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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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水族館デート

「凄い知識が増えたね」


「海って綺麗なだけじゃなくて、怖い生き物もたくさんいるのね……」


「それはそれで、神秘で素敵ですけどね。もしかしたら凄いお宝が眠っているかもしれませんよ。昔の船に積まれていた金銀財宝があったりして」


 シトラとミルは想像力を膨らませ、楽しそうに話していた。久しぶりのデートをしっかり満喫してくれているようだ。キュアノさんと共に一度見て回ったかいがあるな。


 水族館の中で魔道具による放送が流れる。午前二時頃からドルフィンによる催し物があるという。昨日見た催し物は凄かった。ぜひ、シトラとミルにも見てもらいたい。


「シトラ、ミル、ドルフィンの芸を見に行こうか」


「そうね。海の生き物とどうやって演技するのか、気になるわ」


「犬と同じくらい賢いんですかね。海にも、そんな生き物がいるなんて、凄いです!」


 両者共に、海の動物に興味津々だ。

 共に、施設内の会場にやって来て扇状に広がる観客席に座る。一人、二人と席に座り、ドルフィンの芸を楽しみにしている者が集まって来た。観光客が多くを占めているが、カエルラ領に住む者も含まれており、皆に人気があるとわかった。


 僕はイリスちゃんから貰った懐中時計を開き、時間を確認するときっちり午後二時にドルフィンの演技が始まる。

 どこからともなく聞こえてくる音楽に合わせて、ドルフィンが水槽の中を優雅に泳いでいた。なんなら、青髪の飼育員たちがドルフィンの背中に乗ったり鼻先で押してもらいながら水中を泳ぎ、海面から飛び出して水上五メートルの高さにあるボールをはじく。

 まるで、馬に乗るようにドルフィンを操り、水中を優雅に泳ぐ姿は実に幻想的でカッコいい。

 キュアノさんがドルフィンの飼育員になりたいという夢はなんて素敵なのだろうか。ぜひかなえてもらいたいが、彼女の体質にあっていないから難しいとのこと。


 隣を見れば、シトラとミルが目を輝かせながら、ドルフィンの演技を見ていた。

 もう、目が釘付けになっている。ざっと三〇分ほどの演技が終わると、会場から大きな拍手が送られた。拍手せざるを得ない……。お金を投げ込みたくなるほどだが、餌だと間違えてドルフィンたちが食べてしまうかもしれないので、硬貨の投げ入れは禁止されていた。


 興奮冷めやらぬシトラとミルは飛び跳ねながらドルフィンの真似をして、アウアウと言っている。尾びれを振って挨拶してくれたのを見立て、尻尾を使って挨拶しようとする。もう、ドルフィンの演技にのめり込み過ぎだ。


「もう、この水族館に来れただけで、カエルラ領に来たかいがあったわ!」


「そうです、そうです! 海よりもこっちの方が断然いい経験になりました! 海はキースさんの姿が他の女の人にじろじろ見られますし、クラゲはいるし、暑いしで大変でした。見ているだけで充分です!」


 シトラとミルは会場から出ながら気持ちを外側に早口で発散していた。暑かった外から涼しい館内に入ると、生き返ったような気分になり、見ていない場所を回ってお土産屋さんに到着する。ドルフィンのネックレスはまだ入荷していないようなので、シトラとミルの取り合いになることはなかった。だが……。


「あぁ~ん、どうしよう、ドルフィンのお土産が沢山ある~!」


「これも欲しいです、これも欲しいです、ああ、これも、これも~っ!」


 普段、倹約家の二名がドルフィンのお土産を見るや否や、買い物かごに商品を一つずつ詰め込んでいく。

 他の海の生物のお土産もあるのだが、やはりドルフィンの人気はすさまじい。


 シトラとミルの腕を刺しまくったクラゲのお土産を見た時の二人の目は殺人者のそれで、氷の中に入るよりも身が凍えた。

 デスシャークやメガロシャークの品も何だかんだ人気があり、良く売れている。お土産屋さんで一時間以上過ごせてしまうのだから、どれほど楽しいか想像に容易いだろう。


 僕たち三人は別々に買い物することになり、僕とアルブだけになった。アルブはどの個体を見ても食べ物にしか見えないそうなので、こらこらと軽く宥めながら何かしら僕もお土産を買おうかなと考える。

 以前、お中元を贈ったばかりなので、他の領の人に送るのは無しにしようか。まあ、イリスちゃんとプラスさん、プラータちゃんに可愛らしいドルフィンのお土産を送ってあげようかな。


 本物ではなく少し可愛らしい見た目に描き換えられた絵をもとに作られたぬいぐるみを一個手に取る。

 一メートルほどの大きさで、中々抱き心地が良い。抱き枕が好きなイリスちゃんに送ろう。


 二匹のドルフィンがキスし合ってハートの形を作り出しているマグカップを手に取る。プラスさんは紅茶をよく飲むだろうから、使ってくれるんじゃないかな。


 青々とした海の中を本物っぽいドルフィンの絵が描かれたガラス製の花瓶を手に取る。プラータちゃんが花を生ける時に使えそうだ。


 手荷物が多くなったので会計に行くと、この場から他領に郵送してくれるというので、ありがたく利用させてもらう。

 大きなぬいぐるみが金貨二枚、マグカップが銀貨五枚、ガラス製の花瓶が金貨一枚。お土産だからか、中々値が張る。でも、喜んでいる姿を想像すると、お金を容易く支払えてしまう。

 荷物が軽くなったころ、シトラとミルも買い物を終えたらしい。


「か、買い過ぎたわ……」

「でも、後悔していないです!」


 シトラとミルは大きな麻袋を抱え、笑っていた。どちらも楽しい水族館の思い出を買ったんだと言い、大金をはたいた言訳を語る。別に、言訳する必要ないと思うのだけど。


 水族館から出ると、午後五時頃だった。でも、夏なのでまだまだ明るい。


 大量の荷物はデートの邪魔になるのだが、獣族の二名の筋力と体力は常人ではないため、背負っていれば何ら問題なかった。まあ、周りから変な眼で見られるのだけれど。

 どこか開いている宿を探そうと思い、水上都市の中を歩いていると、どの男女よりも髪が青く座っている椅子から直径八メートル一帯を氷漬けにしている女性がいた。

 服装はフワフワのレースが何枚も付いた白色の半そでと、膝下まで隠れている黒いスカート。身長を少しでも高く見せようとしているのか、踵が大分高いヒールを履いている。丸テーブルの上に置かれた果物は完全に凍り付き、時間が止まっていた。

 熱伝導が良い白金のネックレスだけは彼女の体温で霜が付いておらず、輝きを保っている。

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