成功体験から得る恐怖
プラスさんはデートの日から毎日家に泊りに来た。
「プラスさん、今日もですか?」
「ご、ごめん……。私、性欲、バカみたいに強いみたい……。キース君と会えなくなると思うと抑えが効かなくて……。今日も愛してほしい……」
プラスさんは夜な夜な家にやって来て僕達と夕食を取った後、お風呂に入ってベッドの上で愛し合うと言う日々が七日続いた。
「プラスさん、ほどほどにしないと生活に支障をきたしますよ」
「好きな人と愛し合うのが幸せ過ぎて耐えられなかった……。勇者の仕事ばかりしてきてずっと押し殺していた女の心が燃えまくってるの。もう、押し殺さなくてもいいんだって思ったら内側から欲求が溢れ出してきて朝起きてもキース君のことばかり考えちゃって夜を思い出しちゃって仕事どころじゃなくなっちゃうの」
「プラスさん。僕達は旅に出ます。その間は当たり前ですけど僕はいません。仕事に支障をきたすなら夜に僕の家に来るのは止めた方が良いです。明日、エリクサーを貰ったら僕達はそのままウィリディス領を発ちます」
「うぅ……。わかってる……。キース君が好きなのは勇者として努力している私で、こんな猿みたいに盛っている女じゃないよね……。自分でもわかっているのにキース君達がいなくなってもやっていける自信がなくなっちゃって……、怖くて……」
プラスさんは裸の状態で僕に抱き着き、震えていた。
「また、アルラウネが来たらどうしよう……。私一人じゃ絶対に勝てない。夜一人じゃ怖くて寝られなくなっちゃう。今までは自分が弱いからってあきらめがついてたのに、アルラウネに勝っちゃったから、領土の皆が私に期待しているみたいで、凄く怖いの……。来年の勇者順位戦は優勝だなとか、上位入賞は間違いないとか、そんな期待、今までされてこなかったからすごく怖いの!」
プラスさんは僕に抱き着いて胸の内側で叫ぶ。勇者がここまで悲痛を叫ぶことがあるんだと思ってしまった。
でも、プラスさんだって勇者になる前は普通の人間だった。だから、精神が落ち込んでしまうことはある。きっと女の子の日が被っているのだろう。精神が不安定になる時期らしいから普通は愛し合わないはずなのに、プラスさんは不安が大きくなり過ぎて快感に逃げていた。僕がそのきっかけを作ってしまったのが申し訳ない。せっかく自信を付けてもらえたのにその自信を陵駕する周りの期待が大きすぎたのが問題か。
「安心してください、プラスさん。プラスさんが負けても他の勇者の株が上がるだけです。プラスさんに対する想いは一ミリも変わりません。あぁー、他の勇者ってアルラウネを倒した緑色の勇者よりも強いのかー。それじゃあ仕方ないな。って思うくらいですよ。だから、何も心配いりません。もし負けたら僕が慰めてあげますから」
僕はプラスさんの背中を頭と背中を撫で、心から抱きしめる。体の繋がりではなく心の繋がりの方が今は大切だ。
「キース君……。うぅ、うぅぅぅ。うわぁあ~んっ! 好き好きっ! 大好きっ!」
プラスさんは僕に抱き着き、大泣きしながら心の声を漏らす。
「辛い時は泣けばいいんです。僕の胸はいくらでも貸します。勇者が泣いているところなんて普段は見せませんもんね。今のプラスさんなら一人でもウィリディス領をよくできます。失敗しても周りが助けてくれますよ。ウィリディス領は助け合って今まで持ちこたえてきたんですから、周りの力をもっと借りても文句なんて言われません。どうしても辛い時は休んでもいいですから」
「キース君、私、キース君を好きになれて幸せ……。私を沢山助けてくれてありがとう。昔、白馬の王子様なんかに憧れたけど、今は断然白髪のキース君の方を一〇〇パーセント選ぶ」
「はは……、さすがに王子様に勝てるとは思えませんけどね。プラスさんは無理せず他の勇者と比較されても気にせず、困っている人を助けたいと思える心を養ってください」
「うん……。わかった。キース君の言う通りだと思う。勇者順位戦なんてどうでもいいって言ったら悪いけど、はっきり言ってどうでもいい。もう、辛くなるから気にしない。私を勇者になれるくらい強くした神様を恨んだけど、こんな素敵な相手に出会わされちゃったら神様にお礼を言わないと……」
「それくらいの気持ちで十分です。プラスさんの根が腐らないように僕がプラスさんの差さえや栄養になりますよ」
「うぅ……。キース君が良い男すぎて他の領土でも女の子を嫁にしそう……。まあ、仕方ないかって思っちゃうんだよなぁ。逆にこの男を好きにならない方が無理なんだよなぁ」
プラスさんは僕の体に抱き着きながら身を擦りつけてくる。何ともネコみたいな行動だ。
僕はプラスさんを優しく撫でながら気持ちを落ち着かせる。
七月一五日の朝、僕はしっかりと眠った後目を覚ました。
プラスさんとミル、シトラが心地よさそうにベッドの上で眠ってる。朝日が午前五時に上がっており、すでに日差しを放っていた。カーテンを開けると、陽光が部屋いっぱいに入り、目覚めを良くしてくれる。
僕は服を着始めた頃、プラスさんとミル、シトラが目を覚ました。三名で話合い順番を決めた頃、シトラ、ミル、プラスさんの順で僕におはようのキスをしてくる。
「これが夫婦の関係かぁ~。身に沁みる~」
プラスさんはキスした後、ベッドに倒れ込み、両手を握りしめ、足をバタバタさせていた。
「キースさんとのキスは寝起きの珈琲よりも目が覚めます」
「そうね。安全な覚醒作用があるのよね」
ミルとシトラは服を着替え始め、準備を整える。
「あぁ、今日でキース君達がいなくなっちゃのか……。寂しくなっちゃうなー。今度会えるのはいつかな?」
プラスさんは緑色と白が基調のブラジャーとパンティーを履きながら僕に質問してきた。
「そうですね。今度の一月ごろだと思います。王都で勇者順位戦が行われますよね。僕達はその時までに王都にいますから、一月に入ったら僕達の家に来てください。歓迎しますよ」
「王都で会うことになるのか。と言うか、私の戦い、キース君に見られちゃうんだ……。うぅ、負けたくないっていう気持ちが大きくなってきた……」
「別に勝ち負けは関係ないと言いましたよね。橙色の勇者と藍色の勇者に当たらないことを祈っていたらいいんじゃないですか」




