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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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質の良い一軒家

「えっと、数十年前からある建物っすけど、周りのぼろ屋より何倍も丈夫なんで」


 メジさんはペラペラな資料の一番上に乗っていた物件と思われる建物を指さす。確かに、周りの建物と比べると頑丈そうに見える。だが、風化が酷く、壁に手を触れれば石灰のような白い粉がパラパラと落ちてきた。

 地震が起こったらぺしゃんこになってしまいそうな強度しかなさそう……。とりあえず、僕たちは資料の中で一番高い物件に移動した。そこは急な斜面をずーっとずーっと上り、海面から八〇メートルほどの高さがある、崖に立つ一戸建てが見えてきた。

 崖と言っても際に立っているわけではなく、安全に配慮されている家だ。物好きな貴族が海を見るために立てたのかもしれない。作りは新しく使われている素材も新品同様だ。場所が場所なのと、土地代が異様に安くほぼ建物の値段のみ。

 金貨二〇〇枚で、庭プール付き一戸建ての建物が買えるなんて、とてもお得だ。

 どうも、平坦な土地の端で、地面が大きく盛り上がっている場所らしい。ここなら、最悪、大きな地震が起こっても多くの者が逃げてこられる。


「ここ良さそうじゃない? 静かだし、海も見えるし」


「そうね。買い出しが大変かもしれないけど、後ろの林と前の海で自給自足も悪くないわ」


「ぼく、山菜取なら自信ありますよ」


 内側の物件を進められなかったが、逆に良い物件に巡り合えたので万々歳。建物に壊れている部分は無く、獣族達が荒らした形跡もない。

 野蛮だと言われているのに、近くにあるお金持ちの建物を襲おうと言う気持ちが無い表れだ。やはり、彼らは心優しい者達なのだろう。


 不動産屋に行ったらもっと良い家があるかもしれないが、冒険者ギルドであの対応なら、不動産屋に行ったらもっとひどい対応をされる可能性がある。メジさん達と会ったのも何かの縁だ。縁は大切にしたい。今までだって、多くの縁のめぐりあわせで生き残って来た。大なり小なり力が合わされば、思いもよらない力が発揮される。たとえそれが、別種族だったとしても。


「キースの旦那がここに住んでくれるんですか?」


「一目見て気に入りました。別に多くの人と関わりたいわけでもないですし、静かで楽しい気分になれればそれでいいんです。そのために、この場所はとても素敵な場所ですよ」


 僕は崖に落ちないように作られた柵の近くに歩き、崖に当たって上昇している気流に当てられる。白い髪が大きく浮き上がり、崖周りに咲いていた花々の花弁が何枚も巻き上がる。心地よい潮風と日当たりのいい崖、視界に広がる輝かしいほど綺麗な海。カエルラ領でこれ以上に素敵な場所を見つけるの難しいだろう。


「お前ら、キースの旦那がここに住むってよっ!」


「うお~っ! まじかっ! ありがてえっ!」


「ここの明り、夜の海から滅茶苦茶よく見えるからな。これで夜も漁ができるぞ!」


「夜に漁ができるってことは、人間が邪魔しない時間に漁ができるってことじゃねえか。ありがてえ。夜目が利くって言っても限度があるからな。帰る方向がわかるだけでもありがってよ」


「うぉ~っ! 今日から、仕事に精を出すぞっ! がっぽがっぽ儲けて贅沢な暮らしをするんだ!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 メジさんが拳をあげるとヨコさんとヨコワさん、ヒッサさんにクロシビさんが拳を高らかに持ち上げた。

 なんなら、そのまま駆け出し、崖の柵に足を乗せ、海目掛けて落ちていくではないか。ここの高さは海面から八〇メートルはあるんだぞ……。柵の下を除くと海水がある。でも、隆起した岩などにぶつかったら死に至る可能性もある。


「安心してください、ここから飛び込むのは夏の風物詩みたいなもんなんで。ここの崖の下は海水が抉り込むように入り込んでいく影響で水深があるんですよ。だから……」


 シビさんも皆の後に続いて、柵から勢いよく飛び立ち、空中で何回転もしてから、棒のように体を垂直に落とし、上手く着水。さすがの身体能力すぎて、少々引いてしまった。


「あの獣族達、中々やるみたいね」


「まあ、皆、海の男だからね。体も鍛えこまれているし、体の使い方からして戦いも手慣れていそうだった。人と喧嘩でもしているのかな……」


「はぁー、今日から賑やかになりそうねー」


「ワイワイしているのも楽しいじゃないですか。ぼくたちがしなければいけないのは他の獣族のメスをキースさんに近づけさせないということです」


「そうね……。キースを見たら皆、体が疼いて仕方がなくなってしまうかもしれないわ。キースはお人よしだから、お願いされたら抱いちゃうかも……」


 シトラとミルは僕から離れ、ひそひそ話をしていた。ほんと、僕を何だと思っているのやら。

 肩に乗っているアルブを両手で持ち、翼を広げてもらう。すると上昇気流を翼が受け取り、アルブが浮いた。別に、上昇気流が無くても翼を動かせば飛べるので、意味は無いが、いつもとは違う飛び方で楽しそうだ。獣族の皆さんは崖から登ってくるわけではなく、もう一度迂回して戻ってくる。さすがに崖を上る方が面倒臭そうだ。


「じゃあ、もう一度カエルラ冒険者ギルドに移動して手続きをしないとね」


「ここから、また、カエルラ冒険者ギルドに行くの。案外大変ね……」


「今回は空でも飛んで行こうと思うよ」


「アルブちゃんの力を借りるのね。ま、その方が時間短縮が出来ていいか」


「二人にまた嫌な思いをさせるのも嫌だし、ここで待っていて。林の中を見て来ても良いけど、危険だと思ったらすぐに引き返して」


「わかりました! ここら辺の探索は任せておいてください!」


 ミルは両手を握り、頭を深く下げる。シトラも軽く頷いた。

 メジさんにここら辺の案内を任せ、僕は無重力を使い、アルブが無視を発動する。すると、空中に浮いているのに、周りから誰も気づかれない。


「はぁ~、主と一緒に空を飛ぶのは気持ちいいですね~」


「たしかに、あまり一緒に飛んだ覚えがないね。これからは場所が場所だから、こういう移動も増えると思う。よろしくね」


「もちろんです。私も生まれて一年以上経ちましたし、ちょっとは大きくなりました。飛行だって昔よりもっとうまくなったんですよ」


 アルブは空中を滑るように滑空する。無駄のない飛び方で、昔より飛び慣れていた。大きくなったら、彼女の背中に乗って移動できる時が来るかな。そうなれば、列車に乗る機会も少なくなるかもしれない。でも、列車の旅はそれで楽しいんだよな。

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