教会に連行される
「なにがですか?」
「なにがって、デスシャークとメガロシャークを売って金貨一七枚ってどう考えてもおかしいでしょ。あと、なに、無料で人助けしているの。気持ち悪いんだけど」
「言ったじゃないですか。お金のために倒したわけじゃないですよ。あと、僕が持って来た素材で困っていたんですから、助けないわけにはいかないじゃないですか」
「そう、あんた、相当なお人よしなのね。あまりにも気持ちが悪いわ。善人がいたら良いなと思っていたけれど、本当に善人を見ると気持ちが悪く思えるのね。こんな感情は初めてよ」
「はは……、そうですか。よかった? ですかね」
僕はキュアノさんの発言の裏が読めず、とりあえず苦手なつくり笑顔を浮かべながら返答した。そのまま、無視を発動して『無重力』で帰ろうと思ったが、
「ちょっと、あんたが本当に魔物を倒したのか、確かめさせてもらいたいんだけど」
「時間を邪魔されたくないんじゃなかったんですか?」
「私の時間にあんたを巻き込んでるから問題ないわ」
「今さらですけど、あんたではなく、コルト・マグノリアスです」
「はぁ、あんたは私の名前を知っているようだし、自己紹介なんて面倒臭いことは省くわ。物が浮かせられるのなら、自分も浮けるでしょ。付いて来て」
キュアノさんは地面に魔法陣を無詠唱で展開し、浮きあがった。魔法の練度が今まで出会った者より高い。勇者順位戦は四位の実力だ。年齢はマレインさんと同じくらいだと考えると二〇代かな。子供の見た目なのに……。
「あんたいま、私を子供と思ったでしょ」
「え、あぁ、いえ、まあ……」
「嘘が下手なのね。ずっと善人ずらしてるから。そんなんじゃ、ずっと搾取されるだけ。騙され続ける一生になるわよ。他人なんて信じない方が良いわ。あと、私は子供じゃないから。次、子ども扱いしたら芯まで凍らせる」
「そんな簡単に殺さないでくださいよ……」
僕たちは空を飛びながら、大海原にやって来た。本当に広い。いったいどこまで続いているのかわからないくらい広い。
「海、何度見たことがある?」
「今日で二回目ですかね。まだ、綺麗だと思えます」
「そう……、私は六〇〇〇回以上見て来たけど、飽きない……」
キュアノさんは上空から水平線をじっと見ていた。その横顔は記憶に残っているブランカさんとうり二つ。
キュアノさんはツインテール、ブランカさんはポニーテールだったかな。もう、髪型と髪色で見分けるくらいしか双子を見分ける方法が無いほど関係が浅い。
「いた……、あそこ」
キュアノさんは大海原で泳いでいるデスシャークの群れを見つけると指さしながら僕の方に視線を向けてくる。
どうやら、あの魔物を倒してみろと言っているようだ。どのように倒せばいいのだろうか。売りに行くなら丁寧に倒した方がいいし、持って行かないなら、多少強引に倒しても問題ない。
「えっと、売りますか?」
「当たり前。ただ働きなんて死んでも嫌」
「はは……、働くのは僕の方ですけど……」
僕は右腰から白い杖を取り出し、先をデスシャークに向ける。無重力を使ってふわりふわりと浮かせたあと、アルブに固定してもらって無心で暴れさせないようにする。
そのまま、背骨を切って頭に剣を突き刺す。脳死状態にした後、アルブに血と臓器を食してもらい、討伐は終了。一匹に五分も掛からず、一〇匹ほど討伐した。
「あんた、どんな魔法を使っているの……。魔法陣や詠唱も無く浮かせたり、無心にさせたり……。ちょっとおかしすぎるわ」
「えっと、無色魔法って知ってますか?」
「え……。あの、無色魔法? ただの魔力を使って放つ魔法でしょ」
「その魔法を使って僕は戦っています。僕、三原色の魔力は持っていませんけど、魔力量はべらぼうに多いんです」
「なるほどね……。三原色の魔力が無いぶん、魔力量で補っているのか……」
キュアノさんは顎に手を当てて考え込んでいた。何か悩んでいることでもあるのだろうか。
「キュアノさん、デスシャークたちを凍結してもらってもいいですか」
「え……、ああ、そうね」
キュアノさんは大きな魔石が付いた長い杖を構え、デスシャークたちを氷漬けにする。あまりにも一瞬で凍ったので、さすが青色の勇者だなと思った。にしても、昨日、マレインさんは二〇メートルを超えるメガロシャークも凍らせてみせた。彼は案外凄いんじゃないだろうか。魔法の才能があるなら、魔法の才能がある人に教えてもらったほうがいい気もする。
でも、キュアノさんは無駄な時間を過ごしたくないと言っていたな……。お金を払ってお願いしても、普通に働いたほうが給料が良さそうだし、断られるだろうな。
「あんた、髪が丁度白いし旅人だし、紹介したい人がいるんだけど」
「紹介したい人……」
「そう。いつまでたっても結婚しないでフラフラ旅している人がいるんだけど、貰ってくれない?」
「はい?」
キュアノさんは何とも唐突な人だった。相手の気持ちは考えず、自分の考えをとにかく伝えてくる。まあ、自己中心的な人と言う印象だ。頭がいいフレイみたいな人で、少々苦手かもしれない。魔力で僕を強引に引っ張り、カエルラ領の教会に連れてこられた。
「お姉ちゃん、良さそうな人、見つけて来た。カッコよくて強くて優しくて情が深い男だよ。お姉ちゃんの注文通り。これで文句ないでしょ?」
キュアノさんは僕に見せる冷たい視線ではなく、猫が本当に大好きな相手にしか見せない甘ったるい表情で笑っていた。
「ちょ、また……。へ……」
教会で祈りを捧げていた白ローブの方が振り返ると、キュアノさんとうり二つの女性が現れた、加えて、僕は見覚えがある。
「ブランカさん……」
「き、キースさん」
「え、なになに? 知り合い? うっそ~、超運が良いじゃん。じゃあじゃあ、早速結婚して家の後を継いでね。私はぜ~ったいに嫌だから。あんな家にずっといたくない。自由気ままに暮らしたいから!」
キュアノさんは僕を教会に残し、凍ったデスシャークを連れてそのまま、どこかに行ってしまった。あまりにも自分勝手で、猫族じゃないのに猫みたいな人だ。




