余計なお世話
「はぁ、はぁ、はぁ……。ぬめぬめ、ドロドロ、獣臭い……。もう、最悪……」
「これが冒険者の仕事だよ。でも、これでこの魔物たちが列車を襲わず、脱線して事故が起こる可能性が減った。素晴らしい行いだよ」
「大げさすぎるでしょ……」
「いやいや、ホーンラビットに攻撃されて亡くなる方もいるくらいだから、大なり小なりキュアノは人の役に立った。凄いよ」
「だ、だから、大げさだってば……」
キュアノは視線を反らし、ブツブツ言っている。何気に初めてホーンラビットの依頼を受けたらしい。新鮮な気持ちになれたと言う。
素材を持ってカエルラ冒険者ギルドまで戻る。キュアノは受付に凍ったホーンラビットの肉と魔石、角、毛皮と言う具合に手渡して行く。
「あ、ありがとうございました。すぐに状態を調べますね」
受付嬢は品の状態を調べ、少し割高の値段を提示。いつも金貨八〇枚ほどを受け取っているキュアノにとって金貨一三枚と言う値段は少なく感じるかもしれない。でも、ホーンラビットを狩って金貨一三枚は破格だ。
「あ、ありがとうございました」
キュアノは顔を引きつらせながら頭を下げる。ものすごく気幻想な表情だ。
僕と共に冒険者ギルドを出ると……。
「なによこれ! 半日かけていつもの八分の一程度しか稼げてないんだけど! こんなの時間の無駄すぎるでしょ! 金貨一三枚じゃ、真面な服が一枚も買えないじゃない」
「普通だよ。なんなら、他の領土だともっと少ない。この領土は青髪冒険者を優遇している」
「これで……」
「今回は上手くいかなかったことが多いけれど、何度も重ねて行ったら確実に上手くなる」
「そうかもしれないけど……、こんなことに何の意味があるの……。時間の無駄としか思えないわ」
「継続は力なりと言うし、お願いされたらその仕事をこなしてみよう。失敗しても良いし、周りの目を気にする必要もない。誰かの役に立つことなら、何だっていい。緑色の勇者のプラスさんは人助けの精神がすごかった。あれこそ勇者のあるべき姿だと思ったよ」
「プラス……、あの雑魚のこと?」
「ざ、雑魚……。そっか、キュアノは去年の勇者順位戦しか見ていないんだ……。えっと、他領の情報は入ってこないの?」
「そう言われてみれば、他領の話しなんて全然聞かないわ。流れてきて王都の話しくらいね。それ以外はほぼカエルラ領の話しばかりよ」
「なら、仕方ないね。プラスさんは七月ごろに討伐難易度特級のアルラウネを倒したんだよ」
「アルラウネ……。あ、アルラウネって、あのアルラウネ?」
キュアノは目を丸くし、何度も同じ名前を連呼していた。
「声を聴いた者を即死させる魔物。二〇年前にやって来た個体で、さらに強くなっていた。そのアルラウネを倒したんだ」
「う、嘘でしょ……。あ、あの雑魚が……」
「キュアノ、人を雑魚呼ばわりするのは良くないよ。プラスさんのほうが年上でしょ」
「同級生だけど」
「…………同級生。つまり一九歳か二〇歳と言うこと。あぁ……、そ、そうですか」
「あんた、いま、私を子供だと思ったでしょ。キースの年齢は」
「一七歳……」
「えっ! 年下! セ、背も高いし、大人っぽいから、も、もっと年上だとばかり……」
僕は同年代か、もっと年下かと……。
「一五歳から勇者をやってるのよ。もう、四年くらい。さっさと私より強い人がでてきて交代してくれないかな……。でも、そうか。年下かー。へぇー。年上の私を見降ろして楽しい?」
キュアノは自分が年上だとわかるや否や、真下から笑って弄ってくる。ものすごく小さいので手を伸ばしても僕の頭に届かない。
「キュアノは小さいんだから心は広く大きくならないと」
「な、なにをっ~! このガキんちょが!」
キュアノは両手を持ち上げ、身を大きくして威嚇するが物凄く小さいので恐怖はない。手首を持ってふわりと浮かせるとさらに怒り、持ち上げた反動を利用して膝に蹴りを打ち込また……。顎が外れるかと思った。一瞬驚いたがキュアノのやってしまったと言う顔が面白くて痛みは消え、すぐに地面に下ろす。
「まったく……、女子に身長と体重、胸のことを言うのは禁句なんだから」
「ごめん……、キュアノもそう言うことを気にしているんだね」
「あ、辺り前でしょ。もっと背が高くておっぱいが大きければ、すぐに領土から出られたと思うわ」
「そうかな。もし、キュアノがもっと背が高くて、胸が大きかったら氷の魔女とか言われて恐れられそうじゃない? 今の姿だから皆、少し怖がるくらいで済んでいるんだと思うよ」
「ほんと失礼な奴ね……」
「僕は今のキュアノのままで良いって言おうとしたんだけど……」
「……言葉が足らないのよ、バカ!」
キュアノは僕に怒号を飛ばし、脚を蹴って来た。暴力はいけないと思うな。
「すぐに手を出す癖も治した方が良いと思うよ。僕じゃなかったら、怪我してしまう」
「よ・け・い・な・お・せ・わっ!」
キュアノは大口を開けながら叫ぶ。まるで、小型犬に吠えられているかのよう。悲しさと可愛さが合わさり、何とも言えない。まあ、まだ性格矯正は始まったばかり。
個性は残し、人に迷惑が掛かるような悪癖はしっかりと治してもらおう。そうすれば、キュアノ本人を好きになってくれる人が現れるかもしれない。今のままではだめなのだから、別の方法を試すしかない。
己を磨き、心から尊敬されるような人になってもらいたい。
人柄がよければ、質の良い人は自然と寄ってくるはずだ。
「じゃあ、キュアノ。また明日、朝にカエルラギルドで落ち合おう。明日はミルも連れてくるよ。同性と話すのも勉強になると思うし」
「うぅ……、わかったわよ。好きにすれば。じゃあ、もう帰る」
キュアノは空を飛び、どこかに行ってしまった。僕は彼女の姿に手を振り最後まで見届ける。
結局一度も振り返ってくれなかったけれど、僕の方を気にしている様子は見て取れた。
「家に帰って報告しないとな」
僕はアルブの脚を掴んで、家まで送ってもらう。庭でマレインさんとシトラ、ミルが組手を行っており、それなりに型に嵌っていた。僕たちと生活し、無色の魔力を多く受けていた影響もあるかもしれない。




