国宝
イリスちゃんが言い切る前に、国王の仕事部屋にやって来た。イリスちゃんは扉を叩くことすらせず、扉に入る。
「お父さんが何をしようとしているか、私わかるよ」
「イリス、お前、まさか……その箱」
「私もエリクサーを貰った」
「たぁ…………」
国王は額に手を置き、腰を抜かしていた。
「今から宝物庫に行くんでしょ」
「ああ。その通りだ」
「宝物庫……?」
僕は何が起こっているのかよくわからず、国王とイリスちゃんの背中を追う。大きなお城の丁度中央付近に位置する場所にやって来た。大きな金属製の扉を八回開け、ようやくたどり着いたのは未だに黒い魔力が残っている扉だった。
「初代国王の部屋だ。この場は初代国王の血を引く者しか開けられない」
国王は黒い魔力が纏わりついている扉に手を伸ばす。そのまま持ち手を握り、扉を開けた。
部屋の中は大量の陳列棚が置かれており、厳重に保管されている品が沢山置かれていた。
「キース男爵。この場にある国宝の中から好きな品を二つ選ぶといい」
「え? そ、そんなの出来ませんよ。僕はただ暑中見舞いをわたしに来ただけで……」
「キース君がやったことはお父さんがやったことと同じだよ」
イリスちゃんは目を細め、じとーっと見つめてくる。
「えぇ……。そんなことをしていたの……」
「まあ、気にするな。キース男爵よ。イリスの婿となるのなら、国宝の一個や二個所持し、家宝にしておけばよかろう。その方が箔が付く」
「だ、男爵に国宝は早すぎる気がするんですけど……」
「ほらほら、つべこべ言わずにさっさと選ぶ」
イリスちゃんは僕の背中をグイグイおす。
「ちょ、一個壊しただけで、お城が壊れるの同じなんでしょ。あまり大きく動けないよ」
僕はイリスちゃんに押されながら宝物庫に入った。
「私のお勧めはねー。ドラゴンを切ったって言う聖剣かなー」
イリスちゃんは陳列棚に入っている質素な剣を見る。国宝の剣を使えるわけがないんだが……。
「わしのお勧めはこのオリハルコンの盾だな。ドラゴンの咆哮をも防ぐことができると言われている」
国王は伝説級の金属で作られた盾を見ながら呟いた。そんな盾を持って外を出歩けないよ……。
「うぅん……。瓶系はわれちゃうし、絵は汚れちゃうかもしれないし、何かもっと普通の品はないだろうか……」
僕は宝物庫を散策した。役立ちそうな品にするか、お金を目当てにするか、古い品にするか。どれをとっても迷ってしまう。
目を瞑り、瞳に魔力を溜めて魔力視で国宝を見ることにした。すると、作者の魔力がじんわりと見える。赤、青、緑、黄、橙、藍、紫、の七色がほとんどだ。その中に白と黒の魔力が見える。個数は少なく、二種類だけだった。
手に取ったのは白い杖。もう一方は黒い鍵。
「その二つを選ぶなんて、さすが主ですねー」
僕の肩に乗っているアルブは尻尾を振り、喜んでいた。なんぜ、喜ぶのかわからないが、嬉しがってくれるのなら、構わない。
「キース君、その二種類でいいの?」
イリスちゃんは僕に近寄って来て訊いてきた。
「うん。この二種類でいいよ」
「わかった。じゃあ、お父さん。いいよね?」
「ああ。構わない。白い杖は誰が使ってもただの杖でしかないが、初代国王が使っていたと言われている品だ。黒い鍵はどこの鍵かわかっていないが、この場所に大切に保管されていた。どこかにその鍵が使える場所があるのだろう」
「初代国王が使っていた品を僕が持つときが来るなんて……」
僕は二種類の国宝を手の平に乗せ、ギュッと握る。ものすごい長い歴史を感じる……。白い杖は三〇センチメートル程度の長さで目だった装飾品は無く、握りやすい持ち手と先端に進むにつれて細くなっている形状でとても美しい。無駄が一切見当たらず、現代の杖と言われても差し支えない。何百年も前からこの形だったなんて……、この杖を使っていた初代国王は凄い魔法使いだったんだな。黒色の魔力を滲みだしているウォード錠は特にこれと言った特徴があるわけじゃない。鉄製なのかなと思ってしまうほどの重さがあり、しっくりくる。肌身離さず持ち合わせるお守りのような感覚で持っていようかな。
「国王、ありがとうございました。この二種類は家宝にさせていただきます」
「ああ。これからも末永くよろしく頼む」
僕達は宝物庫から出て国王の仕事部屋に戻った。
「キース男爵は今後、どんな予定がある?」
国王は革製の椅子に座りながら、訊いてきた。
「僕はカエルラ領に向かおうと思っています。人生で一度くらい海に行きたくてですね」
「なるほどな。カエルラ領か……。イリスも連れて行ってほしいのは山々だが、お転婆がいては楽しめないであろう。イリスは顔が知られているからな、今回もお留守番だ」
「むぅ……。私もキース君と海に行きたかった~」
イリスちゃんは僕の腕を掴み、ベタベタとくっ付いてくる。
「まあまあ、生きていれば行ける日が来るから、イリスちゃんは生きることだけを考えて。今の時代、なにが起こるかわからないからね」
「う、うん。キース君と幸せになるまで、死ぬ気はないよ」
「僕だって」
少しばかり、恥ずかしい言い合いをして国王の部屋から出た。
「キース君はいつまで王都にいるの?」
「えっと、八日間くらいいようと思う」
「キース君の誕生日をお祝いしたかったのに……。もう少し伸ばしてくれない?」
「そう言われても、もう切符を買っちゃったから……」
「そっか……。じゃあ、シトラちゃんの誕生日にキース君の誕生日のお祝いを渡すよ」
「そんな無理しなくても……」
「無理なんかしてないよ。許嫁としての気持ちだよ。キース君の家で誕生日会をするんでしょ。私も行っていい?」
「もちろん。シトラも喜ぶよ」
僕達はイリスちゃんの部屋に戻る。すると、シトラとミルが部屋の中を物色していた。
「ちょっ! な、なにしているの!」
イリスちゃんは当たり前のように取り乱した。
「ご、ごめんなさい。興味本位でつい……」
シトラは頭を下げて心から謝罪した。
「イリスさんがどんな生活をしているのか知りたくて……」
ミルも頭を下げて謝っていた。
「はぁ……。まあ、特に見られて困るような品はないから良いよ」
イリスちゃんは広い心で二人を許した。やはり、心優しい。




