最後の一撃
「また、腹に穴をあけてやるよっ!」
アルラウネも意地を見せ、地面からプラスさんと遜色ないほど大きな根を出現させ、ウィリディス領を襲う。
「ふっ!」
プラスさんは一本の槍をアルラウネ目掛けて投げ込んだ。
「当たるかよ!」
アルラウネの根は槍を防ぐために前に出てくるが……。
「はああっ!」
プラスさんは城壁を破壊するほどの加速で専用武器のレイピアをアルラウネの根に突き立てる。根はぴたりと止まり、槍はアルラウネの体に突き刺さった。だが、すぐに引き抜かれる。
「ぐぅうっ! な、なんだこれ……」
アルラウネの体に一瞬で毒が周り、魔力がこめられなくなる。
「即効性を高めた毒です。一〇秒だけ魔力を完全に止めます。でも、今の私なら、一〇秒あれば十分……」
どうやら、遅効性ではなく即効性で威力を極限まで高めた毒が槍先に塗ってあったようだ。アルラウネの体は一〇秒の間、完全にただの木偶人形と同じになった。
プラスさんは巨大な根の先を一カ所に集め、捩じったような巨大で鋭い槍をすでに作り出しており、殺意満々だ……。
「これ以上、ウィリディス領に近寄るなあああああああああああああああああっ! 『神樹の槍』」
プラスさんが力強く右手を前に突き出すと、日が完全に沈み視野が暗くなった。地面から生えた巨大な槍が草原の草花を吹き飛ばすほどの速度で放たれ、アルラウネの体に向って勢いよく飛ぶ。
「ぐっ、ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
プラスさんの放った巨大な槍がアルラウネの首に突き刺さり、首と胴体を完全に離れさせた。アルラウネは力なく倒れ再生することは無かった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。やった。やった……」
プラスさんは大分無理したのか、地面に膝をつき力なく倒れる。一撃に全てを掛けたようだ。
「作戦ってほんと予想通りにいかないわね……」
「そうですね。あと、ぼくたちの力不足が目立ちました。このままじゃ、ぼくたちはただのお荷物になってしまいます」
シトラとミルは話し会いながら、結果を重く受け止めていた。
アルラウネの体から魔力が無くなり、絶命したと僕の魔力視の結果からわかる。
「これでウィリディス領に少しは平穏な期間が来るはずだ。改修工事が大変そうだけど……」
僕はアルラウネの根によって至るところがボロボロになっているウィリディス領を見た。城壁や建物はもちろん。地面や水路、下水道に水道まで、何もかも整備が必要だ。もう、何年かかる工事になるのやら。
――ウィリディス学園の学園長のせいでアルラウネの力が増してしまった。本当なら、初めの一撃で倒しきれいていたのに……。まあ、どのみちか。
僕はアルラウネの体を回収した。巨大な一撃を受けても体はしっかりと残っている。ほんと、黒色になると防御力がぐんっと高くなるよな。
倒れているプラスさんも回収し、勇者邸に向かった。
☆☆☆☆
「キース君。プラス……」
元緑色の勇者であるフルーンさんが僕達の帰還を見ると泣いていた。
どうやらプラスさんが着ていた魔胴着は昔の勇者服で、フルーンさんのおさがりだとわかった。
フルーンさんの勇者服を着て以前倒せなかったアルラウネを討伐するなんて師匠としてどんな気分なんだろう。泣いていることからして嬉しいんだろうな。倒したアルラウネは黒い木のようになってしまっていた。だが、この体そのものが薬に利用できるという。ものすごく高価な素材なので、領土の復興費に充ててもらいたい。
「キース君。このアルラウネは一体誰が……」
フルーンさんは涙を擦り、僕にむりくり話しかけてきた。
「ギリギリまで追い詰めたところで、プラスさんがとどめの一撃を放ちました。ものすごくカッコよかったですよ。もう、あれこそ勇者の姿と言っても過言じゃありません」
「はは……、そうか。それは良かった。本当によかった……」
フルーンさんは顔に手を当て、床にペタンコ座りしながら泣き崩れる。
「素材の価値は倒してからすぐ落ち始める。風化止めの魔法を掛けるぞ」
フルーンさんはアルラウネの体に魔法を掛けて腐食しないようにした。加えてエリクサーの素材となる柱頭の部分もしっかりと保存する。まあ、薬を作るのはプラスさんとフルーンさんだと思うので、彼女たちに渡しておけば何ら問題ないか。
「あの! 値段交渉をしてもいいですか! 最後にプラスさんに手柄を横取りされていましたけど、ほとんどキースさんが戦っていたようなものです!」
ミルは手を挙げてフルーンさんに話しかける。
「ミル、ちょっと待って。アルラウネが領土内に入ってからはプラスさんが長い間、アルラウネを引き付けていた。そのおかげで僕達は領度の人達を助けられていた。シトラとミルも人助けに狩り出てくれたし、ウィリディス領を守ってくれた。ここは喧嘩にならないように四等分が妥当だと思う」
僕はアルブを人数に入れず、僕とプラスさん、ミル、シトラの四名でアルラウネを討伐したということを提案した。なんなら、討伐実績はプラスさんに譲り、報酬だけ四等分でも構わない。
「アルラウネの素材を四分の一でももらえるだけでプラスは一生安泰だ。彼女も構わないと言うだろう」
「ほっ……。よかったです」
ミルは胸をなでおろし、心から安堵していた。
「じゃあ、僕の報酬はウィリディス領に寄付しますね」
「え……」
フルーンさんは目を丸くして呟いた。
「ちょっと!」
ミルとシトラは大きな声を出し、僕を引っ張る。僕も疲れが溜まっており、簡単に揺さぶられた。
「なんで、黒いアルラウネと一日中ぼこすか殴り合っていたキースがお金をもらわないで寄付するの! おかしいでしょ!」
シトラは僕の頬を両手で挟み、銀色の瞳で訴えかけてくる。
「そうですそうです! おかしいです! キースさんが一番頑張っていたじゃないですか!」
「ううん、僕だけが頑張ったんじゃないよ。皆頑張ったんだ。ウィリディス領の人達もアルラウネの恐怖を受けても頑張ってプラスさんを応援した。だから、僕達が戦えた。皆が報酬を貰える権利があると思う」
「うぅ……。ほんと、お人よしね……」
シトラは僕の本気度を理解したのか、うなだれた。
「はぁー。キースさんの人柄がよすぎてぼく達がお金をもらっていいのか疑問に思ってきました……」
ミルも溜息をつき、頭を振っていた。




