場所を選ぶ
「ひ、日に日に体力が増している気がするんだけど……」
「し、仕方ないでしょ。獣族は愛が深すぎるんだもの。いつまでも受け止めなさいよね!」
「愚問だね」
僕達は朝日が出てくるまで愛し合ってしまった……。
僕はシトラにも無休を付与し、眠れなかった疲れを感じないようにする。今夜はぐっすり眠れば疲れが取れるはずだ。
「むうぅぅうぅ~っ! ぼくもキースさんの妻なのに……。妻なのに……」
ミルは頬をパンパンに膨らませ、食堂の椅子に座っていた。
「うぅ……。キース君とシトラちゃんのラブラブっぷりが股に響いちゃう……」
イリスちゃんは家に泊まって行ったらしく、寝間着姿のまま、椅子に座っていた。
「甥っ子と姪っ子が見れる日が近いな」
「そうですね」
スージア兄さんとテリアさんははにかみながら僕達の姿を見ていた。
「表情をほとんど変えないシトラさんが物凄い雌の声で鳴いていました……。キースさんの技術がすごいんでしょうか……」
「もう、昨日の夜はずっとやばかったです……。獣族の体が無意識に疼いちゃってました」
「あぁ……、キースさんの許可を得て子供産みてぇ……」
獣族のメイドたちは五感が鋭いので、僕たちの愛に当てられて軽く発情していた。
「え、えっと……。場所を選ぶべきだったね……」
「き、キースのバカ……、バカぁ……」
シトラは今年一赤い顔になり、僕の体を何度も殴って来た。恥ずかしがり屋なので、仕方がない。
「まあ、仲が良いことは悪いことじゃない。結婚しているのなら、何ら問題ないことだ」
スージア兄さんは頷きながら視線をテリアさんの方に向ける。
僕たちはパンと目玉焼き、ベーコン、野菜と言った朝食を得た。
「キース達は明日出発するのか?」
「うん。明日、カエルラ領域の列車に乗って向かう予定だよ。今日は出発の準備をする」
「そうか。気を付けてな。暑中見舞いは出来る限り返す。何年経つかわからないが……」
「いつでもいいよ。気持ちがあれば嬉しいから」
「はぁー、キース君の誕生日も祝いたかったなー」
イリスちゃんはパンを口に含みながらぼそぼそと喋っていた。
「キースの誕生日ももうすぐだったな。なにを送るか……。金額じゃもう、嬉しさは感じられないだろうし……、高い品が買えるほど、状況が戻っているわけでもない……」
「スージア兄さん、気にしないで。僕は何を貰っても嬉しい。祝いの言葉だけでも十分だよ」
「そう言ってもな……」
スージア兄さんは顎に手を当て、視線を下げる。
「あんまり考えすぎないでね」
僕は無理に祝ってもらっても嬉しくなかった。心から祝うのは自分の心に余裕が無いと難しい。無理やり祝ってもらっても気持ちが重くなる。無理やり祝われるくらいなら、祝いの言葉だけでもいいのに、皆、何かしら考えていた。
「高い品は片っ端から売ってしまったんだよな……。今は本当に大切な品しかない、宝石類も売ってしまった……」
「スージアさん、良いお酒はどうでしょう?」
「ああ、なるほど」
テリアさんの提案を受け、スージア兄さんは立ち上がった。食堂を出て五分ほど経った後、戻って来た。
「これはフラーウス領の蒸留酒だ。フラーウス領に足を運んだ時に購入した一〇〇年物で、一番美味い時期の品だそうだ」
スージア兄さんは分厚いガラス瓶に入った黄金色に輝く蒸留酒を持って来た。
「い、いいの?」
「ああ。持っていけ。列車の中は暇だろうし、酒でも飲んで旅行を楽しんでくるといい」
「ありがとう。大切に飲ませてもらうよ」
僕はスージア兄さんから蒸留酒を受け取った。
「じゃあ、私からも贈物を渡そうかな~」
イリスちゃんは立ち上がり、スカートの下に手を入れる。そのまま、すーっと下ろして足を持ち上げた。
「私の脱ぎたておぱん……つっ!」
後方からテリアさんが強烈な一撃をイリスちゃんに放った。イリスちゃんは気を失い、完全に倒れていた。
「あ、あはははっ、ごめんなさいねー。この子ったら、なにを考えているのかしら」
僕達は苦笑いを浮かべ、朝食をさっさと終える。
「イリスには改めて見送らせるから、出発する前に駅で待っていてくれるかしら」
「は、はい。わかりました。午前八時出発のカエルラ領行の列車です」
「わかった。このおバカに伝えておくわ」
僕達はスージア兄さんの家を出て我が家に向かう。
「はぁ~、ほんと、昨日は本当に長かったですね……。ぼくの存在が忘れられているんじゃないかって思うくらいでしたよ」
ミルは僕にくっ付きながら、シトラに視線を向ける。
「そ、そんなに?」
「もう、耳がいいぼくにとっては悪夢のような時間でした。なぜ、その場にぼくがいないのかずっ……と苦しんでいましたよ。はぁー、もう、キースさんの成分が一日で枯れてぼくの心はシオシオです……」
ミルは僕の手を頬に当て、自ら頬を擦りつけてくる。
「うぅ……。改めて言われると恥ずかしすぎるわね……」
シトラは耳と尻尾をヘたらせ、身をすぼめていた。
「ミル、安心して。三〇日後にミルの誕生日と結婚記念日がやってくるから」
「ぼくにも昇天しちゃいそうなくらい愛してくれるんですか」
「僕は元からミルを愛しているよ。それじゃ、駄目なのかな?」
「はわわ……。ぼく、キースさんの為ならいくらでも愛せちゃいます」
「これから、愛を沢山深めて行こうね」
「はいっ!」
「ミルちゃんの誕生日の前にキースの誕生日が来るのを忘れてないわよね……」
「もちろんです! キースさんの誕生日はキースさんと言うぼくの大切な方がこの世に生まれた日。その日を忘れるわけがないじゃないですか!」
ミルは手を胸に当て、やる気満々の表情を浮かべている。
「二人共、王都でよっておきたい場所があったら今日中に済ませておくんだよ。カエルラ領に行ったら王都にどれだけ帰ってこないかわからないからね」
「はい、わかりました。着替えたら買い物に行ってきます」
「私も行くわ」
「じゃあ、僕も……」
「キースさんは来なくて結構です!」
「ええ、キースは家で留守番していなさい」
「な……」
ミルとシトラは家に着くや否や、服装を変え、家から出て行った。
「なにしに行ったんだろう……。気になる……。でも、妻の後を追うなんて……」
僕は潔く家で待っていた。勉強や鍛錬で、時間が過ぎるのをただひたすらに待つ。




