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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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欲望垂れ流し

「ひ、昼食くらい奢るけど……、ギルドに行かない?」


 キュアノは珍しく僕を食事に誘って来た。奢られるのはあまり好きじゃないが、年上のキュアノに誘われて断るのも申し訳ない。そもそも、断る理由がないので、キュアノについていくことにした。

 今のカエルラギルドの状態も知っておきたかった。


 僕とキュアノは空を飛びながらギリギリ浸水していないカエルラギルドにやって来た。目の前の水路から水が溢れている。少しずつ水位が増し、あと少しでカエルラギルドも浸水しそうだ。

 冒険者の姿は見当たらない。冒険に向かったのだろうか、水没した地域に家がある冒険者はたまったものじゃないだろうな……。

 思っていた通り、浸水や水没した家に住んでいた冒険者が苦情を言いに来ている。ただ、現状最悪な状況にあるカエルラ領を見ても、苦情を言ったところで水没した家が綺麗にまるまる戻ってくる場合はあり得ない。もらえて修理代金貨三〇枚程度。大金を払って家を狩っていたものからしたら溜まったものではない。

 ただ、自然現象が原因なので誰も攻められない。攻められる相手がいるなら、楽だが叩く相手がいないのだから人々の鬱憤は自分の内側に秘める。いつか、我慢の限界で爆発したりしないだろうか。爆発もできない位打ちのめされてしまう可能性もゼロじゃないか。


 キュアノはビービー泣き言を放っている冒険者達を尻目に、食堂に移動すると値段が高騰している肉料理を悠々と注文する。

 僕とキュアノは四人席に座る。昼頃なのに、昼食を得に来ている冒険者の数はゼロ。

 広い食堂が貸し切り状態になっていた。僕とキュアノだけで使うには広すぎる。まあ、使うと言ってもテーブル一台あれば十分なのだけれど。


「これだけ静かな食堂も珍しいな……。他の冒険者たちはどこに行ったのか……」


 キュアノも周りに冒険者がいない状況にソワソワしていた。誰もいない方が安心できるような気もするけれど、僕と二人きりだと気まずいのかな。

 人が少ないおかげで、料理はすぐに運ばれてきた。以前の二倍に値上がりしている料理。肉とパン、スープ、野菜の組み合わせ。味はいたって変わらず、普通に美味しい。


「教会にいるブランカさんは無事?」


「教会はまだ、浸水していないけど、危険だから実家の方に非難した方が良いって言っても聞かないの。実家に帰るくらいなら、教会にいた方がましだって」


「そうなんだ……。まあ、ブランカさんは案外頑固だからなー。実家に帰らせるのは難しいからもね」


「ええ……、マレインがお姉ちゃんと一緒に実家に行ってくれればいいんだけど、あの人、良くも悪くもお姉ちゃんの言うことしか聞かないからお姉ちゃんが帰りたくないって言ったら帰らないのよね……」


「マレインさん、ブランカさんとずっと一緒にいるの?」


「いいえ、人助けしてきた後、夜に教会に来るくらい。お姉ちゃんに良い人だと思われたいのかもしれないわ。演技してもお姉ちゃんは人を見る目があるからすぐに気づかれちゃうのに」


「キュアノは男を見る目が無いのにね」


「う、うっさい! そ、そんな才能、全然いらないから!」


 キュアノはキャッキャキャッキャと怒り、僕にヤジを飛ばす。その姿が、以前よりも角が取れた怒り方でどことなく可愛らしく見えてくる。本気で怒っているわけではないらしい。


「別に、今は男なんてどうでもいいのよ……。お姉ちゃんがマレインとくっ付いてくれれば私は勇者の仕事を終えた後も自由になれる」


「勇者の仕事を終えた後は、どうするの?」


「……お、オルちゃんと水族館で働くわ」


「へぇー、まあ、それもいいかもね。キュアノだったら、何かあってもすぐに対応できるし、可愛い水着を着てかっこかわいいオルキヌスと一緒に泳げば人気者間違いなし」


「わ、私が水着なんか着ても可愛くないし……」


 キュアノは胸に手を当て、視線を白々しく反らした。別に胸の大きさで可愛さが決まるわけじゃないのだけれど……。まあ、キュアノはプラータちゃんと同じくらいぺったんこだ。成長する可能性があるプラータちゃんに比べ、すでに二〇歳になっているキュアノは見込みが薄い。

 大きなおっぱいもいいが、小さなおっぱいもそれはそれでいいと思える。


「はぁ……、あんたと話していると、なんか、日ごろイライラしているのがバカらしく思えてくるわ。どうしたら、あんたみたいにしれーっと生きていられるの?」


「別にしれっと生きているわけじゃないけど……。やっぱり、妻の影響が大きいかな。二人がいてくれるだけで、生きているのが楽しいんだ」


「ちっ! 幸せ自慢か……、こんちくしょう」


 キュアノは握り拳を作り、テーブルに叩き落とす。食器が軽く浮かび、すぐに落下して木製の板同士がぶつかったような乾いた音が鳴る。


「私だって……、私だって、気の許せる相手と結婚して幸せになりたいわよ。もう、一人は嫌。ベッドで裸になって抱き合いながら、沢山愛を囁いてほしい……」


 キュアノは欲望を口から垂れ流しにしながら項垂れていた。


「私が頑張っても、周りの冒険者やカエルラ領の人達の性格は全然変わらなかった。やっぱり、カエルラ領の人に期待していたのが間違いだったのよ。もう、期待なんてしない。この状況じゃ、他の領から観光に来る人もいないし、このまま、一人でおばさんになっていくんだ。もう、ホストにでも行こうかな……」


 キュアノは自暴自棄になっており、自分だけが頑張っていても何も変わらない現状に嫌気がさしているようだった。ただ、まだ一ヶ月程度しか経っていない。もとから他人を見下す精神が染みついている領民たちの心を開けるには時間があまりにも短い。


「キュアノが頑張りだしてから、まだ、一ヶ月しか経っていないじゃないか。あと、二カ月、三カ月と続けて見たら何か変わるかもしれないよ」


「一ヶ月しか? 一ヶ月も、の間違いでしょ。私が一ヶ月も律儀に頑張るなんて、奇跡よ」


 キュアノはもっと褒めてほしいとでも言いたげな表情を浮かべながら僕を見て来た。確かに、仕事嫌いなキュアノが一ヶ月もの間、頑張って勇者してきたのは知っている。

 キュアノにとっては頑張っていたのだと思い直し、突っ伏している彼女の頭を優しく撫でる。まるで娘を慰めているような光景だが、キュアノの方が三歳年上……。

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