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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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津波を止める方法

「『青色魔法:絶対零度』」


 巨大な津波の表面に霜が降るように一瞬で凍り付いていく。まるで、白いカーテンを掛けたようだ。でも、津波の力はあまりに強く、分厚い氷の壁を一瞬で破壊し、飲み込んでいく。速度や高さは一切変わっておらず、時速三〇キロメートルほどの速度で迫ってきていた。


「く、一回で、この疲労感。やっばい……、気絶しそう……」


 キュアノは僕の魔力を使っても魔力枯渇症をおこし、顔色が真っ青になっている。もう、自力で浮かぶことすらままならない状態だ。僕が『無重力』で浮いていないと海面に落っこちてしまう。

 手の平から魔力を送るより、キスして魔力を送った方が何倍も早い。


「もう、キスした状態で魔法を放った方が効率がいいわ! もっとキスして!」

「き、キスしたいだけじゃないよね……」


 生憎、的になる津波は魔法を適当に撃っても当たるほどデカい。アルブが『無重力』で僕達を浮かし、僕は『無限』で魔力を増やし続ける。キュアノとキスしながら、魔力を送ってキュアノが『青色魔法:絶対零度』で津波の表面を凍結し続ける。ただ……、


「んんぁあっ!」


 キュアノの体が大量の魔力の増減に耐え兼ね、酷く苦しんでいた。おそらく、真面な人間が耐えられる魔力量じゃないのだろう。ただでさえ、時間を止めてしまえるほどの空間を作り出す魔法を連発しているのだ。あまりにも体に深刻なダメージが入っているに違いない。

 『無傷』で肉体を治しても、痛みが出ないわけじゃないので魔法を放つたび、苦しんでいる。でも、一向に津波は止まらない。

 大量の魔力を持つ僕と、魔法の才能を持つキュアノが力を合わせても自然の驚異に立ち向かえない。

 津波の表面に生まれた氷が巨大な水の壁に飲み込まれていく。目の前に津波、背後にカエルラ領の崩れた街並み、その間に僕たちがいる。僕の別荘も見える。水族館も……。

 このままだと全て飲み込まれてまっさらになってしまう。この勢いのまま、カエルラ領に津波が入り込んだら、必死で逃げているカエルラ領の者たちもろとも飲み込んでしまうだろう。それほど、巨大。


 キュアノは魔力酔いを起こし、嘔吐する。寒すぎるのか、指先や足先、全身が震えている。キュアノと繋がっている僕の手の平も凍ってしまうほど冷たく、皮膚がくっ付いてしまいそうだ。

 彼女の小さな体を抱きしめて、少しでも暖める。細く小さな少女が大嫌いなカエルラ領を守ろうとしているのだ。僕も力を貸さないわけにはいかない。魔法使い特有の筋肉がない細身を摩る。


「ねぇ、なんか、暑くなること言って。寒すぎて、死にそう……」


「暑くなること、暑くなることってなんだ……」


 キュアノは目を瞑り、体から力が抜けていく。どれだけ、体を酷使したんだ。頭の中まで、完全に凍り付きそうなほど冷たい。これ以上、魔法を放ったらキュアノの体が持たない。


「キュアノ、もうやめよう。このままじゃ、キュアノの体が持たない」

「いや。私は青色の勇者だから。もう、何があっても諦めないって決めたの。最後の最後まで全力でやり切る。少しでも誇れる自分になりたいの……」


 キュアノは目を開け、今の海より綺麗な青色の瞳を僕に向ける。多くの者が威圧感を受け、逃げ出してしまいたくなるほど深い青色。でも、僕からすればこれほど美しい青色を見た覚えがない。


「あなたの瞳はこの世のどの青色よりも美しい」

「……もう、ここは結婚しようって言うところでしょ。でも……、めっちゃ燃える」


 唯一と言ってもいいほど暖かい唇が重なり合う。彼女の気持ちを尊重し、最後までとことん付き合うつもりだ。

 唇を離すと白い水蒸気が上がり、透明な線が名残惜しそうに伸びる。


「『青色魔法:絶対零度』」


 キュアノは津波を見て杖先から青い魔力を放つ。津波の表面が一瞬で凍り、止まったように見えるが、稼げる時間はほんの数秒で、一〇秒もしないうちに罅割れ、津波にのみこまれていく。速度や高さが少し落ちたかなと思う程度。


「ごめん……、限界……」


 キュアノは手の握力が無くなったのか、杖を広大な海に落とす。そのまま、気絶してしまった。完全に体が限界を超えてしまったようだ。彼女の体を僕の外套で包み、お姫様抱っこするように抱える。

 その間にも、津波はドンドンと迫ってくる。僕はアルブの脚を持って、少しずつ後退していく。キュアノが守りたかったものを僕も守りたい。どうにかして、この津波を止められないか考えに考える。


「僕が『無限』で魔力を作って脚にしがみ付いているから、アルブは『無反動砲』で津波を止められない?」


「今の私の飛行能力だと、主一人を持つのが限界です。加えて『無反動砲』を打っても津波相手だと川に石を投げ込んでいるのと同じなので大した制圧は出来ないでしょう」


「キュアノをどこかに預けてからじゃ、間に合わない。くっ……」


 僕はアルブの力を一つしか使えない。アルブも一つ使えるので、実質二つの効果が組み合わせられる。その組み合わせを考えても、あの巨大な津波を止める方法がない。『無限』と『無限』を使うことは出来ず、魔力を『無限』で増やしながら『無限』の空間を作るのは不可能だった。

 それが出来れば、津波も止められたかもしれない。


「ここはキュアノさんの安否を優先するのが得策だと思われます」


 アルブは津波を止めるより、後方に下がることを優先させた。そりゃそうだ。このままなら、誰も死なない。カエルラ領が海に沈むだけだ。でも、キュアノたちにとっては生まれ故郷で、良くも悪くも記憶に残っている街に変わりない。

 獣族に関してはこの場を失えば、実質露頭に迷うことになる。他のカエルラ領の者たちもそうだ。この場所でしか真面に働いた覚えがないのに、他の領土に行って真面に働けると思えない。きっと、以前のマレインさんのように自分の力に失望して辛い思いをするだろう。

 カエルラ領は多くの者にとってかけがえのない居場所なのだ。


「ここを失えば、悲しむ人の方が多い。少しでいい。少しでも止めるんだ」

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