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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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子供のころの約束

 マレインさんの方も半日以上掃除してようやく終わりが見えて来た。

 シトラがデスシャークの肉やジビエを料理しているのを見るに、魔石コンロも問題なく使える。魔力を込めれば使用できる質が良い品だ。この家を建てた人は貴族なのかもしれない。


 海鮮の香りが食欲をそそり、お腹を空かせてくる。

 まだ、真面な調味料もそろっていないと思うが、シトラの腕が振るわれ、夕食になるほどの料理が並んだ。

 料理は五人前。どうやら、彼女は気を利かせてマレインさんの分も容易してくれた。ほんと、出来たお嫁さんだ。


 ミルは共に食事をとるのを嫌がっていたが、家を掃除してくれたので許さないわけにはいかなかった。


「はぁ……。横並びや正面並びは嫌なので、別方向を向いてください」


「ミルちゃん、許したのなら普通に接さないと駄目でしょ」


「でもでも……」


「嫌いな相手だとしても大人は平然と装って対処しないといけないのよ。嫌いな人との拘わりだと思って経験しておいて損はないわ」


「うぅ……」


 シトラとミルはマレインさんの存在を認め、共に食事する。

 ミルの気持ちがわからなくもない。

 僕も自分の親と食事しろと言われても嫌だと言って突っぱねるだろう。逆に辛い気持ちを飲み込んでマレインさんと食事しているミルはものすごく偉い。

 僕よりもずっと我慢強い。料理の味も感じられないほど心の中は怒りでグチャグチャになっているだろうが、今日は我慢してもらおう。


「少しでも気分がよくなるように、質が良いお酒でも飲もうか」


 四人分のグラスは残っており、無菌してからスージア兄さんに貰った質が良い蒸留酒を注ぐ。

 マレインさんが作ってくれた透き通るような氷を入れ、キンキンに冷やした。氷が少し溶け、お酒が薄まったくらいが僕にはちょうどいい。酔い過ぎないように、一杯だけと決め、四名で乾杯する。


「俺までもらっていいのか。それ、どう見ても高い酒だろ……」


「このお酒はフラーウス領の蒸留酒で、僕の兄さんがフラーウス領に足を運んだ時に購入した品です。一〇〇年物で、一番美味い時期の品だそうですよ」


「ふ、フラーウス領の蒸留酒……。一〇〇年物……。ちょっと見せてくれ」


「良いですけど」


 僕は棚に置いた蒸留酒を手に取り、マレインさんに見せた。

 すると、彼は椅子からひっくり返って、腰を抜かしかけている。

 彼は指先を僕が持っているガラス製の瓶に向けた。

 蓋の上に付いている王家の紋章と似た竜の彫刻と瓶に刻まれている名前を交互に見ている。


 僕たちはお酒について詳しくないので、普通に美味しい品と言うくらいの感覚でしかなかった。


「ルッゾ・ハルディッグ……。有名な銘柄の蒸留酒に、最上級品の証である竜の彫刻。おいおい、おいおいおいおい……、そんな品をホイホイ他のやつに飲ませようとするな!」


「いや、別に気にしないでもらってかまいませんけど……」


「今、フラーウス領の内情は最悪な状況だ。肝心の麦が一本も取れないらしいからな。今じゃ、そんな品、一本も出回らない。有名な銘柄の酒と言うだけあって、価値が高騰している。最上級品なんて一本いくらするのやら。一杯で、俺が一年働いた分の値段に近しいかもしれないぞ……」


「そんな高級な品だったんですね。知りませんでした。でも、せっかく再会しましたし、更生したあかつきと言うことで。掃除してもらった感謝の意も表し、皆で乾杯しましょう」


 僕たちは高級な蒸留酒を入れたグラスを合わせ、甲高い音を鳴らしたあと一口飲む。


「あぁぁ、うめぇぇぇぇぇぇえ……、これが、これがぁ……、くぅぅ」


 マレインさんはお酒が大好きなようなので、人目もはばからず、盛大に泣き、焼かれたデスシャークの肉を頬張る。

 それでまた涙を流し、ガツガツと食して、蒸留酒で流し込んでいた。ジビエにも手を出し、においや独特な風味を高級な蒸留酒で流し込む。


「あぁあぁ、生きててよかったぁああああああああああああああっ!」


 マレインさんの心の声が盛大に吐き出され、ミルやシトラも軽く笑っていた。

 彼の威勢の良さとお酒の力で気分が少々晴れたのだろう。これだけ美味しいお酒が造れるフラーウス領が危機と言うのは少し残念だ。

 美味しいお酒はギクシャクした関係もくっ付け直してくれる接着剤のような役割になれるのに。


「マレインさん、ミルの機嫌も直ってきましたし、そろそろ本題の話しを聞いてもいいですか?」


「ああ、そうだな……。こんな良い品を飲ませてもらっておきながら、ずうずうしいかもしれないが、俺にブラックワイバーンの品を売ってほしい。偽物を掴まされる可能性があって、市場に出回っている品に手が出せないんだ」


「なんで、その話がぼくのところにくるんですか?」


「キースの手首に付いている漆黒の革を見た時、理解した。資料を見た革とそっくり、いや、それ以上の品だった。当時のミルたちから考えて、市場に出回っている品を買えるわけがない。そうなると、回答は一つ。ブラックワイバーンをミルたちが倒したんだろ」


「はぁー、キースさん、この腕輪を付けていたら気づく人がいるんじゃないですかって前、ぼくが言いましたよね?」


「あはは……、ほんと、わかる人にはわかるんだね」


「やっぱり! 頼む、俺にブラックワイバーンの革を……」


「うるさいですね! まず、その革が欲しい理由を聞きましょうか! 話はそれからです」


 ミルはマレインさんの顔に拳を当てながら近づくのを防いでいた。マレインさんは大人しくなり、椅子に座り直す。


「その……、本当に他愛のない話なんだが……、えっと、あぁ……、なんて言うか。子供のころ、少女との約束なんだ……。ブラックワイバーンを狩れるくらい強くなって迎えに行くって」


「ぶふっ! なんですかそれっ! お金目当てかと思ったら、子供のころの約束って! 想像と違ったんですけど! あははっ!」


 ミルはお酒が入っているため、笑い上戸になっていた。

 別にそこまで面白い話でもないのに、笑いが出てしまうのだろう。にしても、同じく意外に思った。

 マレインさんが子供のころの内容を覚えているような人間だったとは。

 僕もなかなか酷い印象を持っていたのかもしれない。

 なんせ、今の彼の姿は子供っぽさが皆無だから……。

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