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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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カエルラ領の獣族

「あなた、ここで仕事する許可は取っているんですか?」


 ミルは青髪の男性の前に立ち、訊いていた。

 だが青髪の男性は両手を後頭部に当て、口笛を吹きながら知らんぷりしている。

 ミルはその姿を見てから優雅に背面飛びして八メートルの水路を飛び越えようとしていた。

 だが、絶妙に距離が足りずこのまま行くと水路に落ちる軌道になっていた。

 空中で慌てているから余計に距離が短くなり、水面に向って行く。


 僕は右腰に掛けていた白い杖をミルに向けて『無重力』を使った。すると水面で止まり、ふわりと浮く。

 ミルが道路の端に手を置いたところで『無重力』を解除した。


「いやー、ちょっとカッコつけちゃいました。恥ずかしすぎて顔が燃えそうです」


 ミルは白い肌が赤色に変わり、苦笑いしていた。いったい、何にカッコつけていたんだろうか。まあ、気温が高いので水に落ちても涼しいだけで済んだだろう。


「いやぁ、ありがとうございました」


「ほんと、ありがとうござます。銀貨四枚分、得が出来ました」


 老夫婦は僕たちに頭を下げた。


「この前行った水族館の割引券くらいしか無いが、貰ってくれんか」


 お爺さんから一枚の券をうけとった。カエルラ領にある水族館と言う場所に入るために必要な入場料が半額になる券だった。


「ありがとうございます。十分嬉しいです」


 老夫婦に頭を下げて見送り、僕たちは入り組んだ水路が珍しいカエルラ領の街を歩く。

 海に行こうと思えばいくらでも行けるので、寄り道を沢山する。

 どこからともなく聞こえてくる弦楽器や金楽器の演奏がカエルラ領の街を彩っていた。どうも、海に近い位置は観光業に力を入れているらしい。もう少し内側に入れば高い建物が多い印象だった。


 お腹がすいたので、朝食替わりになるようなお店を探すと丁度良い所に喫茶店があった。

 カランコロンと金属製の棒が音色を響かせ、涼しげな雰囲気を醸し出している。お店の中は冷房が効いており、普通に涼しかった。

 観光客と領民が入り乱れ、賑わいを見せている。大きな水路が見えるお店で、ゴンドラに乗った人々が移動していく姿が何とも新鮮だった。

 ただ、カエルラ領に来て初めて入ったお店のため、勝手がわからない。クサントス領だと店員さんが来て笑顔で接客してくれたが……、誰も来ない。


「えっと、普通に空いている席に座ればいいのかな……」


「あの、すみません。お客さん。ここは獣族禁止なんで、出ていってもらえますかね」


 ガラの悪い男性が出てきて鋭い視線でシトラとミルを睨む。久しぶり……と言うか、初めて獣族差別のお店に当たった。そう言うお店もあるとは知っていたが、はっきり言われると辛いものがあるな。


「ちょ、なんで駄目なんですか! ぼくたち、何もしませんよ!」


 お腹が減ってイラついていたのか、ミルは声を荒げて質問していた。まあ、僕も理由くらいは聞かないと納得できなかったので、丁度いい。


「獣族は食べ方が汚い、臭い、行儀が悪い。無駄にうるさい。他の客に迷惑だからだ」


 ガラの悪い男性はミルを見下すような視線を向け、周りの青髪の者達も軽くヒソヒソ話を始める。

 カエルラ領の獣族は評判が悪いらしい。そう言う団体がいるのだろうか。


「じゃあ、食べ方が綺麗で、良い匂いで、行儀が良くて、静かなら食事させてもらえると?」


「あぁ? なんだ、兄ちゃん。俺の言葉がわからなかったか。俺は店から出ていけって言ったんだ。仕事の邪魔だからな。ほら、さっさと帰った帰った」


 ガラの悪い男性は僕たちを外に追い出し、扉を閉める。


「なんですかね、あの態度。ほんと、ムカつきます!」


 ミルは頬を膨らませ、脚を大きく上げながら地面を踏み均すようにしてドカドカと歩く。

 同じ国と言えど、領土が違えば文化も違う。

 カエルラ領にとってああいう人達が普通なようだ。自分達の方が偉いとでも思っているような言いぶり……。

 そう言えば、ルフス領の受付嬢でアイクさんの奥さんのミリアさんが行ってたな。カエルラ領の人達は誇りが高いって。

 カエルラ領から南側にあるインディクム領に大きな敵対心を持ち、ずっと競い合っているとか。

 競争心や誇りが高いのはいいが、心に安らぎが無いと言うか、窮屈に感じる。仲良くなった方が皆、幸せになれるのに。


 お店に入ってまた追い出されるのも嫌なので、市場に向かう。

 道行く人に市場を聴くと水上で行っている場所が近くにあり、行ってみる。


 カエルラ領の人々は水の上を普通に歩き、買い物している。水を操っているのだろう。つまり、船に乗ってわざわざ買いに行かなくても、浮けるなら問題ないと言うこと。


「シトラ、ミル、手を」


「ええ」

「はいです」


 僕は二人と手を繋ぎ『無限』を使った。水中を歩いているようで実際は空気の上を歩いている状態に近い。

 手を離したら、シトラとミルが落ちてしまうので、気を付けなければ。


 お店に売っている品は魚介が多かった。やはり、海が近いだけあって魚介の値段が安い。ただ、生ものばかりなので調理する必要があった。まだ、別荘を持っていないので料理できる場所が無い。出来ればすぐに食べられる品が欲しい。


「なにかすぐに食べられる品は無いかな……」


「もう、お腹ペコペコですー。ただのパンでもいいので食べたいです~」


「そうね、朝から何も食べていないから、とりあえずお腹に入る食べ物なら何でもいいわ」


 僕たちは水路の上を歩き、船に材料や魚が乗った状態で列をなしている市場を見て回った。そのまま食べられそうな品はサンドイッチくらい。ただ、そのサンドイッチ屋さんの周りにいる者達が物凄かった……。


「たくよー、普通の魚は全然取れねえってのにキモイ魚はわんさか取れやがる。どうなってるんだろうな、最近の海わよー」


「ほんとだよなー。これじゃあ、商売なんてやってられねえってんだ」


「あぁあー、信憑性も無いのに、勝手に毛嫌いされてよー。かみ殺してやろうか」


 多くの獣族らしき者達がバキバキの上半身を見せびらかしながら、おんぼろのボートに座って屯していた。

 そのため、サンドイッチ屋の周りにはカエルラ領民どころか、観光客の一人もいない。

 あの獣族達を見れば、カエルラ領のお店が獣族をお断りする理由も少なからずわかる。

 だが、背に腹は代えられない状況だ。腹ごしらえが出来るなら、かまわない。

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