日の入り
「ふう……。プルウィウス流剣術、イエロー連斬!」
僕は爆発音がするほどの加速を見せ、槍を回避、フルーファの刃で八連撃加えれば相手の魔力を八パーセントほど削れる。最大魔力からなので、抉れる量は減っていくが少なくさせることに変わりはないので攻撃を何度も当てるにこしたことは無い。
「もう、何度も見てるんだよ!」
アルラウネは僕のイエロー連斬の攻撃を全て回避した。さすがに何度も見せたら読まれるか。超至近距離からの回し蹴りを繰り出してくると僕の側頭部目掛けて振り抜く。
僕は攻撃を回避できず、もろにくらい、地面に衝突。骨が軋む音が聞こえたが、吹っ飛んでいる間に体を治し、意識を取り戻した。空中で体勢を立て直し、靴裏を地面に擦りつけて停止。鼻から出ている血を擦って止め、折れた歯や口の中に入った砂混じりの血を吐き出す。すでに歯は生え変わり、内出血も治っている。頭の傷もない。
「ちっ、ほんと死なねえな。魔力を吸い取ってからじゃないと致命傷にならないか」
アルラウネは頭も切れるようで、僕の体から魔力を抜き取る作戦に変えた。どうやら、僕と同じ作戦に出るらしい。まあ、膨大な魔力を持つ相手と戦う時はそれが一番賢い戦い方だ。
「どちらが先に相手の魔力を吸い出せるか……。そう言う話しになってくるな」
「つまり、我慢比べってことだ」
アルラウネは拳を鳴らし、笑いながら迫ってくる。そのまま顏に殴りかかってきたので僕は回避した。だが、次の脚の攻撃は回避できなかった。少し触れただけで、魔力をごっそり持っていかれる。
僕もフルーファで切りつけ、緑色の魔力を食らった、フルーファから無色の魔力を受け取る。ほんと、取られては取り、取っては取られを繰り返した。殴り殴られ、蹴り蹴られ、地形が変わるほどの戦いがいったいどれだけ続いただろうか。
シトラやミルは応戦に来た。だが、僕とアルラウネの戦いの中に入ることが出来なかった。入ったら足手まといになるとわかっていたらしい。だが、二名がそこにいるだけで、アルラウネの意識がそがれる結果となる。体力が削られれば、シトラとミルも参戦できる。そのため、アルラウネは体力を削られるわけにはいかなかった。
でも、相手は僕だ。三日三晩戦える体力がある。アルラウネは魔物だが、残念ながら植物だ。大量の魔力を有していると言えど、日の光が無ければ力は落ちる。そのため、僕が倒せないと踏むと二択の選択しがあった。そのまま戦い続けるか、逃げるかのどちらかだ。夜中になる前に僕を倒せなければ、逃げの一択だろう。
「く……、夕暮れ時が近い……」
アルラウネは日が沈み始め、焦っていた。日の光が無ければ植物は活発に動けない。それはアルラウネも例外ではなく、日の光が弱まるにつれて力が落ちていた。最大に興奮していた時が正午だとすると、アルラウネの本気が出せるのも正午だ。その時を過ぎれば、力が落ちていく。
「絶対に逃がさないよ」
僕とシトラ、ミルの魔力視は暗闇でも関係なく相手の魔力を見る。アルラウネが闇に逃れようとも化け物の魔力を見失う訳がない。
「糞があああああああああっ!」
アルラウネは念話で叫ぶ。声は未だにアルブが無音で止めていた。声の攻撃が使えたら結果はまた変わっていただろう。
「アルラウネ、駆除させてもらう」
僕はフルーファを背中に戻し、アダマスの柄を握った後、引き抜く。すると、魔力停滞のアダマスが現れ、八個のダイヤモンドが光輝いていた。
「こんなところで、こんなところで、死ねるかっ!」
アルラウネは僕の方に向って走り、地面から巨大な八本の根を出現させて攻撃してくる。鋭い根がねじれ、アルラウネが地面から飛んだ瞬間にアルラウネの体の周りを巨大な根が囲うようにして向かって来た。直撃すればケガでは済まない強力な一撃だと思われる。
「はあああああああああああああああああああああああああああっ!」
僕はアダマスを振るい、巨大な根の攻撃を切り裂いていく。迫りくるアルラウネの攻撃が到達する前に根の攻撃を凌ぎ切り、アダマスを鞘に戻し、グッと押し込み、カチッという金属音が鳴った瞬間、勢いよく引き抜く。
「飛刃斬っ!」
高密度の無色の魔力がアダマスから放たれ、アルラウネの体を抉った。左わき腹から右肩まで切られ、体と胴体が別れる。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああっ!」
切られた体から黒い魔力が溢れ出す。だが、さすがアルラウネと言うべきか、体がくっ付き、立ち上がった……。その時には真っ赤に伸びていた夕日の光すら消え、アルラウネにとって完全に不利な状況に追い込む。
「ぐううううううううううううっ!」
アルラウネは敵前逃亡を行い、前方、側面に逃げられないと思ったのかウィリディス領がある後方に走った。だが……。
「ウィリディス領は私が守るんだ! 私が緑色の勇者なんだ! うかうか寝ていられるか!」
先ほど鳩尾を貫かれたプラスさんは回復魔法でも掛けてもらったのか、ウィリディス領を守る城壁に立っていた。すでにアルラウネと戦い出してから一日半が経過しようとしていた。僕はアルラウネと一日も戦っていたのか……。必死過ぎて全然気づかなかったな。
アルラウネは疲れと魔力の枯渇によって日の光が無いと力が出せなくなっていた。
その先にいるプラスさんの服装は以前と違い、少々古びている。金が縁どられたローブ姿で、ものすごくカッコよく見えた。
「その服装……。前の緑色の勇者……。どけえええええええええええっ! 人間から魔力を奪わなければっ!」
アルラウネは生き残るため、人間から魔力を奪いにウィリディス領に再度乗り込もうとしたが……。
「させない……。緑色魔法『根庭(ルートガーデン』」
地面から巨大な根が吹き出る。
プラスさんは超勇者状態に戻っていた。きっと多くの領民がプラスさんに願い続けたのだろう。アルラウネと僕が領土の外に出ていたから、必然的に魔力の質が一番高いプラスさんのもとに魔力が流れたと考えられる。
暗いウィリディス領に光り輝く一人の勇者が、迫りくる強大な魔物を前にして一向に怯んでいなかった。その姿を見た時、僕はウィリディス領の未来は明るいと確信した。




