緑色の勇者、初デート
「危ない!」
僕はプラスさんの手を握り、ギュッと引き寄せて勢い余って抱きしめる。まあ、綺麗な服装が汚れずに済んでよかった。
「はわわわわわわわっ!」
プラスさんは僕からばっと離れ、両手を振りなが後ずさる。表情が一気に赤くなっており耳まで燃えているかのようだ。
いつも縛っている緑色の長い髪を降ろし、ロングヘアーで大人の印象が強めだった。前髪を四葉のクローバの細工が付いた髪留めで押さえており、可愛らしさも十分醸し出されている。
服装は長袖のワイシャツと緑色のジーンズで、スラッと長い脚がとても綺麗に見えた。ただ、普段はあまり気にしていなかった安産型の大きなお尻が彼女の色気を引き立たせていることに気づいた。茶色のベルトを着け右腰に革製のウェストポーチ、左腰にレイピアを掛け、いつでも戦える状況を整えている。
足下は身長を高く見せようとしているのか、白色のヒールを履いている。すでに身長は一七〇センチメートルほどあるので、十分だと思うけど……。いや、女性らしさを上げているのかな。僕の身長が一八〇センチメートル近くあると考えると、今は一七四センチメートルくらいか。ミルやシトラよりずいぶん大きく見える。
「き、き、キース君、おはよう。な、なんか、印象が違い過ぎないかな……」
プラスさんは長めの横髪を弄りながら声をどもらせ、僕のことを言っているのか、プラスさんのことをいているのかわからなかった。
「プラスさんは凄く綺麗ですよ。勇者の服装じゃなくても凄く似合っています」
僕はとりあえずプラスさんの服装を褒めておいた。本心だから。
「ぐふっ!」
プラスさんはなぜか、ダメージを食らった。すぐにハンカチを取り出して鼻を押さえる。
「ご、ごめん。私、緑色の勇者なのにイケメン耐性が付いてなくて……。さすがに今の笑顔は受けきれなかった」
プラスさんは何かよくわからない発言をしながら、よろめいていた。
「プラスさん、慣れないと夜に死んじゃいますよ」
ミルは腰に手を当てながら出てくる。
「そうそう。この男は、素がこれなので、ずっとこんな調子ですよ」
「えぇ……、け、化粧とかしていないの? 肌、白すぎない……」
「そう言われても、昔からこんな感じなので。逆に日焼け止めのせいで病弱に見えないか心配です」
僕は日焼け止めを塗りすぎたのかな……。まあ、気にしなくてもいいか。
「でも、プラスさん、復興の手伝いをしなくてもいいんですか?」
「いやぁー、私、働き過ぎて師匠から休めって言われちゃって……。だから、今日はその、えっと、産まれて初めてのデートなる全く縁遠かった行いに参加させてもらおうと思って……」
プラスさんは指先を突きながら恥ずかしがっている。
「プラスさん、デートしたことがないんですか? 意外ですね。そんなに綺麗なら多くの男性が放っておかないような気がしますけど……」
「も、もうっ! キース君、口が達者すぎるよ~っ!」
プラスさんは手をブンブンと振り、顔の赤らみを隠そうとしていた。
「私、その、えっと、あの……。ずっと修行と勉強ばかりしてきて、誰かを好きになったことが無くて……。朝、昼、晩、ずっと考えこんじゃって仕事も手に付かなくなっちゃって……。もう、こんな気持ち初めてなの……」
プラスさんは長い脚を巧みに使い、僕の前に歩いてくる。そのまま手をぎゅっと握って来た。
「お、お願い、キース君。奥さんがいるってわかってる。でも、諦めが付かなくて、ここで何もしなかったら後悔するから……私とデートして……。そ、その、私、お姉さんらしく振舞えないかもしれないけど、頑張るから!」
プラスさんは顔を赤らめながらお願いしてきた。彼女の緑色の瞳がめらめらと燃えているように気合いが籠っており、本気だとすぐにわかる。
「プラスさん、僕とキスは出来ますか?」
「え……、余裕」
プラスさんは即答した。
「じゃあ、先にしましょう」
僕はプラスさんの顎に人差し指の腹を当て少し上を向かせてから挨拶のキスをした。ただただ、唇を合わせるだけの簡単なキス。その瞬間わかった。僕はプラスさんを愛せる。
「ちょ、き、キース君っ! は、早い、早いよ! 私のファーストキス、一瞬でなくなっちゃったよ! 色々計画があったのに!」
プラスさんは後方に逃げようとすると思ったので、すでに手を回してある。
「デートをするんですよ。常に緊張されている状態だと楽しめないじゃないですか。でも、もう、緊張は軽くほぐれましたよね?」
「……確かに」
プラスさんの目が丸くなり、カチカチだった体が柔らかくなる。
「じゃあ、これでデートを楽しめますね。今から、どこに行くか全然決まっていませんけど……、まだ、観光できそうな場所はあるんですか?」
「うん。アルラウネの被害を受けても大聖堂とか教会は大きな被害をうけなかったの。初代国王の結界みたいな魔法が発動していたらしくて……。もう、どうせならウィリディス領全体に張っておけよ。って思ったけど……、教会巡りとかどうかな?」
「良いですね。僕達、まだ一番有名な場所しか言っていないので、いろんな教会に行ってみたいです。ミルとシトラもいいかな?」
「意義ナーシ」
ミルとシトラは何とも軽い返答だった。
「なんか怒ってる?」
「べつにー。怒ってませんよ。まさか、初っ端からチューするとは思ってなかっただけです」
「ええ、別に怒ってないわ。キースのその顔からして、察しちゃったもの……」
ミルとシトラはご機嫌斜めだった。きっと一夫多妻が市民の間で少ないのはこういうのが原因なんだろうな。
「じゃあ、私が教会を案内するね」
プラスさんは生き生きとした表情で話す。やはり、緊張を解したのが利いたようだ。
僕達は教会に行く途中、朝食を得るために喫茶店にはいった。
プラスさんのおすすめの喫茶店は大きな被害から免れ、営業を開始していた。
「あれあれー。緑色の勇者様が男を連れてきたー。珍しいー。というか、初めて見たわ」
喫茶店の年配マスターの奥様だと思われる女性がプラスさんを弄る。
「も、もう、やめてくださいよ」
「いい男じゃない。でも、顔で選ぶと後で後悔するからね」
「ちっちっち、顔だけじゃないんですよねー」
プラスさんはどこか勝ち誇ったような雰囲気を出していた。やはり領民の方ととても仲が良い。それだけ、プラスさんの性格が良いということだ。
「あら、そうなの? ごめんなさいね。顔が良くて性格まで良い男にあった覚えがないもんだからー」
奥様は少々笑いながら、メニュー表を出してくる。
「ありがとうございます。お店、アルラウネの被害を大きく受けなくてよかったですね」
「そうなのよ。緑色の勇者様のおかげかしらね。では、ごゆっくり」
奥様は別のお客さんのもとに向かった。




