ブランカさんとの対談
「はぁ……、ほんと、あの子は……」
ブランカさんは大きくため息をつき、握りしめていた両手を開いて長椅子から立ち上がる。
「キースさん、お久しぶり……。えっと、背が結構伸びましたね……」
「二年も経てば背も伸びますよ。ブランカさんは前よりも表情が明るくなりましたね」
「はは……、二年も経てば多少は心の整理がつきますよ。でも、未だにあの時の光景は夢に見ます……」
「僕もです……」
僕とブランカさんは同じ地獄を見た者同士、久しぶりの再会に二年間の話しで花が咲いた。
教会の中はブランカさんの青色魔法で涼しく、心地よい空間だったのもあり、話しが進む。二年間分の話しが終わると、先ほどの話しになり……。
「私、最近、フラーウス領を除いて全領土を回り切って一度戻って来たんです。そうしたら妹から早く結婚しろと言われ、でも、私に結婚する資格なんてありませんし、妹の方が何百倍も優秀ですし、両親も勇者の素質がある妹ばかりを押していましたから……、あの子の方を長女にしたかったでしょうに……」
「えっと、婿養子を欲していると言うことは、男がいないと言うことですか?」
「はい……。妹なら相手は引く手あまたですが、私となると伯爵家の当主になる重圧と勇者の妹に才能を全て吸われた残りカスと結婚したい男性は現れるわけもなく。妹は家が嫌いでして、気の行くまま自由に暮らしたいそうです」
「なるほど。ブランカさんは教会の方なので、孤児かと思っていましたけど伯爵家のご令嬢だったんですね……」
「はは……、まあ、昔の話しです……」
ブランカさんの生い立ちはどうも僕と似ているようだ。手を貸してあげたいが、僕はブランカさんと結婚して婿養子になれない。すでに貴族だし、伯爵家を背負う力量も無い。
「はぁ……、黒髪のあのお方が救ってくれた命を燃やして生きていくと決めたのに、妹に拘束されてこの始末……」
「もしかして、閉じ込められてます?」
「はい。教会に結界が張られていて、自分から出られません……。私程度の魔法使いじゃ、青色の勇者の結界を壊せるわけもなく……」
「そうですか。どちらの気持ちも尊重したいですけど……」
「キースさん、私が逃げ出せるように協力してくれませんか? 妹には悪いですけど、そのままこの領土を出て、二度と帰ってくることはないですから」
ブランカさんは視線を下げながら、どうも後ろめたい気持ちを隠すように呟いていた。彼女は未だに罪を償うつもりらしい。
家のためとはいえ、結婚して幸せになるのは耐えられないと言うことだろうか。
「結婚願望はあるんですか?」
「……無いと言えば嘘になりますね。でも、私は教会に仕える巫女。結婚は許されていません」
「逃がすことは難しくありません。でも、そうなるとキュアノさんはいったいどうなってしまうんですかね」
「……多分、勇者の間は問題ないと思います。でも、勇者を下りた時、彼女は見知らぬ男と結婚させられる可能性があります。まあ、逃げるでしょうね。最悪、捕まえやすい私を拉致して家に引き戻されるかもしれません」
「大分強引な家なんですね」
「はい……。位が無駄に高い伯爵家なので、融通は利くんです。妹が言う通り、私も家には戻りたくありません。罪を償う旅の方が楽だと思ってしまいます……」
僕はブランカさんの気持ちが良くわかった。
僕も親がいる家に帰りたくなかったから。今は父親がいなくなったおかげで大分マシになったけれど、ブランカさんの家は両親がいる。その中に戻れと言うのは酷だ。
結婚しても罪は償える。まあ、その場合巫女は辞めないといけない。でも、親が結婚を要求しているのは跡取り息子が欲しいと言うことだろう。質は高いに越したことはないが、家を乗っ取うとしているような貴族は難しそう。
「理想に合った良い相手がいたらブランカさんは親の元に戻って結婚できますか?」
「それは……。私、妹には自由に生きてほしいんです。でも、勇者なので、自由どころか制限されていて……。私に才能があればよかったんですけど……」
ブランカさんは申し訳なさそうにぼそぼそと呟いていた。
僕がなにを言っても、意味がない。当時の僕に何を言われても変わらなかったと思うから。
「これからも、ブランカさんは罪を償う旅を続けていきたいですか?」
「私にできる罪滅ぼしですから、体が動く間は続けようと思っています」
「伯爵家の当主ではなく、その弟たちの者が次の当主を継ぐのは……」
「私もそう思っていたんですけど、親は何が何でも当主に選ばれた者の血族が良いらしいです。自分の有能さを見せつけたいだけだと思うんですけどね。勇者が生れたから鼻が高くなっているんです。全部正しくて自分が偉いみたいな……。そんな親でした……」
「はは……、僕の家もそんなんでしたよ。でも、色々なことがあって、大きく変わりました。ブランカさんも変わるべき時かのかもしれません。キュアノさんだってそうです。今は親への反抗期ってやつですよね」
「まぁ……、そうかもしれませんね」
「自分の意見も言わずに逃げるのは弱いものがすることです。話し会いの場を設けてどうしても無理だと思えば、逃げるか変わってもらえるように力を尽くしましょう。自分だけ何も変わらないのはずるいですから。相手を変えるなら、自分も変わると言うように条件付きで」
ブランカさんは視線を落としながら口をつぐんでいた。
「ブランカさんの家が抱えている領土に住む人々にも迷惑が掛かります。良い悪いがあれど、指揮する者がいなければ、魔物や盗賊の餌食になって家も没落するでしょう。キュアノさんが勇者じゃなくなった途端、周りの態度は激変すると思ったほうがいい」
「……そうですね。私だけの問題じゃない。ほんと、逃げるばかりで、情けないですね。思えば、あの時からずっと逃げてばかりです。立ち向かうのが怖くなってしまって……」




