愛せているか
他の領土に借りを作りたくないからか援助団体とか、他の領土の冒険者とか、誰も人を雇わない。このままで大丈夫なのか不安に思うが、僕たちが何か言っても誰も聞く耳を持たない。
キュアノが声をかければ、一日は掃除するだろう。だが、次の日は絶対に来ない。その後も来ることは無い。一度掃除したんだから、もう良いだろう、と言うもの達ばかり。
掃除していない者に比べればいいかもしれないが、まだ、大量に残っているのに……。イら立っても仕方がない。僕たちに出来るだけの仕事をする。それだけだ。
午後はキュアノも手伝ってくれたので、午前中よりも大分楽だった。
「はぁー、今日も頑張ったー。えっと……、午前中はごめん……」
「気にしないで。午後は掃除してたし、一日が辛いなら、半日でも問題ないよ。掃除しないより断然マシ。キュアノは本当に偉いね」
僕はキュアノの頭に手を置き、軽く撫でる。褒められると明日のやる気が湧くらしい。
前のキュアノなら、僕に撫でられるだけで激高しそうだけど、今はいたって穏やかだ。
ただ、ミルがキュアノに嫉妬してしまうのが大変……。ミルの頭も撫でるとキュアノが割り込もうとしてくるので、両方の手で両者の頭を撫でる……。双子と言う訳ではないが、背丈が似ているので、撫でやすい。
「キュアノさん、勘違いしないでくださいね。キースさんはぼくの! 夫なんですから!」
「べ、別に勘違いなんてしていないわ!」
キュアノはミルの発言に怒り、踵を返し、帰って行った。少々泣きそうになっていたので、何かしら思うところがあるのだろうか。
「ミル、あそこまで言わなくても……」
「事実を言っただけですよ。キースさんはぼくの夫なんです。他の女の人に色目を使っちゃ駄目ですよ。もう、最低で三人も妻がいるんですから、増やしすぎないでください」
別に増やそうと思っていないけれど……。
ミルの抱き着きがきつく、簡単に抜け出せそうにない。抱き着かれたままアルブの脚を持って飛ぶ。ミルの抱き着き具合からして、結構鬱憤が溜まっているらしい。
観光もあまり出来ないし、灰掃除を終えたら王都に戻ろうか。イリスちゃんも、ずっと一人にさせるわけにはいかない。たまには帰ってあげないと、また、一人で突っ込んできそうだ。
家に帰り、シトラに僕とミルの状態を見られる。
特に怒られることなく、家の中に入った。夕食の前にお風呂に浸かり、今日の疲れを取る。
「キースさん、ぼく、我慢できません……」
ミルは僕の首に手を回し、金色の瞳を潤わせながら話し掛けてくる。
「今は避妊具を持ってないからダメだよ。夜まで我慢して」
「そ、そんな……、ぼくの体はもう、キースさんを求めて仕方がないのに……」
ミルは僕にくっ付いて、下唇をハムハムと咥えてくる。やはり、猫族なだけあって感情を抑えるのが苦手らしい。もう、全身で愛を欲しているように見えた。
「ミル、大丈夫。僕はミルを愛しているよ」
ミルをぎゅっと抱きしめながら耳元で囁き、背中を撫でる。
ミルのフーフーと言う鼻音が響き、抱擁に夢中になっていた。気持ちは出来る限り伝えないと、伝わらない。
気持ちだって、変わっていくのが普通だ。でも、二年経ってもミルへの気持ちは変わらない。
ミルの左薬指に嵌っている白金の指輪にキスし、ミルに僕の左薬指に嵌っている白金の指輪を見せる。
彼女はパクリと咥え込んでしまった。洗ってあるので汚くはないが、それでも手はあまり舐めてほしくない。
指を咥えさせるのを止め、軽くキスする。キスは愛を伝える良い手段だ。
「ミル、気持ちはどれくらい納まった?」
「さっきの八倍、エッチしたくなりましたぁっ!」
ミルは僕にしがみ付き、腰をヘコヘコと動かしている。獣族は愛情表現豊かだ。
避妊具無しでミルを愛するわけにはいかないので体を洗ってから、お風呂を出る。そのまま夕食の席に着くわけだが、ミルが僕の膝の上に乗って股を擦りつけながら自分で自分を諫めている。
「ミルちゃん、食事中にはしたないよ」
「だ、だって……、キースさんがすっごく焦らしてくるんですもん。すっごくすっごく体が苦しいのに、ぼくの体がキースさんを求めてるのに……」
ミルの欲求は膨れ上がるばかり。我慢することも大切だ。お腹に手を当て、無色の魔力を少し吸い取り症状を軽くするが、すぐに再発する。
鍛錬して強くなり、魔力の量が増えれば増えるほど発情しやすくなってしまう。腰を叩くだけでも、ミルの甘い声が部屋に広がる。このままだと、周りの獣族にも影響するだろう。彼女のフェロモンは強すぎるので、すぐに静める必要があった。
食事をとって寝る準備を終えた後、僕はミルに襲われる。ベッドの上に乗った瞬間、衣類を剥ぎ取られ、プラスさんが作った避妊具を付けられてすぐ、愛し合うことに……。間を省いても問題ないほどミルの体は濡れていた。
シトラは鋼の精神で発情を堪えていたようだが、ミルが盛ると彼女も同じように獣に変わる。両者を愛し、満足させるのが夫の役目。
少し前に軽い喧嘩が勃発してしまったが良好な関係を続けられている。少し前に届いたアイクさんの手紙に、感謝の気持ちを伝えるよう伝令があった。感謝の気持ちを伝えると言う最低限の会話を続けた。
ミルとシトラは互いに満足したのか両者共にベッドの上に寝ころんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。さ、最高……。キースさん、ぼく、幸せです……」
ミルは僕の腕をムギュっと抱きしめ、頬擦りしながら感謝してくる。どうも、鬱憤は綺麗さっぱり消えたようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。もぅ、これじゃあ、ただの獣と変わらないじゃない……」
シトラも尻尾を大きく振り、腕にしがみ付いている。ミルと同じく気分がよくなったのだろう。毎日だと多すぎるし、鬱憤が溜まってからだと時間がかかる。もう、夜が明けそうだ。
長い間愛し合っていた。毎日でも飽きない気がするけれど、作業にならないか怖い。
二名の欲求に付いていけるだろうか。そんなことを考えてしまう。多くの妻を作るのは構わないのだろうが、他の男が大勢の妻を持たない理由を何となく察してしまう。
全員を平等に愛するのがどれほど大変なのか……。愛の無い結婚生活と言うのは避けたい。一人一人、真剣に向き合って生きて行かないといけない。無責任な人間になりたくない。
「僕、二人をちゃんと愛せているかな……。抱きしめて心が温かくなれば、愛だよな」
ミルとシトラを優しくぎゅっと抱きしめると、ものすごく暖かい。愛おしいと思えているから大丈夫……。妻たちを愛していると自覚し、眠りにつく。




