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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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巨大な縦揺れ

「……そうね。可能性だけで考えるのは危険。別の点を見失いかねないわ。今、確実なことだけを纏めましょう」


 クラーケンはいきなり現れた。海の方ではなく、陸の方に向っている。大量の魔力を有している。胴体はまだ現れていない。水の量は未だに増え続けている。


「あまり長い間考えていたら時間が無くなる。陸地に非難させたとは言え、子供や年寄りがどれだけ本気で走っても、あの化け物ならすぐに追いついちまう。水を飛ばして攻撃されたら多くの被害が出るはずだ。すぐに戻って足止めを再開しないと」


 マレインさんは慌てていた。慌てることも失敗を招く要因だ。


「落ち着きなさい。今、戦っても、さっきと同じ。決定打に掛けるわ。タコ足を何度壊しても意味が無い。胴体を攻撃したほうが効果が高い。でも、あの体の再生速度が異常なのよね。巨大な脚を何度も壊しているのに、数秒で元通りって、いったいどれだけの魔力を使っているのかしら……」


 キュアノは腕を組み、うねうねと伸びるクラーケンのタコ足を見ていた。


「あの巨大なタコ足を治すだけでも相当な魔力が必要よ。もう、何十回と破壊しているのにいまだに底が見えない。壊して表面を凍らせても時間を稼げて一分弱。八本すべてを破壊し、表面を凍結させるなんて、不可能に近いわ」


 僕たちの作戦は失敗に終わっていた。クラーケンの再生速度のほうが早く、一本成功しても、二本目、三本目と、続かない。一分以内に八本のタコ足を壊し、凍結させるなんて不可能に近かった。

 それでも、何とかしてクラーケンを倒さなければならない。海に帰しても、再度攻めてこられたら困る。だから、確実に倒す。

 もちろん、この化け物を退けても、僕たちは国から賞賛されるかもしれない。でも、僕たちが死んでしまったあと、またこのクラーケンが生きていて、カエルラ領を壊したら僕たちの責任だ。


「クラーケンの弱点は眉間よ。そこさえ貫けばクラーケンは動けなくなる」


「でも、頭が出ていないんじゃ、狙いようがない……」


「陸に移動しているのなら、必ず出てくるわ。頭が出てきた瞬間に眉間を打ち抜くの」


「そんなにうまくいくかな……」


「さあ、やってみないとわからないわ。あの糞でかいタコ足で防がれるかもしれないし、攻撃が外れるかもしれない」


 僕とキュアノはどうやってクラーケンを倒すのか、ずっと話し合っていた。その時、オルキヌスが大きく吠える。加えて、


「き、キースさん! で、でかいのが来ます! 伏せてくださいっ!」


 ミルは全身を震わせ、その場にしゃがみ込む。同様にシトラも……、


「い、いったい何が来るって……」


 キュアノがつぶやいた瞬間、水面に波紋が生まれていた。少しすると立てなくなるほどの縦揺れが起こった。もう、世界がうなっているかのような超巨大な揺れ。


「じ、地震だ! 皆、落とされないように堪えて!」


 冒険者ギルドの建物が前後左右に揺れまくり、建物の一部に大きな亀裂が大きく入る。周りの残っていた建物が倒壊していく。

 僕は床に手を触れ『無重力』で建物が完全に壊れないように配慮した。キュアノも、建物の亀裂を凍らせ、今以上に大きくならないように配慮していた。

 地震は経験した覚えがあるが、今回の地震は今までの比ではない。体が本当に浮き上がったのかと思うほど強烈だった。シトラとミルの頭を守るように抱きしめ、震えていたキュアノにも手を伸ばし、小さな手をしっかりと握りしめた。


 いったいどれほどの時間、揺れ動いていただろうか。あまりにも強烈だったので、浮けることをすっかりと忘れていた。いや……、僕たちは浮いていた。

 冒険者ギルドがふわりふわりと波に揺られている。おそらく、下の方が耐えられなかったらしい。冒険者ギルドは完全に壊れていたが、僕の『無重力』で沈まずにすんでいた。

 キュアノが魔法で壊れた壁を氷でつなぎ止め、ことなきを得る。


「と、止まった……。い、今、びっくりするくらい大きな地震が起こったわよね……」


 キュアノも、自分の体験が夢じゃないという実感が欲しいのか、辺りをを見回している。

 僕たちは小さく頷き、無事を確認し合った。

 僕が買った屋敷の方を見ると、崩れている様子はない。ブランカさんは無事なようだ。


「おい、見ろっ!」


 マレインさんがクラーケンの方に視線を向け、大きく叫んだ。幸か不幸か……、大地震の影響で、地盤が崩壊し、クラーケンの頭部が露出していた。やっと拝めた全体像に、僕たちは息を飲む。


「で、デッカ……。あのクラーケンを使って料理したら、何人分の蛸料理が出来るかな」


 ミルは悠長な発言で周りの空気を和ませようとしたのか、泣きそうになりながら呟く。


「ま、まず、あの禍々しい魔物が食べられるのかしら……」


 シトラもミルにつられて呟いていた。両者ともお腹が空いているのかもしれない。

 クラーケンの全体が見えたのは、他にも理由があった。一軒家を飲み込むほど水嵩があったのに、海の方にサーっと流れて行ったのだ。長い間浸水し、窓ガラスは割れ、先ほどの地震で多くの建物が崩壊していた。その影響もあり、引いて行った水にカエルラ領の建物の八割が攫われていた。

 浸水していたというのに、焼け野原を見ているよう……。水と大地の恐ろしさを感じさせる。人間が作った品なんて、簡単に壊れてしまうのだ。そう思っていたら、観光名所の宮廷がどっしりと立っている。周りの建物は壊れているのに、宮廷だけは残っていた。


「あそこ……、初代国王の魔力が残っているのかも……」

「可能性はあるね。じゃなかったら、あそこまで残らない」


 水が無くなった影響で、オルキヌスたちは海辺に戻っていった。でも、地面があれば獣族は走れる。


「やるなら今だな。仲間を呼んで、もっとクラーケンの意識を俺たちに向けさせよう」


 メジさんは腰に手を当て、仲間のヨコさん、ヨコワさん、ヒッサさん、クロシビさんに視線を向ける。四名は大きく頷き、冒険者ギルドを後にしようとする。

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