一緒に戦いたい
「ほら、どうするの。魔法を教わるの、教わらないの? ま、別に私はどっちでもいいけど。それよか、ちょっと本気出さないと、あいつを倒せなさそうだし、さっさと決めなさいよ! 考える時間くらい作ってあげるわ! 私、お姉さんだし!」
キュアノは長ったらしいローブが邪魔だったのか、裾を掴んですっぽりと脱いでしまった。下着……かと思ったが、可愛らしい水玉模様の水着で、子供体型が露になる。あの体型で本当に僕より年上なのか疑わしかった。でも、体型で人の年齢を決めつけるのも良くない。
キュアノは脱いだローブの袖を腰にぎゅっと巻き付けて、スカートのようにした。
どこか武闘家のような服装にも見える。僕の考える時間を作ると言っているけれど、そんなすぐに決められることじゃないし……。
「えっと、キュアノを貰うっていうのはどういう意味?」
「そのままの意味よ」
「キュアノは物じゃないし、僕が貰うなんて出来ないよ」
「はぁー、ほんと鈍感な男。なんでこんな奴、好きになっちゃったのかな……」
キュアノは大きなため息を吐き、杖先を高らかに掲げる。
「『青色魔法:アイスバレット』」
キュアノの詠唱によって小さな魔法陣が大量に展開され、魔力が氷の粒になって射出されている。菱形の氷がクラーケンのタコ足に突き刺さり、じんわりと凍結させて粉々にしていく。
崩れた断面を見ると、すぐに再生出来ていなかった。やはり、タコ足を凍結させるのは有効な手段だと察する。
「ほら、早く決めなさいよ! 私を貰うの? 貰わないの?」
「いや、まだ一分も経ってないよ」
「一分もあげたんだから、さっさと決めなさいよ」
「じゃあ、もう少しわかりやすく言ってよ。ちょっと判断しかねるよ」
「はぁ……、面倒臭いわね。簡潔に言うと、私の処女をあげるって言ってるの!」
キュアノは耳を赤らめながら叫んでいた。僕の頭の中はさらに疑問符で埋め尽くされる。
「僕が魔法を教えてもらったらキュアノの初めてが貰えるってこと?」
「訊き返すな、恥ずかしい!」
「いや、どう考えてもおかしいでしょ。なんで、魔法を教えてもらう立場なのに、キュアノの処女を貰えるの? と言うか、僕結婚してるから、そんなこと言われても困るんだけど!」
「うるさいうるさいっ! なにも言わずにうなずいてればいいんだよ、おバカ! もう、この際、一夫多妻でもいい! どの男とも結婚出来る未来が見えないし、将来が有望そうで優男のハーレムに加わってやってもいいって言っているの! 感謝しなさいよ! このルークス王国一の『青色魔法』の使い手である私があんたと結婚してあげるわ!」
「感謝って……、結婚って……、もうちょっと自分の将来を真剣に考えた方が……」
「だぁああ~っ! うるさいうるさいうるさい! 真剣に考えてたどり着いた考えがこれなんだよ、バカっ! 『青色魔法:アイスレーザー』」
キュアノの魔法陣が集まり、枚数が減る。
今度は水を噴射した時のような勢いのある氷の粒の集まりが放たれる。当たった水面やタコ足が凍り付き、魔法が当たった部分だけ、時が止まったように凍結する。
僕は凍ったタコ足目掛けて『無反動砲』を放ち、巨大なタコ足を粉々に粉砕。クラーケンのタコ足を二本奪った。このまま残り六本のタコ足を氷にして粉砕すれば『無重力』で持ち上げられるはずだ。ただ、タコ足が二本減ったところで、クラーケンの強さはさほど変わらなかった。
巨大な水しぶきや筋肉の固まりのタコ足が僕たちに迫りくる。クラーケンの手数は脚の数と同じで六から八本。僕とキュアノは合わせて二人。クラーケンの頭は驚くほど良くて、キュアノの魔法をくらったら危ないと学習したのか、魔法が当たりそうになると、水の中に足を引っ込めた。また、水しぶきをあげて防いでくる。
「ちっ、もう、対策してくる……。ちょっと! 一人じゃ限界があるんだけど、さっさと手を貸してっ!」
「今、キュアノとの関係を考えていたんだけど」
「今はそれどころじゃないでしょ!」
「そっちが考えろって言ったんじゃないか……」
「あんた、頭がトロイの! 魔法を使うなら、もっとぱっぱっぱって物事を考えないと戦いに追いつけなくなるでしょうが! 無詠唱で使える魔法なんて、たかが知れてる。詠唱か呪文を言わないと魔法使いはただの人間と同じ、隙をつかれたらおしまいなの! 『青色魔法:アイスバレット』」
キュアノは僕と話し合いながら魔法を発動し、クラーケンの攻撃を牽制していた。クラーケンが叫んだりしないから、巨大な水しぶきが上がる音や、氷が砕ける破壊音などが、辺りに響き渡っている。加えて、キュアノのキンキンとした高い声が鼓膜を劈いた。
「キースの兄貴っ! 大丈夫ですかっ~!」
下の方から声が聞こえると思ったら獣族のメジさんがボートに乗って手を振っていた。メジさんの漁師仲間であるヨコさん、ヨコワさん、ヒッサさんにクロシビさんも一緒に乗っている。何なら……。
「キース! 今、どういう状況なのっ!」
「キースさん、ぼくたちも戦いますっ!」
「し、シトラっ、ミルっ、なんで……」
海抜六〇メートル近い丘の上に立てられた家にいたはずの、シトラとミルがメジさんのボートに乗っていた。両者とも、なぜ僕の場所が……、と思っていたら、水面に立つ青髪の冒険者がいた。
「マレインさんが、キースが化け物と戦っているって言うから!」
「ほんと、でっかい化け物ですね! もう、ブラックワイバーンよりやばい相手なんじゃないですか!」
シトラとミルは街の中から生えている六本のタコ足を見て、苦笑いを浮かべていた。水の中に加え、大きさが化け物のクラーケンと魔法がほぼ使えず身体能力だけ高い獣族は相性が最悪だ。今回、シトラとミルはクラーケンと戦えると思えない。
「獣族とクラーケンの相性が悪すぎる! ここは僕たちに任せて、家まで避難するんだ!」
「で、でも! ぼくはキースさんと冒険者パーティーを組んでいる仲間です! 一緒に戦いたいです!」
「俺たちだって、命が惜しくて漁師をやってないですよ! この化け物を倒して、売ったら一生遊んで暮らせるだけの金が手に入る。一攫千金を前に、逃げるなんて、漁師には無理な相談ですぜっ!」
ミルやメジさんが大きく叫び、各々武器を掲げていた。槍や銛、魚をさばく包丁など、その気持ちだけで充分としか言いようがない。




