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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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魚のサンドイッチ

「すみません。ちょっといいですか」


「あぁん?」


 顔に大量の傷がある男性の獣族が僕の声に反応し、人を殺した覚えがあると言わんばかりの鋭い視線を向けてくる。

 だが、フレイの殺意に比べれば可愛いもの。特に怖がらず、ミルとシトラをおんぼろのボートに乗せる。


「うっひょー、超美人じゃんっ。どう、お二人さん。今日、俺達と……。って、なんだ、既婚者かよ。たく、久しぶりにメスが抱けるって思ったってのに」


「金がねえんだから仕方ねえだろ。さっさと稼いで風俗にでも行けってんだ」


「うるせえ、稼げるなら、稼いでるっつーのっ! 結婚している奴は余裕でいいな、くそったれ!」


 獣族達は仲が良いのか叫びながら言い合いを始める。

 僕の存在が薄すぎて忘れられていないだろうか。まあ、相手側の話しが納まるまで待つとしよう。時間はあるのだ。


 一、二分すると、気を利かせた獣族が僕の存在に視線を向け、話し合いが止まる。どうやらようやく話を聞いてもらえる状況になったらしい。


「サンドイッチを四つお願いします」


「は? ここで買うのか」


「駄目なんですか?」


「いや、駄目じゃねえけどよ……。はっきり言って糞不味いぜ。こいつ、たまに魚を腐らせっから」


「腐らせているのはお前らが、漁の後に持ってくるのが遅いんだろうが! せっかくの客が来たんだから、逃げるようなこと言うんじゃねえ!」


 またしても獣族同士の言い合いが始まり、僕よりも妻の二名のイライラが募っていく。あまりにも相手の獣族の接客が微妙なので爆発しそうだ。


 こういうのも、旅行の楽しみだと思える僕は今機嫌がいいのだろう。まああれだ、妻が美人って言われて超舞い上がっている。そう、僕の妻は可愛いのだ。この獣族、わかってるね。


「あの、新鮮な魚でサンドイッチを四個作ってください。金貨四枚払うんで」


「なっ!」


 おんぼろのボートに乗っていた獣族達は耳がいいのか、僕の発言を聞き逃さなかった。

 今までぺちゃくちゃ喋っていたのに、一気にざわつき出し、一隻の手漕ぎボートが物凄い速度で水路を下っていく。

 八分もしない間に戻って来て、未だに生きている魚を籠に入れ持って来た。四匹の魚をサンドイッチ屋を経営している獣族に投げると、素早い手つきで三枚におろし、網に挟んで炭火焼を始めた。

 油が乗ったいい香りが漂ってくる。時間は掛かったが、見た目はそこはかとなく美味しそうな魚サンドイッチが渡された。


 僕は懐から革袋を取り出し、金貨四枚を獣族に手渡す。


「う、うわ、まじで金貨だ。本物の金貨だ!」


 獣族達は少年のようにはしゃぎ、一人一人水路に向って飛び込んでいく。悦び方が、あまりにも豪快だ。まあ、お金を稼ぐ嬉しさを知っている身からすると暑いこの時期に川に飛び込みたくなる気持ちもわかる。


「ハムハム……。金貨一枚にしてはパンはぼそぼそ、魚もちょっと臭いし、味気ない……。なんで、こんなサンドイッチ買ったのよ……」


「そうですそうです。これなら、もっと良い食事がとれたはずですよ」


 シトラとミルは待たされた挙句、微妙なサンドイッチだったからイライラを募らせていた。

 お腹を満たすためだけの食事。

 でも、僕にとっては金貨を払ってもいいと言う価値が確かにあった。アルブは魔物を生で食べられるくらいなので、あっと言う間に完食してしまっている。不味い訳じゃないんだよな。


「今の僕は機嫌がいいんだよ。妻が可愛いって言われたからね。よくわかってる獣族だよ」


「……バカ、単純なのよ」


「ぼくの夫、気前が良すぎです……」


 僕はサンドイッチを食べ終わった後、ボートの上に残っているサンドイッチ屋の獣族に話しかける。


「カエルラ領の獣族の方って皆あんな感じですか?」


「まぁ、そうっすね。カエルラ領に住んでた獣族は根っからの漁師っすからまあまあ気性が荒いっす。だから、色々誤解されるんですよね……」


「見ろー、俺、金貨咥えちゃってるもんねー」

「俺なんて、金貨を舌に乗せちゃってるぜっ」

「俺は俺は金貨を尻の間に挟んじゃってるもんねっ!」

「バカだな、お前ら。金貨は指でつまむもんだろ」


 本当に見た目はやばい者達なのに、お金を手にしたら少年のような眼差しで大切に掴んでいた。

 その姿から、野蛮人と言う印象はなく、元気がいい青年たちと言った感じだ。仲間同士で楽しく暮らしている姿が昔の僕よりもいい環境で育ったのだろうと想像できる。まあ、楽して生きているわけじゃないだろうけど。


「えっと、カエルラ冒険者ギルドってどこら辺にありますか?」


「カエルラ冒険者ギルドなら、ずっと反対側ですね。このおんぼろのボートで申し訳ないですけど、よかったら送りましょうか! 今のサンドイッチで金貨四枚も貰えないっす!」


「ほんとですか? じゃあ、乗せてもらおうかな。二人共、良いよね?」


「そうね。このまま、海に行っても良いけど、家捜しの方が重要かもしれない。最悪、宿も獣族が止まれない可能性があるし」


「確かに。獣族お断りの宿が多いかもしれないっすね。最悪、俺達の家に泊っても良いっすよ!」


 獣族の男性はものすごく気前が良くなった。やはり、お金の心配は性格を変えてしまうようだ。


「ま、最悪、その可能性も考えておこうか。とりあえず、冒険者ギルドに行って、情報収集をしよう」


「しゃっ! 野郎ども! ボートを押せ!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 水路を泳いでいた獣族達はボートの背後に移動し、そのままボートを押しながら全力で脚を動かした。

 さすが、獣族。身体能力が高く、手漕ぎよりも各段に早かった。

 ボートに乗っていると、列車とはまた違った爽やかさがあり、夏の暑い気温を少し下げてくれたように感じる。水路から上がってくる冷機が心地よいくらいだ。


 獣族達は水路を逆走し、観光客のボートを次々に追い越して行く。なんか、周りからヤジを飛ばされているように感じるのは気のせいだろうか。まあ、気にしても仕方がないので、今は爽快な気分を存分に味合わせてもらおう。進む水路が石製の道の下に見えなくなったところまで来ると目の前に冒険者ギルドらしき建物が見えた。


「目の前に見えるのがカエルラ冒険者ギルドっす。俺達はここで待っているんで、好きな時に戻って来てください。今日はお客さん専用の移動手段になりますんで!」


「えっと……、お店の方は良いんですか?」

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