エリクサー
「そんなことを言って初っ端から藍色の勇者に当たったらどうするの。私、くじ運がないから毎回強者と当たるんだよ。まあ、皆強者なんだけど……」
プラスさんは気分を落としながら服を着替え終えた。
皆で朝食の準備を終えた頃、アルブが起きてきてテーブルの上に寝ころぶ。
パン、牛乳、ベーコンエッグ、サラダと言う健康志向の朝食を得た。
僕とシトラ、ミルは必要最低限の荷物が入ったトランクを持ち、プラスさんと共に勇者邸に向かった。
プラスさんが勇者邸の大きな入口の扉を開けると、プルウィウスギルドのギルドマスターであるベルデさんと元緑色の勇者のフルーンさんが広間で待っていた。
「師匠、おはようございますっ! 今日も私は元気一杯です!」
プラスさんは満面の笑みを浮かべながらフルーンさんのもとに向かう。
「まったく、ちょっと良い男が出来たからって調子にのって。プラータちゃんの方がよっぽど有能だ」
フルーンさんは近くにいたプラータちゃんに視線を向ける。
「おはようございます、キースさん。今日で別の領土に行っちゃうんですよね。寂しいですけど、別の領土でも頑張ってください」
プラータちゃんは微笑みながら、頭を下げる。
「うん。プラータちゃんに負けないくらい頑張るよ」
「列車の出発も迫っていることだし、早速始めるとしようか」
フルーンさんは質が良さそうな液体が入ったガラス製の容器が沢山入った木製の箱に視線を向ける。
「これは私とプラスが作ったエリクサーだ。三二本ある。八本がプラスの分。残り二四本がキース君達の分だ。売りたければそこにいる緑髪の男に渡せばいい」
フルーンさんはベルデさんの方に視線を向ける。
「もう、緑髪の男って酷い呼び方ですね」
「うるさい。さっさと説明しろ」
「はいはい。わかりましたよ。えっと、エリクサーを高値で買い取らせてもらいたいんですが、今、ウィリディス領にお金がないので売れた時の一割をウィリディス領に収めてもらう形になります。もちろん、高値で売らせてもらいます。ただ、時期によって変動があると思いますから皆さんがどうするかお任せしますから決めてください」
「だって。私は全部保管しておくよ。いつか使うかもしれないし」
プラスさんは八本のエリクサーを箱に入れ、暗室で保管しておくそうだ。
エリクサーの大きさは高さ一八センチメートルほどの試験管ほど。持ち運びが物凄く不便と言う量ではない。
「私は四本売るわ」
シトラはエリクサーを四本取って、ベルデさんに渡した。
「一本は私が持っておいて、三本はプラスさんの暗室に預けておく」
シトラは一本を胸の内側にしまい、三本をプラスさんに渡した。
「ぼくは七本売ります。一本は持っておきます」
ミルはベルデさんに七本渡し、一本は自分のウェストポーチにしまった。
「僕は全部持って行きます。えっと、一本ずつ綺麗に包装できませんか?」
「喜んで」
プラスさんとフルーンさんは緩衝材が入ったエリクサーを一本入れるためだけの木製の箱を取り出した。内側の緩衝材は真っ白なシルクが使われており、真緑のエリクサーの色がわかりやすい作りになっている。木製の箱は木目がとても綺麗で漆が塗られた特注品だ。
売り出すために作ってあったのだろう。薄い蓋にも緩衝材が張り付いており箱を落としてもエリクサーが割れることは無いだろう。細く丈夫な白い紐を使い、横と縦にしっかりと結ぶ。表面に蝶々結びが見え、枯れにくいように魔法が掛けられた赤いカーネーションが供えられる。
完璧に同じ見た目の品が八本出来上がった。一本ずつ手持ちが付いている紙袋に入れてもらい、八袋を手に持つ。
「プラスさん、フルーンさん、ベルデさん、ありがとうございました」
僕は頭を深々と下げ、三名に感謝の気持ちを伝えた。
「感謝したいのは私の方だ。まさか、白髪の少年がウィリディス領を救ってくれるとは思っていなかった。ほんとうに、ありがとう。学園長にはそれ相応の罪を償ってもらう。これからのウィリディス領に期待してほしい」
フルーンさんは頭を下げ、僕に感謝の気持ちを伝えてくれた。
「私からも感謝させてください。キースさん、誠にありがとうございました。ウィリディス領が今もあるのはキースさんのおかげです。多額の支援までしていただき、感謝の言葉しかありません。またウィリディス領を訪れた際はウィリディスギルドに顔を出していただければ、お礼しきれなかった分の感謝をさせていただきます。どうか、これからのキースさんの旅に幸があらんことを」
ベルデさんも腰が九〇度を超えるくらい頭を下げ、感謝してくれた。そこまで感謝される筋合いはないのだけれど……。
「感謝されるのは苦手なので照れます……。でも、今のウィリディス領があるのはお二方が諦めずにウィリディス領のために努力してきたからです。僕だけの力じゃありません。僕からもこの綺麗なウィリディス領を今まで守ってくれてありがとうございました。あと、これからのウィリディス領も守って行ってください。何かあれば、僕もまた力を貸します」
僕もフルーンさんとベルデさんに感謝の言葉を伝えた。すると、両者共に泣き出してしまい頭を縦に何度も動かす。
「プラスさん……。頼んでいた品、ありますか……」
ミルはプラスさんのもとに移動し、ぼそぼそと呟いていた。右手に革袋を持っており、金貨が入っていると思われる。
「あるよ……」
「じゃあ……。これで」
ミルは悪い顔をしながらプラスさんに革袋を渡す。
プラスさんは紙箱を取り出し、一〇箱ほどミルに手渡していた。ミルはすぐにトランクの中にしまい、上機嫌になっている。いったいいくら使ったのか……。
「じゃあ、私はキース君達を駅に送ってきますね」
「あ、私も行きます!」
プラスさんとプラータちゃんは僕達のもとに走って来た。
「見送りはここで十分なのに……」
「最後まで見送るに決まってるでしょ。でも、プラータちゃんも来るの?」
プラスさんはプラータちゃんの方に視線を送る。
「もちろんです。私もキースさんを最後まで見送りしたいですから」
「プラータちゃんとキース君って知り合いだったの?」
「僕とプラータちゃんはプラスさんよりも先に知り合いでしたよ。軽く列車の旅をした中です」
僕はプラータちゃんを抱きあげる。




