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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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キュアノさんの八つ当たり

「あ、ありがとう。いつ見ても変わった魔法ね。なにが起こっているのかさっぱりだわ」


「まあ、服と海水の間に無色の魔力を無理やり入れ込んだと言うところでしょうか」


「そんな技術をあなたが扱えるなんて、なんか負けた気分……」


 キュアノさんは空中にフワフワと浮きながら呟く。僕からしたら、自分の力で空中に浮ける彼女の方がすごいと思う。僕はアルブの力を借りているだけに過ぎない。だから、キュアノさんが負けた気分になる必要なんて、微塵もなかった。


「キュアノさんと僕じゃ勝負になりませんよ」


「はぃ? 私と勝負にならないって? 聞き捨てならないわね!」


 キュアノさんはいきなり怒り出し、異空間から先端に大きな魔石が付いた身の丈よりも大きな杖を取り出した。魔力が全身から吹き出し、青色の長い髪と薄手の服装が勢いよく靡く。夏場で、まだ暑いにも拘らず一帯が一瞬で冷え込み、海水の表面がパキパキと凍り始めていた。オルキヌスたちは身の危険を感じたのか、キュアノさんから距離を取る。


「ちょ、キュアノさん、何を怒っているんですか。僕とキュアノさんじゃ鍛錬してきた時間や才能の差は歴然のはずです。僕はあなたの足下にも及びませんよ」


「凄い謙遜するじゃない。あんたのことだから、私をおちょくったわけじゃないと思うけど、一度戦ってみたかった。丁度良いから杖を抜きなさいよ。あんたも持ってるでしょ」


「そ、そんな……」


「抜かないなら、このまま放つわ」


 キュアノさんは結構好戦的な性格をしているらしい。彼女は杖先を僕に向け、無詠唱で魔法陣を出現させ水の塊を大量に放って来た。無詠唱で青色魔法を容易く発動できるなんてやはり彼女は魔法の天才児。

 僕は杖ではなくアダマスの柄を握って引き抜いた。そのまま水の塊を全て切りさき、攻撃を防ぐ。


「へぇ、魔法だけじゃなくて剣も使えるの。案外やるのね。じゃあ、剣でどこまで防げるか見せてもらいましょうか! 『青色魔法:ウォーターボール』」


 キュアノさんは発生速度より、威力と移動速度を重視し詠唱と共に威力が高い攻撃を大量に放って来た。

 回避すると海水に直撃し、数メートルの水柱が立った。白い粒に見える海水が空から降ってくるが、気にしていられない。先ほどよりも二から三倍大きな水の塊が鉄の塊かと思うほど硬く重い一撃になって飛んでくるのだ。切りさいても水なので球体に戻り体にぶつかってくる。浮いている体が吹っ飛び、海面を滑るように力を逃がす。陸と勝手が違い、体への力の入れ具合が難しい。


「ほらほら、どうしたの! 魔法を使いなさいよ! 私に魔法を使わなくても勝てるっていいたいわけ? 相当な自信家ね!」


 キュアノさんの攻撃は止まらず、僕は防戦一方だった。魔法を使えばキュアノさんの攻撃は完全に届かなくなるだろうが、魔法の扱いに長けていないため、上手く使える自信が無い。

 そもそも、すでに『無限』の無色魔法を使っており、海中に立って戦っている。これを水にすれば魔法は防げる。でも、キュアノさんが氷を使った場合は攻撃が防げたとしても海に落ちてしまうだろう。そうなってしまったら、戦いではなく力の暴力になってしまう。

 この場はキュアノさんにとってあまりにも勝手が良すぎる戦場だった。


「『青色魔法:ウォータートルネード』」


 キュアノさんは海水に触れると、水が渦巻きながら天に上る。巨大な竜のような姿は迫力満点だ。一本だけではなく、二本、三本と言う具合に生まれ、僕に襲いかかってくる。だが、海水はすでに『無限』で隔離されているため僕に到達することはない。水の柱の勢いがどれだけ強くても、すんでのところで停止している。

 だが、大量の海水が視界を覆い、キュアノさんの位置がわからなくなった。数秒後『無限』の効果外である氷の攻撃が海水を突っ切って撃ち込まれる。


「くっ!」


 つららのような氷の槍が頬を割き、冷たさと熱さを同時に受ける。頬から血が流れ、海面に薄い赤色の波紋を広げた。


 ――やっぱり、勇者は凄いな。


 海水で視界を覆ってからの全方位から氷の攻撃を打ち込んでくるなんて、始めから僕を殺しにかかっている。どうやら僕は彼女から相当嫌われているらしい。

 『無限』の対象を海水から氷に変更し、海中に落ちる。氷の攻撃は回避できた瞬間に『無限』の効果を海水に戻すと、僕の周りから海水が跳ねのけられる。その反動は僕を空中に軽々と持ち上げるほどの反発だった。


 キュアノさんは海水から飛び出してきた僕にぎょっとしており、笑みを浮かべている。


 僕は彼女の方に向かうため、足裏に無色の魔力を溜め、一気に噴射し、獣拳の応用で空中でも方向転換。彼女に近づくにつれ、空気中の温度が下がり指先に霜が降りる。夏場の上空に冬場が生まれ、口から吐く息が凍る。瞳の涙まで凍りそうになり、体がかじかむ。


「『青色魔法:フローズンビーム』」


 キュアノさんの満面の笑みから放たれる愛くるしい声が空中に響く。杖先の大きな魔石が輝くと、魔法陣が展開された。魔力が打ち込まれると空気中の水分が凍結し、光を反射して白色になっていく筋が僕に向ってくる。指先に触れれば、一瞬で凍り付くと想像できた。


「『無限:対象、青色魔法と僕』」


 キュアノさんの裏をかくために、この攻撃を受ける必要がある。攻撃は僕のすんでのところで止まっているものの、勢いが強く海面の方に押し付けられる。すると、海面に当たった青色魔法の効果で海面が凍り付き、僕の体が氷に埋め込まれる。魔法は当たっていないのに、海面の氷に体の体温を奪われ、じわりじわりと体力を奪われた。


「そこそこ頑張っていたけれど、しょせん白髪ね。私より弱い男に興味なんて微塵も沸かないわ。やっぱりこの気持ちは単なる勘違いなのよ! そのまま、凍って死ねえっ!」


 キュアノさんの叫び声が空中に響くと魔法の圧力がさらに増し、息を吸うたびに喉が凍りそうだ。本当に殺しに来ているのではなかろうか。どこか、八つ当たりな感情も感じられる。


 ――このままでは本当に死んでしまう……。


 僕は手の平に無色の魔力を溜め『フローズンビーム』に向けて勢いよく放つ。その一瞬で生まれた隙に『無限』で氷から抜け出し、『無限』を解除。『無視』でキュアノさんの視界から消える。


「つっ、どこに行ったの……。影の消し方がうますぎるでしょ……。このままじゃ的ね。『青色魔法:ミスト』」

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