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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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力比べ

「アイクさん、フレイは昔から騒ぎを起こすような子供だったんですか?」


「今よりはひどくないがやんちゃな子供だった。だが、勇者になって始めの頃は真面目だったんだ」


「えぇ……、あのフレイがまじめ……」


「勇者になって一年ほど経ってからいきなり不可解な事件が増え始めた。昔のフレイは人を殺したり事件を起こしたりするような性格じゃないと思っていたんだが……」


「アイク、その辺にしておけよ。このままだと料理がリークに全部食いつくされちまう」


 エルツさんはお腹を摩りながら、空腹だと知らせる。


「そうだな。ちょっとした祝いの日にしようとしていたんだが、すまなかったな、キース。ちょっくら温めなおしてくる」


 アイクさんはテーブルに並べられている料理の大半を調理場の方に持って行ってしまった。


「アイクはアイクで、自分の育てたフレイがああなってしまったのを悔いているんだ。自分の教え方が悪かったんだと反省し、責任だとか言って冒険者を止めた。今は俺の方がとばっちり受けているんだけどな」


 エルツさんは小さな声で僕に教えてくれた。


「育て方が悪い……。アイクさん、どんな鍛錬させてたんですか?」


「赤色魔法中心の鍛錬だ。まぁ、七色の勇者全員に言えることだが、各色の魔法に秀でている者が勇者になりやすい」


 エルツさんは大きなジョッキを持ち、エールをぐびぐびと飲みながら言う。


「剣術や体術は二の次。必要なのはどれだけ強い魔法が使えるか。もちろんそこに剣術や体術が合わさって力を発揮する」


 ジョッキの中身を飲み干し、口元をぬぐいながら僕のほうを見ていた。


「アイクはフレイを勇者にするために赤色魔法の強化を最優先事項にして鍛錬していた。だから、今のフレイは魔法だけを見れば他の七色の勇者を超えている」


「魔法だけなら国一と言うことですか……」


 僕の発言にエルツさんは軽く頷いていた。


「だが、それ以外が決定的に足りていない。剣も素人に毛が生えたくらいだ。それを魔法で補っている」


 ――そうか……。だからあの時の僕でも、フレイにギリギリ勝てたのか。

 確かに剣の腕はそこまでだった気がする。あの火力に剣術まで見に付けたフレイだったら僕は死んでいた。

 そう考えると、フレイが魔法以外は怠惰でよかった。


「アイクはフレイに魔法に頼らせ過ぎたのが狂っちまった原因だって思ってるんだろうな」


「そんな根拠はどこにもありませんよね……。でも、僕は仕事中に魔力を使わないよう言われました」


「昔、アイクは師匠になってくれと頼まれる時がよくあったんだ。どこで聞きつけたのか知らないがフレイの師匠がアイクだって気づいた奴がここを訪ねてきて指導を願った」


 勇者を育てた人がいるなら、教えを請いたいと思うのが普通だ。


「皆、赤色の勇者に憧れて来たんだろうな。アイクは同じ過ちを繰り返すまいと、体から鍛える方針に変えた。すると、訪問者は皆逃げるか諦めて帰っていくようになったんだ」


「なるほど……」


「なぁ、キース。丁度いいからよ、俺と力比べしてみないか?」


「え……。僕がエルツさんとですか?」


「ああ、今のキースがどれだけ強くなってるか丁度いい指標になるだろ。俺も昔は結構名の知れた冒険者だって言ったよな」


「確かに、言ってましたけど……」


 ――エルツさんの体格は僕の二倍はある。

 筋肉や身長、体重、経験、何もかも僕は劣っているにも拘わらず、エルツさんは僕と力比べをしようと言い出した。

 結果が見えてるのに、何でだろう。


「リーク、お前が審判してくれ」


「いいですけど、ちゃんと手加減してあげてくださいよ」


「わかってるよ。今のキースの力を知るだけだ」


 エルツさんは立ち上がり、僕の前にあるテーブルの反対側にある椅子に座った。


「力比べって、どうやるんですか?」


「それはだな。右腕を出して、肘をテーブルに着ける」


 僕はエルツさんを真似して、右腕の肘をテーブルに着ける。


「そのまま俺とキースで手を握り合うんだ」


 僕とエルツさんはテーブルに右腕の肘をつけながら手を握り合った。


「この後は、どうするんですか?」


「左腕の方向に力を入れて相手の掌の甲をテーブルに先に当てた方が勝ちだ」


「なるほど、確かに力比べですね」


「それじゃあ、始めますよ。三、二、一、始め、で手を放しますから、始めと言われたら力を入れてください」


 リークさんは僕達の握り合っている手に両手を重ねた。


「わかりました」


 ――エルツさん、握っただけで強いと分かる。こんな相手に勝てるわけない。でも、今の実力を知るいい機会だ。全力でやってみよう。


「それじゃあ、行きますね。三、二、一……」


 リークさんは数を唱え始めた。


「温め直したぞ……って、何しているんだ!」


 アイクさんが調理場から戻ってきた。だが、リークさんは止まらずに唱えた。


「……始め!」


 リークさんは手を退けた。その瞬間、僕は右手に力を入れる。エルツさんも同じように力を入れていた。


「ふっ!」

「はっ!」


 何かが粉砕したような物凄い衝撃音を聞いて僕は眼を開ける。


「え……」


 リークさんはあっけにとられた顔をしていた。予想外の出来事にあったときの反応に似ている。


「はぁ……。先に言っておくんだったな……」


 アイクさんは料理をテーブルに置き、僕達の方に近寄ってきた。


 僕とエルツさんが使っていたテーブルが真っ二つに割れ、エルツさんの体がひっくり返っていた。彼の手の甲が床にたたきつけられている。


「あの、えっと、僕も何が起こっているのか全くわからないんですけど……。ご、ごめんなさん、テーブルは弁償します! 床の修繕費も僕が弁償しますから、許してください」


「キース、お前は悪くない。こいつが悪いんだ。おい、エルツ起きろ。何伸びてるんだ」


 アイクさんは床で気絶しているエルツさんを蹴って起こす。


「ん……、な! い、いったい何が起こったんだ!」


 床に転がっていたエルツさんは飛び起きた。


「お前はキースに力比べで負けたんだよ」


「俺がキースに負けたのか……。一瞬の出来事すぎてわからなかった……」


「えっと、僕が見たのは……、エルツさんとキース君が力を入れた瞬間、エルツさんの体が空中にひっくり返って、そのまま手の甲をテーブルに叩きつけられた。キース君はそのままテーブルを割って、地面に手の甲を叩きつけた」


 リークさんは何が起こったのかを説明してくれた。


 実際、僕は眼をつぶって力を入れたので、何が起こったのか分からなくて困惑していたのでありがたい。

 アイクさんのお店のテーブルが木っ端みじんになっており、床もひびが入っている。

 左側方向にあった窓ガラスが割れ、滅茶苦茶な状態になっていた。


「キース君。君は何か魔法を使ったのかい?」


 リークさんは僕の目を覗き込みながら聞いてくる。


「い、いえ……、何もしてません。僕は魔法を使えませんから」


「そうだよね……。じゃあこの威力はいったい」


「その力はキース本来の筋力だ」


「え……。アイクさん、さすがにそれは……」


「信じられないかもしれないが、真実だ。キースはドワーフ御用達の激重金槌を六時間振り続けた。それが証拠だ」


 アイクさんは僕の胸元に入っていた包丁を指さしてリークさん達に教える。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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