され残った金貨なんかをクスねて前より金持ちになった奴もいますよ」


 獣族の方達は人よりも生活水準が低かったため、多くの品が流されても何ら問題なかった様子。メジさん達の楽観主義な精神が素晴らしいの一言に尽きる。

 流されていないボートを見つけたら、海に出て漁を頑張り、魚を捕まえる。それを仲間で分け合いながら食べる。そんなの当たり前みたいにやってのけるのだから、彼らの仲間意識は本当に高い。


 辺り一面、残骸だらけのカエルラ領は綺麗だった姿のほとんどを失っていた。それでも、どこか雰囲気だけは残っている。


 僕は獣族達の姿を見た後、水族館の方に向かった。大きな建物の壁に罅が入り、廃業したように見えるが、そういう訳ではない。地震の影響で様々な部位にガタがきているだけだ。

 水族館の入口付近に行くと、水族館に入れなくて悲しそうに座り込んだ少女に出会った。独りぼっちで、綺麗な青髪が潮風に揺られている。服は藍色に近いローブ。


「お嬢さん、暇そうですね。僕と一緒に水族館の修繕でもしませんか?」


 僕は俯いている女性に手を差し伸べる。ナンパと呼ばれるような話しかけ方だが、まあ、気にしない。僕に話しかけられた青髪の女性は頭をもたげる。

 綺麗すぎる青色の瞳が僕の姿を映し出していた。広がる空、広大な海、巨大な氷山なんかよりもずっとずっと透き通った青色で神秘的だった。


「なんて、素敵な青い瞳。吸い込まれてしまいそうだ」


 僕がキザのような言葉を呟いていると、キュアノの瞳に透明な液体が溢れていく。そのまま、白い肌に零れていく。

 両手で眼を擦るように動かし、口を酸っぱい品でも食べたようにしわくちゃにする。涙を我慢する顏が、お婆ちゃんみたいだった。そんなこと言ったら凍らせられるので、言わない。


「寂しかった……」

「王都まで連絡に行っていたんだ」


 キュアノは僕に抱き着きながら、額で胸を叩いてくる。奥に響き、肺から空気が抜けていく。

 数分抱き着かれたまま、子供みたいに泣かれた。このまま、泣かれていると困るので、彼女を抱きあげ、今にも崩れそうな水族館に触れる。『無傷』で建物を壊れる前に戻し、倒壊するのを防いだ。ガラス部分も『無傷』で直し、綺麗だった建物を復活させていく。

 生憎破損部位が波に流されていなかったため、元通りに出来た。ただ、魚たちはほとんどが死んでしまっており、酷いありさま……。分厚いガラスの水槽なんて買い直したらいくらになるやら。

 でも、アルブの力で直せる。修繕費は無しだ。


 一日で水族館の修繕が終わるはずがなかった。水族館で働いていた従業員たちは絶望した顔で水族館に戻って来たが、建物が壊れていない状況を見て表情を一変させる。ただ、生き物たちがほとんど死んでいるため、海から調達し直す必要があった。でも、建物が無事と言うだけで従業員たちはやる気を取り戻していた。

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