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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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クラーケンは倒せた

 ミルの怒りが乗った声が殺風景な辺りに響き、マレインさんが弓で矢を飛ばすように放たれる。筋肉の固まりと言ってもいい獣族が二人そろったら、人間をものすごく高い位置まで移動させられる。そこに、マレインさんの脚力も加われば、クラーケンより高位置をとることも可能だった。


 マレインさんが持っている剣が冷気を生み出し、落下していくと雲から現れたように見える。

 クラーケンがマレインさんの姿を見つけたのか、タコ足を向かわせた。だが、水中より明らかに動きが襲い。浮力が無いとあの巨大なタコ足を素早く動かせないようだ。そのため、マレインさんは迫りくるタコ足の側面を切り裂き、足裏とタコ足の接地面を凍らせて上手く走っている。

 魔法の扱いが、ものすごく上手くなっていた。大量の魔力があれば高火力の魔法を放てる。だが、魔力だけあっても魔法は上手く使えない。僕がいい例だ。

 でも、マレインさんは靴裏に触れたタコ足を上手く凍らせている。靴裏にずっと魔力を集中させていられるのも技術が必要だ。やはり、マレインさんは普通の冒険者たちよりもずっと実力が高い。強力な魔法よりも、小さくて使い勝手がいい魔法の方が使いやすいとわかったのかも。

 あと、大切な人が出来たというもの大きいか。


「おらああああああああああああああああっ!」


 マレインさんは叫びながら、タコ足を切りつけ、胴体に向っていく。ただ、到達してしても、マレインさんだけでクラーケンを絶命させるに至らないだろう。

 キュアノや僕と協力する必要があるため、でしゃばらずクラーケンの意識を引くだけにとどめてもらわないといけない。

 昔のマレインさんなら、獲物を前に一人だけで戦おうとしただろう。でも、今回は自分の仕事を理解しているようで、タコ足を切って凍らせていくだけ。クラーケンの視線に入るよう動き、タコ足の攻撃を剣一本で対抗している。今のマレインさんなら、ブラックワイバーンともいい勝負になるだろう。

 シトラとミルも加わり、クラーケンの周りに三匹の羽虫が飛んでいるような状況になった。


「じゃあ、キュアノ、行こうか」


「そうね。あの化け物を氷漬けにして、復興のオブジェにしてやるわ」


 キュアノはやる気に満ちている様子。

 キュアノが背中に抱き着いてくれているおかげで『無重力』を使えば、彼女も軽くなる。アルブの脚を持つと、勢いよく飛びあがった。タコ足が蠢く中、クラーケンの眉間を目指す。眉間が弱点なので、一撃入れれば体が動かなくなるという。

 僕たちは空で待機し、クラーケンの足が周りの者たちに移るのを待つ。獣族達がゾクゾクとクラーケンのもとに集まり、タコ足を攻撃する。持前の身体能力で攻撃をギリギリ交わしているが、どう考えても危険極まりない。


 僕とキュアノは『無視』で姿を消している。タコ足が全て地面に付き、クラーケンの頭と胴体がよく見えた。僕とキュアノだけで、クラーケンは倒せなかった。多くの仲間がいてくれたから、一矢報いれた。


「カエルラ領の者たちが、この領土で住む権利なんてもうないわね。獣族に受け渡した方がいいんじゃないかしら」


 クラーケンの巨大な体に手を触れたキュアノは青い髪を靡かせる。とても綺麗で精霊のような魅惑の青い瞳が輝きを増している。


「皆! 離れろ!」


 マレインさんの大声が聴覚の良い獣族に届いたのか、クラーケンから一気に離れていく。


「『無限』」


 僕は『無視』を解除し、体内の魔力を無限に増やす。その魔力をキュアノに流した。すると、キュアノの体が一気に青く光り輝く。


「運が悪かったわね、化け物。同じく化け物がいる時に来るなんて。凍てつけ『絶対零度』」


 キュアノが手の平を当てているクラーケンの部位から、霜が振るように体内の水分が一瞬で氷付き、タコ足の先っぽまで白い水蒸気を発生させながらガチごちに凍る。完全に倒せたかはあやしい。でも、少なくとも、すぐに動きだしたりしなかった。


「マレイン……、いや、御兄ちゃん。美味しい所、持って行っていいわよ」


「ありがとう。義妹」


 マレインさんは反り上がったタコ足を滑りな、高らかに空中に出る。視界の先に見えるのはクラーケンの眉間だった。


「氷冷剣」


 急降下するマレインさんの体。両手に持つ輝かしい青色の剣が彗星のように光っており、クラーケンの眉間に突っ込んだ。

 突き刺さった剣が魔力の氷を生み出し、剣の形となってクラーケンの眉間を貫く。全身を凍らされ、眉間を貫かれたクラーケンはさすがに動けない様子で、動きを停止させた。


「はぁ、はぁ、はぁ……、や、やった……。やった!」


 マレインさんは両手を持ち上げ、子供のように喜んでいた。もう、一生自慢し続けるんだろうなとわかるほどの偉業。クラーケンに止めをさしたのは俺だと、お爺ちゃんになっても言っている姿が目に浮かぶ。


「まったく、はしゃぎすぎ。でも、これで御兄ちゃんに箔が付いた。あの頭が固い両親もクラーケンに止めをさした男なら、結婚を認めざるを得ないはず……」


 キュアノはマレインさんの方を見ながら腕を組んで自分の実家があると思われる方向を見ていた。すでに大地震でほとんどの建物が崩壊しているけれど……。


「クラーケンの素材を売れば、ブランカを一生楽させてやれる。おそらく、この人数で等分しても相当な額が手に入るはずだ」


「でしょうね。クラーケンの肉なんて、美食家からしたら大金をはたいて食べたいというわ。魔石も超巨大だと思うし、このまま、解体作業に……移りたいけど、そうも言っていられないわね」


 キュアノが視線を西側に向けると、海の方から、何かが迫ってきている。


「来た……、津波だわ」

「皆! 陸地の方に逃げろ!」


 メジさんが叫び、獣族達を陸地の方に走らせる。

 六〇メートル以内なら、僕の別荘は問題ない。でも、六〇メートルを超える津波だったら、建物近くにいる者たちは危険だ。


「……なに、あの高さ。あれが津波なの……」


 僕の視線にも入っているが、ものすごく遠くにあるのに、すでに大きい。遠くからクラーケンの姿を見ていた時と同じ感覚だ。クラーケンの横の長さが三〇〇メートル近く、縦が八〇メートルほど。それ以上に見えるってことは、高さが八〇メートルを超えていた。


 僕はクラーケンを『無重力』で浮かせ、マレインさんに持って行ってもらう。地面を氷で固定しながら走れば、浮かないらしい。

 アルブの脚を持って、別荘に向かう。子供や女性たちが残っていた。ブランカさんも。


「き、キースさん。クラーケンはどうなったんですか? マレインさんは……」


「クラーケンは倒せました。マレインさんが止めを刺したんですよ。彼は語り継がれる冒険者になりました」


 僕が言うと、ブランカさんは安心した様子で泣いていた。ただ、今はそんな時間はない。

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