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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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心を折る

 ドルフィンの芸を見終わり、お土産屋さんでキュアノさんに少し高めのドルフィンのネックレスを購入した。別れ際にでも渡そうか。彼女の大切な時間を奪ってしまったのだから、感謝の気持ちと謝罪を同時にこなそう。


 午後五時三〇分ごろ、ドルフィンの人形やお菓子、プレートなどを買いあさっていたキュアノさんは満面の笑みを浮かべながら、買い物袋を抱きしめ、足取り軽く歩いていた。


「キュアノさん、僕はそろそろ帰ります。ドルフィンを見て、どう思いましたか?」


「可愛かった。カッコよかった。綺麗だった……」


 キュアノさんはドルフィンのぬいぐるみを抱きしめながら満面の笑みを浮かべ、完璧な青髪の状態を維持したまま拍子良く歩いている。

 丁度、前を向いているため、僕は彼女の後ろに歩いて行き、肩に手を置く。キュアノさんはぴたりと止まり、少し驚いている様子だった。


「そのまま、前を向いていてください」


 僕はキュアノさんの首に白金板で作られた二体ドルフィンがハートの形を模した細工が付いた白金のネックレスを首に付ける。

 見立て通り、一番短い長さでちょうどいい大きさだった。

 値段が値段で、誰も買っていなかった品。シトラとミルが見たら、欲しがりそうだったが、一つしか売られていなかった。喧嘩になる前に購入しておき、今日の記念にキュアノさんにあげることにした。


「よし、完璧ですね」


「な……、こ、これ……」


「キュアノさんに似合うと思ったので買ってきました。凄くよく似合ってますよ」


「こ、こんな高い品……」


「キュアノさんだって、毎日金貨八〇枚を溶かしているじゃないですか」


「そ、それとこれとは話しが違う。私はこの領土を出るために使ってる。でも、この首飾りは単なる無駄遣いじゃない!」


「いえ、そのネックレスはキュアノさんの大切な時間を使わせてもらった謝罪と感謝の気持ちです。僕はキュアノさんと水族館を巡れて凄く楽しかった。その綺麗な青い瞳が海のように輝いている姿がとても神秘的でした。あなたを愛してくれる人は必ずいます。だって、僕はキュアノさんを愛せますから」


「…………」


 キュアノさんは目を見開き、真っ青な瞳を僕に向けた。

 黒い瞳が青い海に浮かんでいるようで確かに威圧感がある。

 でも、赤い夕陽が瞳の涙によって反射され、真っ赤な海に見えた。顔や耳、僕の後方から差す夕焼けはキュアノさんの全体を照らし、後方に黒い影が最も長く伸びる。彼女は僕の顔を見ながら手に持っていたドルフィンの土産を全て落とし、開いた口が塞がらない。


「じゃあ、僕は帰りますね」


「え……、あ、あぁ。う、うん……」


 キュアノさんはしどろもどろになって言葉が詰まっていた。威圧感は無く、先ほどと印象が全く違った。今の弱々しいキュアノさんなら、威圧感を相手に与えず縁談が上手くいくかもしれない。彼女の元を去った僕はアルブの脚を持ちながら家に向っていた。


「主、キュアノさんをあんなにメロメロにしちゃってよかったんですか?」


「え? メロメロ? そうだった?」


「……まあ、主は鈍感体質なので仕方ないでしょう。でも、今、主はマレインさんをなぜ鍛えているのか覚えていますか?」


「そりゃあ、キュアノさん以上に強くなってもらおうと……」


「その理由は?」


「マレインさんの子供のころに会ったキュアノさん、又はブランカさんに求婚するため」


「もし、マレインさんが話した相手がキュアノさんだったら、主はマレインさんの恋敵になってしまう訳ですね。それはそれで面白いですけど」


「僕は別にキュアノさんと結婚したいわけじゃないけれど……」


「はぁ……、まあ、成るようになりますか……」


 アルブは僕を家まで運んだ。

 マレインさんはシトラと殴り合っており、今日はまだ倒れていなかった。

 痩せこけていた顏も元に戻り、以前の若々しいマレインさんになっている。

 だが、幼い雰囲気は抜け、大人の表情だった。まだ、シトラに一撃も入れられていないが、殴られてもすぐに立ち上がって反撃するだけの耐久力が付いてきている。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 マレインさんは地面に座り込み、息を荒げながら顎に滴る汗を手の甲で拭う。口角が少し上がり、自分の体が少しずつ変わっているのを実感しているように見えた。


「マレインさん、調子はどうですか?」


「ああ……、ボコボコに殴られて疲れているはずなのに、動こうと思えばまだ動けそうだと思えるくらいには体が変わった。俺は今まで本気で鍛錬した覚えがなかったんだな……。今までの本気は本気じゃなかった。今なら、わかる」


 マレインさんは僕のほうを見て、つぶやいていた。


「すました顔で限界なんて言っている奴は限界じゃない。血反吐が出そうになって堪えたと思ったら嘔吐して、涙鼻水唾液が止まらず、耳鳴りがして体が震え続け、悪寒発熱、その他諸々一心に受け、気を失ってようやく限界だったんだ」


 マレインさんは握り拳を作り、自分に自信が少し付いたように見えた。

 そろそろ、彼の心を折ろうか。骨は折れると繋がる時に太く硬くなる。心を折られていない者と折られて立ち直った者は強さに明確な違いが生れる。

 僕も家を出る時に心をバキバキ折られて、プラータちゃんやミル、アイクさんに会い、自分で心を治しシトラを救い出した。挫折の経験から立ち直った後は挫折を怖がらなくなった。なぜか、治せるという自信が付いたからだ。


「マレインさん、今からあなたの心を折ります。無理やりでも立ち直ってください」


「ど、どういう……」


 僕は内に秘めた無色の魔力を解放し、魔力を空に立ち昇らせる。狼煙のように伸びる魔力は僕を中心に半径数十メートル上。

 マレインさんは僕の姿を見て、完全に恐怖し奥歯をガチガチと震わせている。シトラとミルも立っているのがやっとの状態で、化け物と呼ばれても仕方がないくらいの威圧感を放った。

 キュアノさんが可愛いチワワだとするならば、僕はまさしくドラゴンの姿に見えるだろう。頭上にいるアルブの雰囲気が子供ではなく、一瞬大人の巨大なドラゴンになったかと思うほど神々しく見えた。

 無色の魔力をアルブに集めると、げっぷしお腹が大きく膨れ上がる。大量の魔力を食べて満足そうに滑空していた。

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