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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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成長が止まる

「あの、アイクさん」


「何だ?」


「元からあった大きな斧の隣に片手斧が置いてあったんですけど、あれは何ですか?」


「片手斧? 俺は両手斧を置いたつもりだったんだが……」


「え、あの持ち手の短さで両手斧なんですか?」


「斧の鉄部分が大きかっただろ、本来あの斧は丸太を切ったり、割ったりする時に使う両手持ちの斧だ。それを片手斧と間違えるって……。まさか、片手で持ったのか?」


 アイクさんは信じられないとでも言わんばかり。


 ――確かに、言われてみれば斧の先が異様に大きかった気がする……。


「まぁ、いい。俺が置いた斧で薪を作れ。もとから置いてあった斧は俺の魔力が流れないと持ち上がらない特別性の斧だ」


「え……。じゃあ、絶対に動かなかったと言うことですか?」


「与えた仕事を魔法でこなされると困るから最終の予防線を張っていたんだ。だが、お前を見てたら、まぁ、あれだ。なんていうんだ、その」


 アイクさんは僕に背中を向けながら言葉を詰まらせている。


「えっと、とりあえず僕はあの両手斧を使い、薪を作ればいいんですね?」


「ああ、そうだ。脚の筋力は付いてきたみたいだからな。のこぎりを使う過程で胸や背中の筋肉も付いただろ」


「自分じゃよくわかりません。でも、筋肉は多少なりとも付いていると思います」


「脚、背中のあとは腕の筋肉を鍛える。斧を持ち上げて振りかざす工程は、斧が重いほど辛い。だからあの斧を選んだ」


 やはり、アイクアさんは巻き割りでも僕の体を鍛えさせるようだ。


「取っ手が長いものでもよかったが、初めから何もできないと困るからな。初めは短めから始めるといいだろう」


「わかりました! 昼食を胃の中に入れたらまた仕事をしてきますね。いただきます!」


 僕は料理を口の中に掻きこんでいく。昼食でも味をしっかりと感じられた。


「ごちそうさまでした!」


 僕は両手を合わせて神に祈った後、お店を出て裏庭に向い、丸太の残りの一本を切り終えた。


「よし! 丸太は全て切り終えたぞ。まさか本当に切り終わるとは思ってなかったけど、やっとここまでこれた」


 丸太が置いてあった場所がスカッとするくらい広くなっていた。


「あとは薪割りを終わらせれば、アイクさんの出した課題を達成できる。終わりが見えてくるとやる気も倍増するな。頑張って薪にしていくぞ!」


 僕は丸太の一部を石台の上に持っていく。

 この工程で一分ほど。

 斧を持ち、一度振りかざすまでに一分。二個に分かれた一部をもう一度割って四個にするために斧をニ回振って二分。


 僕は一個の丸太の一部を切るのに四分くらい掛かってしまった。


 丸太の一部をすべて割るための時間を計算してみる。

 今まで切ってきた丸太の数は一四本。

 全ての丸太が三〇メートルとあまりに長く、気が遠くなりそうだったが何とか切り終えた。

 その過程で作られた丸太の一部は丸太一本で一〇〇当分されているので一四本すべてを切り、一四〇〇個ある。

 一個から薪を四個作る必要があるので、斧を三回振らなければならない。

 薪を木棚に丸太の一部を石台に移動させるのに一分ほどかかるので、全てで四分。


 丸太の一部一四〇〇個を薪にするには五六〇〇分かかる。

 となると……、全て切り終わるためには約九〇時間必要だ。


 九〇時間。


 僕が薪を作れる時間は午前九時から一二時までの三時間、昼食後、午後一時から四時までの三時間。夜食後の三時間。

 計九時間。

 残りの日数は五日……。


「時間が全然足りないな。僕がもっと早く薪を作れるようにならないといけないのか」


 丸太を切る時も最後の方は凄く速くできるようになった。きっと薪を作るのも時間が短くなっていくはずだ。気負わずに自分の力を最大限使ってやり抜く。


 僕は木を割っていった。来る日も来る日も木を割り、薪を作っていた。

 見るからに丸太の一部は減っていっている。


 ビラ配りも、二時間を常に切れるようになり、調子がいいと一時間三〇分で戻って来られるようになっていた。

 ただ……、不穏な空気が漂い始める。


 ☆☆☆☆


 アイクさんのお店で働き始めて一三日目。

 アイクさんからの課題を達成するために残された日数は今日、合わせてあと二日。

 それにも拘わらず、丸太の一部は七〇〇個程残っていた。


「ま、まさかこの日まで成長が止まるなんて……。どうしよう、このままじゃ終わらない」


 体調は良い。料理の味もする。笑い話にはちゃんと笑えた。

 特に体におかしな部分はない。それなのに、成長が止まった。


 今の僕にとって成長できないのは焦る要因になりうる問題だ。

 今日まで全力を尽くしてきた。手を抜いた日はない。

 まだ四八時間ある。でも、たった四八時間でどうにかできる問題なのだろうか。


 僕は焦りながら朝食、ビラ配り、薪割り、昼食、薪割り、ビラ配り、夕食、薪割りをこなす。

 焦っている間に現在の時刻は午後一一時。残り三二時間になった。

 明後日の朝七時を過ぎた時、薪割りが終わっていなかったら今までやってきた仕事が全て無駄になる。


 丸太の一部の個数は残り五六〇個。

 はっきり言うと、いつもの九時間じゃ足りない。

 僕のたどり着いた決断は徹夜での作業だった。

 残りの個数、ここまで成長できなかったのを考えると全ての時間を仕事に回さなければとうてい間に合わない。


 計算上、時間の全てを仕事に回したとしても薪割りの時間を四分から三分に短縮しないと完遂は不可能だ。

 そもそも、徹夜するためにはアイクさんに話をしなければならない。

 許しをもらえる保証はなかった。

 だが、僕は覚悟を決めてアイクさんの書斎に入っていった。


「アイクさん。お願いがあります」


「何だ?」


 アイクさんは机に座って何かを書いていた。

 僕の方を振り向かずただただ机に向かっている。


「徹夜させてください」


「いいぞ」


「ですよね。ダメですよね。……ん?」


「別に徹夜してもいいぞ。明後日の午前七時に終わらないって思ったんだろ」


「はい。このままやっていても絶対に終わりません」


「最後は根性だ。生きるか死ぬか。三二時間ぶっ続けで働けるのか。キースはどう思う?」


「やります。何が何でも三二時間全力で駆け抜けてやり遂げて見せます!」


「そうか。なら、さっさとやってこい。時間は待ってくれないぞ」


 アイクさんは角灯(ランタン)を持って僕の方に向ってきた。


「夜は暗いからな、もっていけ。それと薪割りは腕の力だけじゃなく全身の力で行うといい。体力が少しは長く持つはずだ」


「は、はい!」


 僕はアイクさんにお店の扉を開けてもらい、明るい角灯を持って外に出て裏庭に回った。


「よし、絶対に終わらせてやる。シトラのためにやり切るぞ!」


 僕は真夜中から薪割りを再開し、長くて短い三二時間の仕事が始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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