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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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クルス君からの手紙

「お久しぶりです、モンズさん。今、ドマリスさんは今すか?」


「ええ、おられますよ」


 モンズさんは扉を開け、僕を家の中に招き入れた。

 屋敷の中を歩き、ドマリスさんがいると言う部屋の前にやって来た。


「旦那様、キースさんがお見えになりました」


「開いている」


 モンズさんは扉を開け、椅子に座って仕事をしているドマリスさんの姿を見せてくる。


「キース殿、久しぶりだな」


 藍色髪に質が良い燕尾服が似合っており、ドマリスさんは体調が良さそうだ。


「お久しぶりです。今日は暑中見舞いに来ました」


「そうか、わざわざすまないな」


 僕はドマリスさんのもとに歩いて行き、紙袋から木箱を出して両手で渡す。


「……」


 モンズさんも気になるようで、ドマリスさんの背後に回り、木箱を覗き込む。


「むむむ……。こ、これは……」


 ドマリスさんは木箱をあけ、深緑色の液体が入った瓶を見つめた。そのまま、震えながら証明書を手に取る。


「え、エリクサー証明書……。エリクサーって……、え、エリクサー」


「だ、旦那様、し、しっかりしてください。凝った偽物の可能性も……」


「七月一二日、プラス・クーロン作。って書いてあるぞ。ハンコ付きだ……」


「そ、そんなことあり得ませんよ。いや、そんなこと、普通あるわけがない。ほんと、なんて凝った偽物でしょうか」


「えっと、確実に本物ですよ。僕がプラスさんから受け取りましたし。ああ、これが証拠になるかわかりませんが、アルラウネの髪から作ったミサンガです」


 僕は右腕に付いているお守り状の紐を見せる。


「……」


 ドマリスさんは口を開けながら、後方に倒れ込む。


「だ、旦那様っ!」


 モンズさんはドマリスさんを抱き上げ、立ち上がらせる。


「ま、まさか、本当の本当にエリクサーなのか?」


 ドマリスさんは目をギンギンにしながら視線を向けてくる。


「はい、正真正銘のエリクサーです。お世話になったドマリスさんにと思いまして」


「お世話になったのはこっち側だが?」


「まあ、クルス君は僕の弟子ですし、挨拶するのが礼儀ですよ。えっと、クルス君の方はどうですか?」


「あ、ああ、それが……大変優秀な成績を収めているらしい。藍色の勇者に剣術を褒められたそうだ。なんなら、剣だけなら自分を超えるとまで言われたと手紙で書かれていた。師匠のキースさんに感謝の言葉でいっぱいだと……」


 ドマリスさんはクルス君が書いた手紙を僕に見せてきた。今、クルス君はインディクム領の学園に通っており、毎日頑張っているらしい。褒められただけで過信せず、邁進する気持ちで生活しているようだ。僕に会いたいと書かれており、ほんと可愛らしい弟子だ。


「キースさん、嬉しそうですね」


 ミルは手紙を読んでいる僕の横から顔を出して覗き込んでくる。


「そりゃあ、嬉しいよ。僕の教えは間違っていなかったんだって安心できた。藍色の勇者に褒められるだけでもすごい成長だよ。カエルラ領に行ったあとはインディクム領にも行きたいな」


「いいんじゃない。学園都市なんて言われるくらい優秀な者達が集まっている場所に行くのも面白そう。髪色をバカにされそうだけど」


「まあ、今さらだよ。気にする必要は無い。えっと、ありがとうございました」


 僕はドマリスさんに手紙を返す。


「キース殿、本当に貰っていいんだろうか?」


「はい。ドマリスさんが死んだら、クルス君やまだ小さな子供達が悲しみます。保険だと思って持っておいてください。ただし、お城が建つくらいの値段がするそうなので、言いふらさないようにお願いしますね」


「あ、当たり前だ。誰にも言う訳がない。モンズ、わかっているな?」


「もちろんでございます。将来のクルス様に渡せる家宝が舞い込んできてよかったですね」


「あぁ、これで多少の無茶が出来る……。って、いかんいかん。この品を当てにするのは駄目だ。今まで通り、安全に堅実に家を建て直して行く」


「はい、その方がよろしいかと思われます」


「だが、困った……。キース殿に渡せる品がない……。こ、こうなったら、娘をキース殿のに嫁がせるか……。いや、それでも足らない……」


「えっと、あまり気にしないでいいですよ。僕の自己満足なので無理してまで、お返しは必要ありません」


「そう言う訳にもいかない。これはテイルズ家の沽券にかかわる話だ。すでに返せないほどの恩があると言うのに、さらに恩を売られては……」


「じゃあ、僕はいつまでも待ちますから、ドマリスさんがお返しを返せると思った時に渡してください。それだけで十分です」


「あ、ああ、わかった。ほんと、何とお礼を言ったらいいか。ありがとう」


「いえ、喜んでもらえてよかったです。では、僕はこの辺で」


 頭を下げ、ドマリスさんの書斎から出た。


「クルス君が学園でいい成績を残しているなんて、凄いですね。ぼくたちの指導の甲斐がありました!」


 ミルは両手を握りしめ、微笑んでいる。彼女もクルス君の指導に一躍かっているので、嬉しいのだろう。


「まさか、藍色の勇者に褒められるくらい成長しているとはね。このままじゃ、キースを追い越すのも時間の問題かしら」


 シトラは悪い顔を浮かべた。


「うぅ……。でも、弟子は師匠を超える存在だから、それはそれで嬉しいかな」


「キースさんを超えるなんて、中々できないと思いますけどね」


「まあ、特級の魔物を狩れるくらいだからね」


 ミルとシトラはこそこそ呟き、笑いあっていた。


 ドマリスさんの屋敷を出て、そのまま、家に帰る。


「はぁ~、暑中見舞いを全部出し終わったぞー。これで気が楽になった」


「逆に受け取った相手の気が重くなったでしょうね」


「ですねー。ぼくはほとんど売っちゃいましたし、気は楽です」


「私もプラスさんの屋敷に三本置いてあるから気が楽よ」


 シトラとミルは夕食の準備に取り掛かる。僕はアルブを撫で、気分を静めた。

 皆で夕食を済ませ、お風呂に入る。シトラとミルから可愛がってほしいと言う合図を受け、お風呂場で軽く盛り上げる。寝る準備を終えたら、広いベッドの上に乗り、お風呂上りなのに上質な汗を搔いた。


 水分補給をしっかりしながら、とことん可愛がる。シトラとミルはどちらも心地よく眠ってくれた。どちらも満足してくれたらしい。


 僕達の生活は大して変わらず、鍛錬と勉強を頑張ってこなし、午後は自分の好きに過ごす。そうしているうちに、八月一日がやって来た。

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