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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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気分がいい晴れの日

「シトラ……。おはよう」


「ええ、おはよう。昨日はさんざん可愛がってくれたわね。何度死ぬかと思ったか。手加減ってもんを知らないでしょ。ほんと、ほんと、昨日もよかった……」


 シトラは視線を反らし、尻尾を大きく振りながら呟いた。


「うぅ、シトラ~」


 僕は優しすぎるシトラに抱き着き、体を労わる。


「もう、くっ付かないで。うっとおしい。あんたらは仕事に行きなさい。ぐうたらしていたら鈍っちゃうでしょ」


 シトラは立ち上がり、腕を組みながらはっきりと言う。


「わかった。でも、その前に……」


 僕は胸を張っているシトラの前に立つ。


「なによ……」


「シトラ、大好きだよ」


「昨日、死ぬほど聞いた。もう、聴き飽きちゃったわ」


 シトラはツンとそっぽを向く。それでも尻尾を大きく振っていた。


「じゃあ、愛してる」


「それもたくさん聞いた。言われ過ぎて嘘なんじゃないかって思っちゃう」


 シトラの尻尾は荒ぶるほど振られていた。言葉と感情が一致していない。


「ふっ……。シトラ、ありがとう」


「……ええ。どういたしまして」


 シトラは振り返り、はにかんでから目を瞑った。どうやら、ミルと同じことをして欲しいらしい。


 僕はシトラの肩をそっと掴み、少しかがんで軽いキスをする。


「もう、ほんと……キースは私の気持ちなんて全然わかってないんだから……」


 シトラは僕に抱き着き、首に手を回すとつま先立ちになって深い深いキスをして来た。朝にしては豪快過ぎる……。


「ミルちゃん以上にしてくれなきゃ、嫌……」


 シトラは灰色のような銀色の瞳を熱らせ、白い頬を赤らめながらむすっと膨れた。


「はは……、起きて見てたのか」


 僕達は久しぶりに愛し合った夜が明け、昨日よりも仲が確実に深まっていた。このまま、第二回戦に入ってもいいぐらいだが、楽しみは後に取っておこう。


「じゃあ、すぐに朝食にするから、服を着替えて勉強でもしてなさい」


 シトラはすっぽんぽんの状態からあっと言う間にメイド服に着替え、広間に向かう。早着替えの才能があるんじゃなかろうか……。


「ミル、仕事の準備をしようか」


「はーい」


 僕とミルは冒険着を着こむ。

 僕は黒い長ズボンと長袖の白シャツ、夏場で熱いので上着は着ず革製の防具を白シャツの上から付け、日よけ用の薄手の黒いローブを羽織った。


「えへへ~。キースさんが好きな布地が少ない冒険着が着れる季節になりましたね~」


 ミルは臍が出てしまうほど丈が短い上着を着て、下尻が見えているんじゃないかと思うほど短いジーンズのパンツを履いている。薄手のローブを羽織り、全身に日焼け止めクリームを塗っていた。僕の顔にも塗りたくられる。


「日焼けすると、老けるのが速いそうなので、絶対日焼けしちゃ駄目です」


「そうなんだ……。でも、僕は別に……」


「ぼくはキースさんといつまでも健康で一緒に居たいです。だから、日焼け止めをちゃんと塗ってください!」


「わかった。出来るだけ、日焼けしないように気をつけるよ」


「ありがとうございます!」


 ミルは頭を下げた。気持ちが良いくらいの笑顔を浮かべており、可愛さが爆発している。

 僕は左腰にアダマスを掛け、固定用のバンドを付けたフルーファを背負う。


 寝室から広間に移り、ベーコンが焼かれる良い香りが広がっていた。


「はぁ~。お腹が空いてきました~」


 ミルは椅子に座り、お腹を鳴らす。ほど良く割れた腹筋がちらりと見えるので、彼女も体が随分と鍛えられている。


「もうできるわ」


 シトラは温めたパンと目玉焼きベーコン、フルーツの盛り合わせを出してきた。僕とミルは両手を合わせ、神に感謝した後、いただく。


「あぁー、美味しい……。爽やかに晴れた日の朝食はやっぱりいいなー」


「そうね。ジメジメとした雰囲気より断然いいわね」


「毛がふわふわ~っとしてさらさらになっちゃう風が気持ちいです~」


 僕達は幸せを全身で感じながら質の良い朝を過ごした。


「じゃあ、シトラ。仕事に行ってくる」


 僕はアルブを肩に乗せ、シトラに伝えた。


「言ってきまーす」


 ミルは手を振り、シトラに出発を伝える。


 扉を開けると、僕とミルは爽やかな夏の風に吹かれる。森と花の香りが家の中に充満していく。靴を履き終わった僕達は玄関から家を出た。


「行ってらっしゃい。無事に帰って来てね」


 シトラは手を振って笑っていた。いつもあまり笑わないシトラが不意に微笑むと、もとからの可愛さがさらに際立っていた。


「ウィリディス領は復興の途中だけど、依頼は無くならないはずだ。逆にアルラウネやマンドラゴラの影響で抑制されていた魔物が増えるかもしれない。僕達が出来ることをしよう」


「はい、今日はキースさんに沢山愛されたので元気万倍です!」


 ミルは両手を握り合わせ、やる気を見せてくる。凛々しい表情から伝わってくるのは仕事を頑張るという熱意だ。


 僕達はウィリディスギルドに向かい、依頼を見る。魔物の討伐依頼を受け『緑の森』に向かった。マンドラゴラの数は一気に減少し、薬草の数が増えていた。


 きっとマンドラゴラに栄養を取られ、種から育つことが出来なかったと思われる。天然の薬草が増えれば、ポーションの数も増えるので物凄く良い兆候だった。

 魔物の数は以前よりも増えているが、森の中のマンドラゴラが減って食料が増えたのか、機嫌が悪い訳ではない。でも、増えすぎると問題になるので、しっかり駆除して回った。駆除した後は勉強を行い、知識を付ける。


「はぁ~、勉強、ものすごく疲れますー」


「まあまあ、そう言わず、もう少し頑張ろう」


「はーい」


 ミルは粘って粘って勉強を頑張った。それだけで、知識がどんどん定着していく。


 午後三時頃、ウィリディスギルドに向かい、依頼の状況を報告した。報酬を貰い、家に帰る。そのような生活を七日。今日は八日目。多分、今日がウィリディス領で最後の旅行になる。


「ふぐぐぐ~、はぁー。今日は最後の旅行か……。でも、旅行なんて出来る場所あるの? 今、ウィリディス領は大変な状態だけど……」


 シトラは伸びをしながら僕に訊いてくる。


「まあ、どこもかしこもぶっ壊されちゃったみたいだけど、まだ行っていない観光地もあるし、一応行ってみようと思って」


 僕はウィリディス領の冊子を開き、かつての綺麗な姿の絵を見る。


「むぅー、今日はプラスさんも来るんですよね。ほんと、なんで、プラスさんも……」


「プラスさんが一緒に旅行したいって言うから……」


「むぅー、キースさんはプラスさんに好かれちゃってますから、ほんとうに求婚されるかもしれませんよ」


 ミルは腕を組みながら呟いた。


「ええ……、なんで、そんなことがわかるの?」


「逆に何でわからないのか疑問だわ」


 シトラは首を傾げる。どうやら、僕はプラスさんに好意を持たれているらしい。でも、なぜ……。


「まあ、簡単に言うと前々から相談されているのよ。もし、私がキース君のことを好きって言ったらどうする? とか、キース君って年上に興味があるかな……? とか」


 シトラは苦笑いを浮かべながら呟いた。僕が知らない所でプラスさんはシトラに相談していたらしい。

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