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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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藍色より黒い

「金貨二五〇枚の物件って、カエルラ領にしちゃ安いな。土地代も金貨五〇枚ってゼロみたいなものじゃないか」


「金貨五〇枚で土地代がゼロだと思う感覚はおかしいですよ……」


「いやいや、普通は金貨一〇〇〇枚くらい取られるんだぜ。会社で働いている奴らは家の借金を返すためだけに働いている奴も多いからな」


「えぇ……、本当に大変な領土ですね……」


「だが、これが普通だって思っている奴らが可哀そうと言うか、羨ましいと言うか……」


 マレインさんは腰に手を当て、さんさんと晴れた空を見る。先ほどまでぐれていたのに、もう心を入れ替えていた。そう言うところが、彼の優秀な部分なんだろう。


「おい、見ろよ、マレインのやつ、まだ冒険者を辞めてないらしいぞ」


「ほんとだ、あんなみすぼらしい恰好でよくいられるよな。俺じゃ、耐えられねえぜ」


「昔はちやほやされたらしいが、今じゃ低いランクの依頼しかこなせない雑魚だってよ。ほんと情けねえよな。自分の強さを見誤ってブラックワイバーンを借りに行って大失敗して帰ってくるとか、カエルラギルドの面汚しだろ」


 若い冒険者達が、マレインさんの姿を見て笑っていた。

 確かに、今のマレインさんの姿は新品の高級な品を身に着けている彼らにとってはみすぼらしく見えるかもしれない。

 だが、僕にはわかる。剣や服装、たたずまいから日ごろの泥臭い努力と汗や涙を流した哀愁、悔しさや苦しさをのみ込んでそれでも踏ん張ってここにいる彼の心の強さが……。

 過大評価しているが、実際はどうかわからない。だって、昼間からお酒を飲んでいる大人にいい大人なんていないから。

 でも、昔の彼を知っている身からすれば、本当に良い男に成ったと思うよ。


「で、えっと、お前とミルとの関係はどうなったんだ」


「僕の名前はキース・ドラグニティです」


「あ、ああ、すまない。俺の名前はマレイン・マルチネス。いや、今はマレインか……」


「どういう意味ですか?」


「俺は貴族だったんだが、ブラックワイバーンの件で赤っ恥をかいて親から勘当されたんだ。まあ、いま思えば貴族の面倒な暮らしより、今の自由な暮らしの方が俺の性に合っている」


 どうやら、マレインさんは僕と同じように家から追い出された貴族になっていたようだ。そう言う共通点があると、彼が昔の僕のように思えて来た。ボロボロになっても何か成し遂げたいことがあって一生懸命に頑張っている姿が、眩しく見える。


「じゃあ、ブラックワイバーンの品を買って貴族の位を取り戻そうとしているんですか?」


「いや……、そう言う訳じゃない。本当にたわいもないことなんだ……」


「そのたわいもないことのために回りから罵られてもここで踏ん張っていると?」


「まあ、言っちゃそうだな。でも、まさか二年越しに会えるとは思わなかった。だが、あの時会っていたら、俺はそれこそ面汚しだっただろうな……」


「今の顔も汚れていますけどね」


「そういや、最近、風呂に入ってねえな……」


 マレインさんは髭が生えた顎を撫で、苦笑いを浮かべていた。

 僕はマレインさん行きつけの風呂場に向かう。

 どんなお風呂なのかと、わくわくしながら移動し、到着したら服屋に置いてある試着室のような縦長の箱が数カ所置かれた場所だった。海の近くで、三分間銀貨一枚と書かれている。風呂場と言うのに、風呂が無い……。


「魔法を使うよりこっちの方が効率がいいんだよな。三分間だけ待っていてくれ」


 マレインさんは服装そのままで、試着室のような箱に入る。

 すると、流水の音が聞こえた。どうやら、ここはシャワーしかついていない体の汚れを落とすためだけの場所だと思われる。

 これが風呂と言うのだから、カエルラ領の人達はお風呂に入る時間も短縮して働いているのだろうか。だとすると、やはり心が狭い理由がよくわかる。お風呂はゆっくりと突かるのが気持ちいのに……。まあ、他領の人達の感性に口を出しても意味が無い。


 少しすると、海から上がって来た人達が水着のまま、シャワー室に入り、体を綺麗にしていた。そう言う使い方もできるのか。案外便利かも……。


「はぁー。すっきりした。やっぱり、久々に水浴びすると気持ちが良いな」


 全身が軽く湿り、乾いた布で髪に着いた水を拭き取っているマレインさんがシャワー室から出て来た。

 素肌のくすみがシャワーに寄って流され、若々しい肌に戻り、服が汚いだけの状態に戻っている。そこはかとなく綺麗になったマレインさんと共に、僕が買った家に向かう。


「ここは……、獣族の密集地帯じゃねえか……。まあ、俺がとやかく言える立場じゃないが、ここら辺の土地だから安かったのか……」


「彼らは何か悪いことでもしたんですか?」


「いや、そう言う訳じゃない。昔から獣族はここら辺で漁をしながら生活していたんだ。そこにルークス王国のカエルラ領が出来て、外国との貿易の玄関口になった。

 その頃から獣族の反発が頻繁に起こっていたんだ。外国との貿易が狭められてからは領土内の問題となり、人間の方が知識と魔法の影響で戦いに勝った。その時迫害した名残が、今も残っている。もう、何年も前の話だから、迫害される必要は無いはずなんだが、今でも反発しあっているんだよな……」


「なるほど……。種族の違いが、この溝を生んでいるわけですか……」


「そういうこった。まあ、カエルラ領は他の領土に比べて獣族の奴隷が少ない。そう考えれば比較的自由な場所と言ってもいいかもしれないな……。実際、人間の方が領土に捕らわれている。全く、迫害したのは人間の方なのに獣族の方は自由に生きて、人間が領土の上層部に使われている奴隷に成り下がっている。皮肉なもんだ……」


「なんか……、全然青くないですね……」


「もう、藍色より黒に近いだろ。はぁー、水色、何なら白色くらい清くなれないもんかねー」


 マレインさんは後頭部に手を当てながら、

 青い海をじっと見つめ、軽く微笑んでいた。彼はこの領土が好きなのだろう。

 カエルラ領の人間は嫌いそうだが、場所は好きなんだろうなと感じる。

 獣族達に睨まれているが、嫌な顔一つせず、軽く挨拶していた。彼は獣族に偏見が無いらしい。

 ミルに対して蹴りを入れていたとは思えない更生ぶりだ。


 険しい坂道を越え、家にやってくると……。

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