スペシャルウェポン
「う……ぅぅ。はぁ! 仕事! 仕事はどうなったんだ!」
僕はベッドの上で、目を覚ました。
今、何時なのか全く分からない。
――僕はどれだけ眠っていたのだろうか。体感だと一週間以上眠っている気がする。
「キース、もう起きたのか?」
僕の借りている部屋にアイクさんがいた。僕が目を覚ました姿を見て、若干引いている気がする。
「アイクさん、僕は仕事をやり遂げられたんでしょうか!」
「じゃあ、見に行ってみるか」
「え……。は、はい……」
僕は部屋から出てアイクさんと共に裏庭に移動した。
「丸太が……全部なくなっている。切った丸太の一部も、全部薪になっている。ア、アイクさん……。これって」
「どう見ても仕事を完了している。最後の薪が散らばっているのは減点だが、やりきったら終了だと言っていたからな。まぁ、問題ない」
「じゃ、じゃあ。僕をアイクさんのお店で働かせてもらえるんですか!」
「約束だからな」
「うぅぅぅぅ、やったぁああ!」
僕はその場ではしゃぎ回った。
今までの苦労が報われた瞬間だった。
これまでの人生でこれほどの達成感を得た経験はない。きっとこれからもこれ以上の達成感を味わえる日は中々来ないだろう。
「おいおい、何でそんなに動けるんだよ。キースはまだ三〇分も寝てないだろ」
「え……、三〇分? えっと今は何時ですか?」
「午前七時三〇分くらいだ。お前がやり遂げた時間は午前六時五九分だったからな。斧を振りかざしたまま気絶しているのを俺が部屋まで運んだんだ」
「ぼ、僕……、てっきり七日くらい寝たと思ってました……」
「じゃあ、今から走りに行けるのか?」
「行こうと思えば……」
「化け物だな……、おい……」
アイクさんはさっきよりも明らかに引いていた。
「ぼ、僕だって体力がこんなに回復している理由がよくわからないんですよ。そんなに露骨に引かないでください」
「まぁ、キースの体質なのかもしれないな。魔力が多い者は変わった特性を持っている奴が多いと聞く」
「そうなんですか……」
「キースも体力が回復しやすいと言う特性を持っているのかもな。だが、三原色の魔力を持っていないのに魔力が多いというのは謎だ……」
――何で僕の体は治りやすいんだろう。魔力が多いって、何の魔力なんだ。黒卵さんのせいかな。
「えっと、魔力の量が多い勇者達は皆、それぞれの特性を持っているんですかね?」
「さあな、俺は知らん。あんまり公にはされない情報だろうからな。知られたくない者もいるだろう」
「それもそうですね」
「だが、キースの特性は最高だな。『超回復』とでも名付けるか?」
「い、いいですよ。名前なんて付けなくて」
「ま、それはさておき、お前の大切な物を置きっぱなしにしておくなよ」
アイクさんは僕の革袋が地面に置いたままになっているのを指さして教えてくれた。
「あ、ほんとだ。黒卵さん、こんな所に置きっぱなしにしてすみません」
黒卵さんは僕が追い込み中に移動させた場所で置き去りにされていた。
僕はすぐさま駆け寄り、持ち上げて抱える。
「その袋、俺の力じゃ重すぎて全く持ちあがらなかったのに、キースは余裕で持ち上げられるんだな」
「え、アイクさんはこの袋を持ち上げられないんですか?」
「ああ、びくともしなかった。触った感じ、専用武器の類だと思うがいつ手に入れたんだ?」
「え、えっと……、誕生日に父親だった人から投げつけられました」
「ん……。聞かなかったことにしよう。聞いて悪かったな」
「いえ……。気にしないでください。そもそもスペシャルウエポンって何ですか?」
「それはだな」
アイクさんは僕が触っても全く動かなかった大きな斧の取っ手を片手で握った。
持ち手の長さは三メートルくらい、刃の大きさは二メートルほどの大きな斧だ。
僕が持っていた両手持ちの斧がとても小さく見える。
「これが俺のスペシャルウエポン。名前を『餓狼』だ」
「フルーファですか。と言うか、そんなに大きな斧、持てるんですか?」
「ああ、持てるぞ」
アイクさんは大きな斧を、振り上げた。
そのまま、数回切りかかる動作、剣舞のように斧を巧みに操って僕に見せてくれた。
「す、すごい……。僕が触っても全く動かなかったのに。アイクさんは片手で持ち上げている」
「使用者の魔力にしか反応しないように出来ているから、他の者が持ち上げようとしても絶対に持ち上がらない」
「だから、僕が持っても動かなかったんですね……」
「俺の魔力が流れてやっと持ち上がる。どこに置いておいても盗まれる心配はない。だが、扱うのは普通の武器よりも難しい。俺も苦手だ」
「え……、そんなに体の周りをカッコよくぐるんぐるん回しているのに、苦手なんですか」
「ただの見せかけだ。魔物と戦うときにこんな無駄な動きはしない。それこそ命とりだ」
「じゃ、じゃあ、何でそんな動きをしているんですか?」
「まぁ、今の動きにはこの斧を使うときに必要な基礎がすべて盛り込まれている動きだ。持ったときは、体が戦の基礎を忘れないようにして、一回全行程を通しでやるようにしている」
「へぇ……。なるほど」
「武器の話はまた今度だ。今日はキースの達成祝いをする。特に祝いらしい事はしないが、美味い飯くらいは作ってやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
僕はアイクさんに深々と頭を下げて泣きそうになる。
「今夜は楽しみにしてろ。それまで少し寝てこい。さすがに二日以上も寝てないのはさすがに何か体に異常をきたしそうだからな」
「えっと……。夜寝れなくなりそうなので、激しい運動をせずに部屋で休んでいようと思います」
「そうか、お前がそれで大丈夫だと思うのなら構わない。腹が減ったら調理場に来い。朝食を作ってやる」
「はい! 今から行きます!」
「もう腹が減っていたのか……」
アイクさんは野良犬に料理をせがまれているかのような顔を浮かべていた。
「もうお腹ペコペコです! 何なら睡眠欲よりも食欲の方が今のところ断然強くなっているので、早く食べたくて仕方ありません!」
「なら、店の中に戻るぞ」
「はい!」
アイクさんは大きな斧を地面に突き刺して手を放した。
大きな斧はその場で停止し、全く動かない。
僕達は裏庭を離れ、調理場に向った。
☆☆☆☆
「はぐはぐはぐはぐはぐはぐ!」
「凄い食欲だな……。まぁ、昨日はほとんど何も食べてなかったからな」
「お代わりください!」
「はいよ」
僕は昨日の食事を取り返すかの如く食べ進め、いつもの二倍以上の料理を食べてしまった。
「ふぅー、幸せです……」
「何よりだ。何なら、このまま仕事するか?」
「え、いいんですか!」
「まぁ、本格的な仕事は明日にしておくが、今日は概要だけでも覚えていけ。体力は有り余っているんだろ」
「はい! よろしくお願いします!」
――やった。これでやっとアイクさんのお店でちゃんと働けるぞ。
「それじゃあ、教えるぞ。ついて来い」
「はい!」
僕は調理場の中を移動し、水の入った大きな樽の場所まで連れていかれる。
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