ミルの誕生日にどこに行く
お腹が弾けんばかりに食べ終わったマレインさんは気絶するように眠りについた。
フカヒレスープに魚肉の甘辛煮、魚肉フライ、パン、山菜、鹿肉と言った具合に沢山の料理が並んでいる。僕も山盛りの料理を食らいつくした。
お風呂に入り、寝る準備を終えたら二階のベッドに倒れ込む。
別に同じ部屋で寝る規則があるわけじゃないので、違う部屋を使ってもいいのだが、シトラとミルは僕の隣に転がり込んでくる。冷房が効いているので、三人でくっ付いても熱くはない。
「二人共お休み……」
「き、キース、今日、まだ、一度も……してない」
シトラはブツブツ呟いていた。その言葉を聴き、思い出す。
シトラの顔を見ると頬が赤らみを帯びている白い肌が月明かりに照らされており艶やかだった。今朝は少しぎすぎすしていて出来なかったことがあった。やっと思い出したのかと言いたそうな彼女に飛びつく……わけではないが歯磨き粉の味がわかるほどじっくりと長めのキスをした。
シトラと何か言葉を交わしたわけではないが、彼女は満足そうに背中を向け尻尾を振るっている。反対側にいるミルを見ると頬がはち切れそうになっていた。
頬を突くとシャボン玉が割れるように、ぽっという音が鳴って頬が元に戻る。
ミルの方から首に手を絡めてきて、唇を貪り食って来た。
朝と夜の二回のキスを足し合わせてもあまりが大量に出そうなほど濃密な時間だった。それ以上のことはせず、唇を離して微笑み合って一緒に目を閉じる。
シトラとミルが寝たのを確認した後、ベッドから降りて勉強を始める。再来年の四月までに高等部の卒業資格を取らなければ、大学に行けない。大学は入るのは簡単だが出るのが難しいと言うし、しっかりと勉強しておかないとな。
僕は『無休』で疲れを感じないまま起き続け、早朝から剣の鍛錬に勤しむ。東から日が昇ると、綺麗な海がより一層綺麗に見え、心が晴れやかになる。
汗を掻いた体をお風呂で綺麗に洗い流し、寝汗を流しに来たミルとシトラにキスして心を穏やかにする。明日はミルの誕生日なので、贈物や移動経路を考えないとな……。
シトラが作った大量の朝食を得た後、僕とミルはカエルラ冒険者ギルドで雑用の依頼を受け、難なくこなす。
お金ももらえて領土が良くなるのなら、冒険者冥利に尽きるだろう。
午前中に仕事が終わってしまったので、ミルと共に家に帰り、マレインさんの稽古に参加する。そのまま、勉強やおやつの時間など僕たちの好きなことをして日々を過ごした。
仕事した後に遊ぶと、心身共に健康でいられる気がする。もう少し早く気づいていればよかった。まあ、今さらそんなこと言っても仕方がないので、カエルラ領の中をどうやってデートするか色々考えた。
もう一度海に行くとか水族館に行くと言うのも二日前に行ったばかりだし、何か、いい案が無いか体を解しながら考える。
裏道料理屋巡りをするのはどうだろうか。僕たちを断ってくるお店ではなく、皆にやさしい裏道のお店でデートと言うのも乙だろう。
獣族の女性達が欲しがるような品がずらりと並んでいるかもしれない。少し神頼みのようなデートだが、ミルなら喜んでくれるだろうか。いまいちな雰囲気になったら嫌だから、別の案も考えておこう。
僕はウンウン唸りながら午後五時を迎え、メジさん達と漁場に行く。キュイーっとなくオルキヌスの群れがすでにおり、昨日と同じように僕たちと漁をした。
一度きりかと思っていたがそうでもなかったらしい。オルキヌスたちと漁をして、大量の魚を捕獲した後、いつも通り岸に戻る。
「メジさん、明日はミルの誕生日なんですけど、カエルラ領でどこか行っておいた方がいい場所とかありますか?」
「えー、そうですね……」
顔に傷が入っている獣族のメジさんは上裸のまま腕を組み、考え込んでいた。
「宮殿と劇場、美術館当たりが良いんじゃないですかね。観光客も行くばしょですし、金さえ払えば文句は言われないと思いますよ」
「なるほど、ありがとうございます。参考にしてみます」
僕は家に帰り、明日は休みということをマレインさんに伝えた後シトラが作った料理をたらふく食べる。
仕事した日の夕食はいつも以上に美味しく感じられる。幸せな生活とは何か努力した苦労があってこそ、輝くのだとわかった。
ずっと幸せでいることは出来ず、幸せを原動力に使って努力や苦労し、再度幸せを味わって原動力を溜める。そう言う循環が成り立っているのだろう。
努力した時の幸せは一級品だし、辛い時の小さな幸せも身に沁みる。そう言う生活が理想的なのだろうな。
今日は早めに寝て、明日朝早く起きる。そうすれば、長い間誕生日を楽しめると言うミルのお願いを聴き入れ、早めにベッドに入った。
僕はすっと起き、昨日と同じように勉強に勤しむ。幸せを原動力に使っておけば、ミルとのデートの幸せを存分に味わえるはずだ。
午前五時、今日はいつもと違う目覚めにしてもらおうと、ミルが指定した日時に起こしに来た。
何気に、眠っている妻にキスして起こすのは初めてかもしれない。もう、すでに幸せそうな顔で眠っているミルの頭を撫でながら、布団をかぶせる時よりも優しく唇を重ね合わせる。
反応が悪い時は少し大人のキスを織り交ぜる。
ミルは一〇秒後に起き、全身を震えさせながら目をギンギンにさせていた。
「ミル、おはよう」
「き、キースさん、こ、この起こされ方やばいです……。あ、朝っぱらから心臓が破裂しちゃいそうでした!」
「僕の気持ち、少しは理解してくれたかな」
ミルの頭を撫で、艶やかなおでこが朝日に照らされ輝いて見える。それ以上に彼女の瞳のほうが輝いていた。
「き、キースさんとぼくとじゃ全然違うと思いますけど……」
「一緒だよ。僕はミルにキスされると、いつもドキドキしているんだ。ミルが可愛すぎるのがいけないんだよ」
「な、なんか、今日のキースさん、ちょっと酔っぱらっていますかっ!」
ミルは体をくねらせながら、僕の首に腕を回しこれでもかと抱き着いてくる。両脚を背中に回され、セミが木にくっ付いているようだ。
「ミルが喜んでくれるような誕生日にしないといけないなって思ったんだよ。なんたって、ミルは僕の愛しの妻だから」
ミルの耳元付近で、優しくつぶやいてみる。
「にゃぁああああああ~っ!」
ミルはベッドの上で体をうねらせながら這いまわり、心から気持ちを高ぶらせていた。どうやら、上々の滑り出し。僕の気持ちはしっかりと届いている。
今日は誕生日ではないシトラの方は頬を膨らませながらも、何も言わずに服を着替え始める。ミルもシトラと同じように服をささっと着替えだした。




