一七歳の誕生日
「シトラ、今のミルは鬱憤が沢山溜まっているから一緒に可愛がってあげよう。ミルの大好きな玩具でも使ってあげて」
「わかったわ」
「ちょ、き、キースさん……、そ、そんなことされちゃったら、ぼく、おかしくなっちゃいます……」
「でも、それくらいしないと、ミルの鬱憤は晴れないでしょ。安心して、無音で音が出ないように配慮するから」
「そ、そう言う問題じゃ……」
僕とシトラはミルを二人で可愛がった。
無音の効果でミルの声は完全に消えていたが、無音を使っていなかったら、いったいどれだけ多くの者を発情させただろうか。近くにある七車両目の者達が皆発情してしまう可能性すらあった。
鬱憤を完全に晴らされたミルは満足そうな顔で意識を飛ばし、安らかに眠っている。一人満足させても、その状況のせいで完全に熱っているもう一人の妻を愛さなければならない。いや、愛したいか……。
列車が走っている間、僕たちも動き続けシトラが満足したころにようやく自由になれる。まあ、寝るのだけれど……。
初日が過ぎ、四日、五日、六日、七日と過ぎていく。
折り返しの八日がやって来た。まぁ、俗にいう誕生日と言う日だ。僕は一七年前の八月八日に生まれたということになる。それが良かったのか悪かったのか……、一概に言えないが、産まれてこなかったらシトラやミルと出会えなかったわけで、この気持ちも体感できなかった。
「キースさん、誕生日、おめでとうございます。この世界に生まれて来てくれてありがとうございます」
ミルは僕に抱き着きながら目覚めのキスで起こしてくる。感謝の気持ちを直接伝えられると少々目が見れなくなるが、言われるとやはり胸が暖かくなる。返しの言葉は返しのキスで……。でも、伝わらないかもしれないから、感謝の気持ちは言葉でしっかりと伝えておく。
「キース、誕生日おめでとう。今年は、すでに色々あったけど、生き残っているし、来年は高等部の卒業資格を取って次の年に大学に行けるよう、頑張って生きましょう。もう、沢山沢山、幸せをもらっているけど、もっともっと……幸せに、なりましょうね」
シトラは僕に抱き着き、蕩けそうなくらい熱い愛情をくれた。
僕への贈り物と言うより、彼女自身がしたくてたまらないと言った感情の方が大きい気がするものの、どちらでも構わない。
そう思ってくれている気持ちが何よりも僕の心を燃やしてくれた。火に直接焼かれるのは痛くて苦しいのに、愛情に焼かれるのはどうしてこうもよがり狂いそうなほど心地よいのだろうか。舌先が離れると、光によって映し出される透明な糸が名残惜しいように切れる。だが、心の繋がりはより強固になっていた。
ベッドから起き上がり、冒険者服を着る。誰からも見られないので寝間着でもいいのだが、気分を変えないためにもできる限りいつもと同じ服装でいようと心掛けている。ただ、長袖だと少し熱いので、白シャツは腕まくりして少し涼しげな恰好で過ごした。
「ねえ、キース。この列車、衣装の貸し出しをしているらしいから、頼んでみるわね」
「衣装の貸し出し……」
シトラとミルは冊子に描かれている衣装を見ながら、駅員さんに何着か服を貸してもらっていた。そう言う特典がこの車両ですんでいると得られるようだ。なんて良心的なのだろう。まあ、高いお金を払っているだけはある。
二名は服を受け取ってから脱衣所に移動し、僕は目を瞑ってベッドに座って待っていた。二人の衣装替えを見るというのもなかなか楽しみなので、内心気分が向上している。
「じゃあ、目を開けても良いわよ」
シトラの声が聞こえたので、僕は閉じていた瞼をあげる。すると、目の前に受付嬢の恰好のシトラが現れた。少しぴちっとした茶色っぽいズボンを履いており、胸もとが強調されているが、決して厭らしくない清楚な服装で、こんな受付嬢がいたら、真っ先に並ぶだろうとわかってしまうくらい似合っていた。尻尾を出せるように配慮されており、獣族用の受付服だと思われる。品ぞろえが良いんだな……。
「す、すごくよく似合ってるよ」
シトラが僕の隣に座った後、もう一度目を瞑る。ミルが脱衣所から出てきた。
「キースさん、目を開けてください」
ミルに許可をもらった僕は目を開けた。すると魔法が使えないのにミルは魔法使いの服装だった。ローブに身を包み、猫耳が隠れるほど大きな魔女帽子をかぶっている。ただ、ローブの裾から細長い尻尾はチラリと見え、猫が人の姿に変身しているような印象を受ける。
普段は見れない服装にとても気持ちが高ぶった。やはり、いつもと違うというのは相手の印象をがらりと変え、見つけられなかった点を別の角度から見れるようになるため、凄く楽しい。
「ミルもよく似合ってるよ」
「えへへ~、ありがとうございます。じゃあ、次はキースさんの番ですね」
「え……」
なぜか僕も服を着替える羽目になった。まあ、そう言う日もありか。
僕が脱衣所に入ると綺麗に畳まれた一着の服が置かれていた。その服装を見るだけでどんな者が着る服かわかってしまう。
「この服装を着る時が来るとは……」
僕は質素の反対、様々な刺繍が施され、高いだろうなと思うような生地で作られた服を着る。脱衣所に付けられている鏡を見るが全体像が見えないため、あっているのかあっていないのか判断が出来なかった。笑いものにされても気にする必要は無い。なんせ、相手は妻なのだ。笑われたら逆に良い思い出になるだろう。
笑われる覚悟で脱衣所を出る。シトラとミルは目を瞑っており、どちらも僕の姿を見ていなかった。でも、二人が選んだ服装なので、どんな服装なのかは気づかれてしまっている。でも、少しは驚かせたいので、シトラとミルの手を握り、跪きながら止まった。
「目を開けてもいいよ」
「せーの」
シトラとミルは拍子を合わせ、同時に目を開けた。その瞬間、僕は二名の手の甲に軽くキスして微笑みかける。




