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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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初代国王の悲願

 僕は『無限』を使い、津波と手の平の間に果てしなく遠い空間を生み出す。ただ、津波の質量と威力が想像をはるかに超え、八秒と持たず、僕の魔力が無くなった。

 頭をぶん殴られたような感覚に陥り、目の前が真っ暗になる。キュアノを持つ手に力が抜けそうになり、慌てて抱きしめる。『無限』で僕の魔力を最大値まで増やし、意識を正常に戻したあと、また『無限』で津波を止める。

 その繰り返し。芯の底から壊れていくような、体が悲鳴を上げているのがよくわかる。魔法の修行で、魔力を無くすというのがあるが、辛すぎて誰も連続して出来ない。

 群発性頭痛などに近い痛みが頭に響くといわれているらしい。巨大なハンマーで頭を殴られているような感覚がそれだろう。死にそうな辛さだ。でも、キュアノはこの辛さを何度も耐えた。なら、僕も出来る限り耐える。

 それでも、稼げる時間は一分から二分と短い。津波の威力は衰えず、永遠に迫ってくるんじゃないかと恐怖心が沸き立ってくる。でも、僕はまだやれる。まだやれると、アイクさんのお店で修行していた時を思い出し、目や耳、鼻から血を流しそうなほどの頭痛に見舞われても魔法を放ち続ける。

 吐血まですると、さすがに僕の体が限界を迎えているのだと理解出来た。『無傷』で体を癒し、頭も戻す。怖気がするほど何ともない。先ほどの痛みが嘘のようだ。でも、もう一度あの辛さを受けなければいけないのかと思うと、身が凍り付く。

 そこまでしてカエルラ領を救う必要があるのかと、悪魔のような声が聞こえる。白髪の僕や、シトラ、ミルを怪訝そうな瞳で見つめ、真面な対応をしてくれないような薄情な人ばかりが集まっている領土だ。僕たちの故郷でもなければ、数カ月済んだだけの場所。津波に飲まれたところで、僕たちに何の問題もない。

 そんな弱気な考えが浮かんでくる。僕が考えれば考えるほど、津波は迫ってきていた。もう、水族館まで百メートルもない。なんなら、僕の家は津波に飲まれた。少なくとも数カ月の思い出まで海に食われてしまう。

 僕が頑張る半分の理由が無くなってしまった。数秒で水族館も飲まれる。


「キースっ! 受け取れ!」


 背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。声と共に、何か光る聖杯のような品が飛んでくる。

 咄嗟に手に取ると、ものすごく質が良い品だとわかる。なぜ、この品を投げたんだ……。

 クラーケンを運んでいたマレインさんが全速力で戻って来てくれた。

 少しでも力になるんじゃないかと、僕に聖杯を投げたようだ。


「その品が、クラーケンの中から見つかった。おそらく、初代国王の遺品だ!」


 マレインさんは僕に叫ぶ。その初代国王の遺品……。その品を持った瞬間。初代国王が何を考えてこの品を残したのか理解出来た気がする。

 キュアノは水不足になった時、この聖杯の力で水を生み出すために、初代国王が残したと言っていたが、もちろんその役割もあっただろう。だが、別の目的もあったに違いない。

 初代国王は津波で、自分の国の一部が飲まれる瞬間を見ている。きっと、助けられなかった人間もいたはずだ。悔しくて悔しくて仕方がなかったのだろう。だから、この品を海が近いこの場所に残した。いつか、同じような大津波が来た時、大量の魔力があれば多くの者を救えると考えたんだ。


「マレインさん、キュアノをお願いします!」


 僕はキュアノをマレインさんに放る。彼なら問題なく受け止められる。後ろを振り向かず、聖杯を右手にしっかりと持った。聖杯の中に、綺麗な水が半分以上入っている。ひっくり返しても全く零れない。おそらく、何百年もの間溜められた三原色の魔力だろう。

 クラーケンの中に残っていたというのだから、この魔力を使っていたと考えられる。それでも八割残っていた。あれだけ戦って、二割しか減っていない。

 なんなら、大量の水となって減っているはずなので、一割ほどしか使われていないのかもしれない。


「初代国王様、あなたの悲願、ここで僕が受け継ぎます!」


 聖杯の水を一気に飲む。おそらく普通の人間なら致死量だろう。だが、僕はすぐさま『無限』を使用し、大津波と押し合う。シアン色の魔力のため、青色魔法が使えるはずだと考え『青色魔法:絶対零度』を再現しようと試みるも、真面に魔法の勉強が出来ていない僕が使えるわけなかった。


「『無色魔法:フリーズ』」


 少し冷やす魔法なら使えると思い、試してみると『青色魔法:絶対零度』並の速度で、津波が凍った。魔力量が膨大だったからか威力が底上げされている。凍った後、もう一度『無限』を使い、アルブと共に津波を押し込む。あまりの魔力の消費速度に恐怖しながらも、飲み込んだ膨大な魔力のおかげで、一分、二分、三分と時間を稼げている。

 凍らせて止め、破壊されて進み、凍らせて止め、破壊されて進みを繰り返し、ざっと八〇分。

 聖杯の魔力をほぼ使い切ったところで、津波が力を失い引いて行った。二派、三派があるという話を聞いたので、まったく油断できないが、水族館は守れた。地震と、次の津波に警戒しつつ、ひとまず安堵する。


「はぁ、はぁ、はぁ……、と、止められた……」

「そのようです。まさか、あれを止められるとは……。私も驚き桃ノ木ですよ」


 アルブは僕の周りを飛びながら喜んでいる様子だった。それを見るに、カエルラ領は救えたらしい。と言っても、アルラウネに襲われたウィリディス領よりも酷い状態だ。

 津波が襲って来ていたら、更地も良い所だろう……。少なからず、カエルラ領の人々が帰る場所は残されていた。真面に住めるようになるまで、相当な時間がかかるだろう。でも、なにも無くなるよりマシなはず。

 ただ、一つ無くなってしまったのは、僕の家だ……。


 丘の上にあった家は全て流されてしまった。武器や身分証明になる品は持っているため、問題ない。命もあるのだから、喜ばないと。

 二派、三派と津波が来たが、一回目よりはるかに小さかった。でも、津波は小さくても危険だというので『無反動砲』で吹き飛ばし威力を弱めると、すぐに鎮静化した。おそらく、危機は去ったと思われる。


「よし……。これで良い……」


 僕はグチャグチャの浜辺に下りて、座り込んだ。さすがに疲れた。もう、頭 が回らない。

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