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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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気分がいい夜

「い、いきなり最強の媚薬を使う訳にはいかないから、それはしまっておいて」


「そ、そうですね。さすがに、死んじゃうかもしれませんもんね」


 ミルは木製の箱にブラックワイバーンの媚薬をしまう。紐で縛り、封印した。


「この普通の品のにおいを嗅いだだけでもやばいってのに……。今はしまって。じゃないと、歯止めが……」


 シトラはミルより鼻が良いので、市販の媚薬の匂いだけですでに蕩けていた。僕は媚薬のにおいを消そうと袋に詰めたり、風に晒したりと努力した。だが、ぷんぷんするらしい。すこしすると……。


「においを消す意思を感知しました。『無色魔法:無臭』を覚えました」


 アルブの声が聞こえ、僕たちは新しい能力を手に入れた。


「あ、匂いが消えた……。ほ……、よかった」


 シトラは胸をなでおろし、呼吸を整える。


「あぁー、ぼくは昼間っから淫らになってもよかったんですけどね~」


 ミルは少々しょんぼりしながら、尻尾を下げる。


「じゃあ、私は料理を作るわ」


 シトラは僕が買って来た食材を使い、料理を作り出した。


「ぼくも手伝います」


 ミルもシトラの手伝いを始め、楽しそうに話し合いながら料理を作っている。そんな風景があまりにも平和で、僕はこの瞬間を守るために戦ったんだなと思えた。


 二名が料理を作っている間、僕は暑中見舞いに添える手紙を書いていく。送る時に添えてもらおうと思ったのだ。クサントス領やルフス領に向かうだけで時間が掛かってしまう。さすがに王様に送りつけるというのも失礼な話なので、王様とイリスちゃんには手渡しする予定だ。

 そのため、ルフス領とクサントス領にいる方の分の手紙を書き、近況報告や返礼品の送り先などを書いておく。ウィリディス領の南にあるカエルラ領に向かう予定なので、何か贈物がある場合はカエルラ領の冒険者ギルドに送ってもらおう。


 アイクさんとドリミアさん、エルツさんに手紙を書き終わったころ、料理が完成したので四名で神に祈ってから美味しくいただいた。シトラとミルの手料理が食べられるのは至福の時だ。今、この幸せは普通に過ごしていても味わえなかった。数日前の恐怖があったからこそ、今の幸せを噛み締められる。


「シトラとミルがいてくれて僕は幸せ者だよ。ありがとう」


「な、なによ。改まって。でも、そうね……。キースが私を助けてくれなかったら、ルフス領でずっとメイドをさせられていたわ。助けてくれてありがとう」


「ぼくだって、捕まって奴隷にさせられているところでした。キースさんがいたからこそ、今のぼくがここにいて、一生の幸福を味わうことができているんです。ほんと、キースさんにはぼくの一生を捧げても返しきれない恩があるんですよ! ありがとうございます!」


 シトラとミルは頭を下げ、僕に感謝してくれた。感謝の気持ちを伝えてくれると僕も気持ちが昂る。


「まあ、僕が生きているのはアルブのおかげだ。本当にありがとう」


 僕はアルブの背中を撫でる。


「主がいなかったら、私は産まれることができませんでしたから、主と出会えて本当によかったです。ありがとうございます」


 僕達は皆に感謝し合い、平和なこの一瞬を美味しい料理と共に噛み締めた。

昼食を得て他の人の手紙も仕上げていく。


 シトラとミルはお菓子を作るらしく、僕が羽ペンを動かしている間に甘い香りが漂って来ていた。三時のおやつが待ち遠しい。

 手紙を全て書き終え、午後三時頃、四名で焼き立てのパイを食す。無糖の紅茶と共に食すと大変美味だった。シトラとミルの腕はどちらも上がっており、太らないか心配になるほど食べてしまう。


 三時のおやつを食べ終えた頃、軽い運動を行い、食べたパイを消化する。森の中は涼しく、清々しい気持ちになれた。森の周りは瓦礫だらけなのに、僕達はこんな良い生活を送ってしまい、申し訳ない。

 シトラとミルが言うにはアルラウネを倒さなかったらもっとひどい結果になっていたから何も落ち込む必要がないとのことだ。まあ、それはそうだけど……。


 僕は変に落ち込みやすい体質なので、体を動かして気を紛らわせた。そう言う技術も必要なので、自分の気持ちにとらわれ過ぎないようにする。


 夕食時、高級な肉が出された。ナイフを当てるだけで切れてしまうような柔らかい肉で、シトラの肉の焼き加減が絶妙に良い。ソースも塩味が利いていて美味しかった。


「あぁー、肉、美味しいです~」


 ミルは肉を口に入れ、軽く泣いている。


「そうね。やっぱり肉が一番美味しいわね」


 シトラもしっかりと噛み締め、心の底から肉を味わっていた。どちらも肉が大好きなので、高いお金を出して買って来た甲斐がある。

 良い葡萄酒を開け、三名で飲み交わす。僕はグラス一杯、シトラとミルは二杯ずつ、残った分は後の晩酌に残しておこう。


 夕食が終わり、お風呂の時間がやって来た。


「はぁー、お風呂、気持ちいいですー」


 ミルは僕の腕に抱き着きながら呟いた。


「ほんとね。やっぱり、温かいお湯に浸かるのは心の洗濯なのよ……」


 シトラも僕に抱き着きながら、心を穏やかにさせていた。


「えっと、二人共。僕、結構酔ってるし、手加減できないかも……」


「えへへ……。キースさん。安心してください。ぼくたちも我慢の限界ですから」


「キースの全力を受け止めるのはまだ難しいけど、精一杯頑張るわ」


 ミルとシトラは僕の太ももの上に乗ってくる。

 外に見える復興中のウィリディス領の夜景を背景に完全に獣になる前の妻二名が視界に映っている。淡い緑色の照明がシトラの銀髪を光らせ、ミルの金髪を際立たせる。


 両者の頭に手を伸ばし、へたっている耳の後ろを撫でながら、頬を伝い、顎下を摩る。


「キースさん……、まだまだ焦らしてくるんですね……」


「もう、準備万端でしょ……」


 ミルとシトラはせかしてくるが、せっかく気分が良いのだから、この甘いひと時をもう少し楽しみたい。

 両者を優しく撫でて近寄せた後、尻尾の裏側の付け根を撫でながら、少し触っただけで破れてしまいそうなほど柔らかい唇を重ね合わせた。

 葡萄酒の匂いが強く、それだけ酔いが回る。休憩がてら体を洗ってお風呂場を出た。脱衣所で体を拭き、バスローブを羽織る。


 媚薬を残しておいた葡萄酒の中に入れ、しっかりと混ぜ合わせた後、三個のグラスに分けた。ここまでする必要は無いかもしれない。でも、こういう気分に成れるときはいつかわからないから、経験するのも悪くない。

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