影響の報告
王都を囲んでいる城壁前で検問を受け、何ら問題なく王都に入る。ただ、予想害だったのは王都も地震の影響を受けていた。
カエルラ領と距離が離れているのに建物が壊れたり地面が割れていたりする。王都の壁はひび割れておらず、さすが初代国王が作っただけのことはある。同じく、王城も無事だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。カエルラ領に付いて話があります。王様に会わせてください」
僕は王城の門に立っている騎士に向って言う。僕の様子からただ事ではないと察したのか、門を開けて王城に入れてくれた。
イリスちゃんに会いに行く前に王様に話を通さないといけない。王の部屋の前で、僕は武器を全て騎士に預けた。聖杯が入った服だけを持ち、開かれた扉から中に入る。
「ん? キース、どうしたんだ。そんな乱れた服装で……」
「国王様。カエルラ領が酷い地震に襲われました。浸水によって地盤が緩み、多くの建物が崩壊し、クラーケンの出現によりカエルラ領は壊滅状態です」
「なっ! クラーケンだと!」
国王は海の化け物の名前を聞き、王座から立ち上がった。顔面蒼白だ。
「大地震の震源地は海岸の方だったか。王都にまで余波が到達し、家が崩れた。王都で多くの被害が出ているのだから、カエルラ領はさぞかし甚大な被害を……」
「はい。一部の建物しか残っていません。津波の被害を受けなかったため、ギリギリ踏みとどまれた状況です。ただ、多くの者が魔物の出現する平野で野宿する羽目に。カエルラギルドも倒壊し、機能していません」
「地震の影響はわかった。だが、クラーケンはどうなったんだ。王都に進行してくる可能性は?」
「クラーケンは討伐されました。青色の勇者とマレイン、獣族の者たちの手によって」
クラーケンが討伐された話を聞いた国王は安堵したのか王座に座り直す。多くの情報で頭が疲れてしまったのかもしれない。
「だが、あれほどの地震が起こって、津波の被害が無かったというのは、どういうことだ」
「津波は来ました。高さ八〇メートルを超える巨大な津波が……」
僕が津波の高さを言うと、国王の顔は真っ白になる。王都を守る壁よりも高い。そんな津波が襲って来たと言われたら、度肝を抜くに決まっているか。
「ですが、青色の勇者とこの道具の力で津波の被害は回避できました」
僕は服で包んでいた聖杯を国王に見せる。
「魔力の聖杯……」
おそらく、この聖杯の名前だろう。国王が目にして口を開きっぱなしにしている。
「カエルラ領の民から集めた魔力を全て使って巨大な津波を防いだんです。この品がなければ、今頃カエルラ領は海に沈んでいました」
「そうか……、初代の悲願が功を奏したのだな」
国王は初代国王が何を思って聖杯をカエルラ領に残したのか知っているのか、涙を流しながら頷いていた。
「国宝として保管してください」
「……いいや、それは再度カエルラ領に戻す。ここにあっても意味が無い」
国王は立ち上がり、近くの騎士に身支度させた。
「今、カエルラ領は無法地帯となっているだろう。直ちに向かわねばならぬ。馬車を乗り継いで一ヶ月以上かかるか。列車は使えるか……」
国王は騎士達に何度も質問を繰り返した。
「カエルラ領の窮地を救った者たちの名前をできる限り教えてくれ」
僕は国王に言われたので、クラーケンの討伐に拘わった者の名前を伝えた。ただ、獣族は数が多かったので、代表の数名をあげる。
「橙色の勇者ライアンよ、わしがいない間、王都の警備を頼む。おそらく、多くの騎士達がカエルラ領に向かわねばならない。多忙だろうが、頼まれてくれるか?」
「もちろんです。任せてください」
今、国王を守っていたのは運よくライアンだった。勇者順位戦で同率一位を取った実力の持ち主。心も男気溢れ、フレイの何倍も勇者らしい男だ。
「キースよ、よく知らせてくれた。報酬に関してはまた後日話し合おう。今は、カエルラ領の者たちが心配だ」
国王はカエルラ領の近くにある領土に救援に向かうよう指示を出した。王都の冒険者ギルドにある魔道具は正常に稼働するらしい。
国王は我先にと王の部屋を出て行ってしまった。
「……キース、お前、中々に運が悪いな。いや、キースがいてくれて運がいいと言ったほうがいいのか?」
ライアンは腕を組みながら僕に話しかけてくる。勇者と友達と言っていいのかわからないが、彼は僕の友だ。もう一年近く会えていなかったがまだ、友達と思ってくれているようだ。
「旅行していると、色々とあってね。でも、ライアンは元気そうでよかった」
「ああ、超元気だぜ。えっと……、エリクサーを送ってくれて助かった」
「役に立ったの?」
「ティナが冒険者の仕事中に大怪我を負ってな。怪我を負う前に俺が間に合わなかった。もう、上半身と下半身が分かれるほど大怪我だったんだが、キースが送ってくれたエリクサーのおかげで一命をとりとめた」
ティナさんと言うのは、ライアンが惚れこんでいる女性の名前だ。大好きな女性が死にかけている時に使うのだから、ライアンらしい。
「そのおかげと言うか、何と言うか、結婚したんだ」
ライアンは照れ臭そうに左手の薬指を見せてくる。にやにや顔が何とも言えない気持ち悪さ。でも、幸せそうだ。
「幸せそうで何よりだよ」
「そんで……、子供も出来た」
「は、速い。ライアンが、お父さんになるんだ」
「俺も驚きだぜ。俺が父親になれるか不安で仕方がない」
ライアンほどの実力者でも、父親になれるか心配になるんだな。
「そっちはどうだ」
「僕たちはまだ……。旅を続けたいし、住む家もない。まだ、先かな」
「ま、家庭は人それぞれだ。ちゃんと愛してやらないとどつかれるぜ」
ライアンは頬に拳を当て、苦笑いを浮かべていた。おそらく、ティナさんに殴られたのだろう。理由は聞かない。まあ、女性がらみなのはわかる。
「ティナが生れてくる子が男なら、キースって名前を付けたいらしい。お前の名前、貰っていいか? それか、お前が名前を付けてくれ」
「えぇ……、ちょ、そんな、僕に恐れ多いよ」
ライアンからの提案を僕は両手を振って断る。他の家庭の子供に名前を付けるなんて。
「頼む。ティナと俺の意思だ。俺たちの子に、キースみたいに育ってほしい。そう思ってる。だから、こそお前に名前を付けてもらいたい」
ライアンは深々と頭を下げて来た。疲れが溜まっている今、考えてもまともな答えが出てこないのは明白。




