アルラウネと本気で
「き、キース君、駄目だよ……。一人で戦うなんて……」
「一人じゃありません。プラスさんの思いも一緒です。だから、僕は負けませんよ」
「キース君……。うぅ……、もし、キース君が生きて帰って来たら私と……して……」
プラスさんは小さな声で何かをお願いしてきた。
「えっと、なんて言ったか聞こえなかったんですけど、死んで来る気もありません。アルブ、プラスさんを勇者邸に」
「わかりました」
アルブはプラスさんの襟首に噛みつき、勇者邸に向かった。
「はぁー、やっと終わった? じゃあ、さっさとやり合おうよ」
アルラウネは足踏みをして気持ちを高ぶらせていた。今まで多くの魔物に会って来たが、ここまで意識がはっきりしている魔物にあった覚えが無い。知性が無い魔物でも厄介なのに、知性がある魔物はもっと厄介だ。見た目もほぼ人間と変わらないじゃないか。そのため凄く戦いにくいが、アルラウネであることに変わりはない。
「スゥ……。本気で戦いましょう」
僕はアルラウネの魔力を削らないことには勝ち目がないと感じ、背中に掛けていたフルーファの柄を握って真横から滑らせるように抜き取り、構える。
「はぁ~、その武器、魔力を抉られるんだよね。ほんと、嫌。でも、当てないと意味ないよね!」
一瞬の間にアルラウネの拳が僕の真横に現れ、勢いよく振り抜かれた。
「くっ!」
砲丸で頭を強打されたような重い一撃が与えられ、顎が弾き飛ぶも、すぐに再生し、地面を擦りながら停止。魔力視で濃い緑色の魔力を探す。
「こっち!」
死角からまたしても威力が黒いマクロープス並みの一撃が飛んできた。
――早い。目で追っていたら追いつけないぞ。
「はははっ! よっこいしょっ!」
アルラウネは真正面から鳩尾に飛び蹴りを加えてきた。あまりの一撃に肋骨が折れ、臓物はほとんど破裂したように思える。一瞬、気を失いそうになったが、損傷を『無傷』で無理やり治す。地面を抉るように長距離移動してようやく停止し、前を向けばアルラウネの足が顔面に迫っていた。軽く予想していたので、回避できたが二撃目は回避できず、左側に吹っ飛ばされる。魔法を使っていないのに、この強さ。もし、黒色の魔力が声に乗ってばらまかれたらいったいどうなってしまうのか。考えたくもない。
「さっきまでの威勢はどうしたの。もう、疲れちゃった?」
アルラウネは魔力の総量が多いのか地面をずしずしと踏みしめながら、歩いてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。まだまだ。何のこれしき」
「はは、言うじゃんっ!」
アルラウネは黒い瞳をかっぴらき、両手を大きく振って走り勢いづいた飛び蹴りを放ってくる。
「すぅ……。プルウィウス流剣術、シアン流斬」
僕はアルラウネの攻撃を後方に流した。アルラウネは僕に攻撃が当たっていないことに疑問を持ち、体に切り傷が生まれた瞬間、目を細める。そのまま、僕を睨みつけてきた。
フルーファが震え、アルラウネの魔力を八パーセントほど抉った。フルーファは大変喜び、美味い美味いと言っているようだ。
「ちっ! ほんと嫌い、その武器!」
アルラウネは魔力を使って小さな傷を治癒した。今の一度は成功したが、飛び蹴りほど大きな隙のある攻撃はもう放って来ないだろう。
威力の高いこまごまとした拳の連打と蹴りの攻撃。ときおり来る根の槍が僕の戦いの流れを完全に立ちきってくる。
フルーファでアルラウネの体を切りつけられれば、アルラウネの魔力を奪い、僕の魔力を回復させられる。でも、僕は剣術の達人ではない。そのため、フルーファの刃をアルラウネに当てるだけでも一苦労だ。
「おら! おらっ! おらあっ! 鬱陶しいっ! 鬱陶しい! さっさと死にやがれ!」
アルラウネは拳の連打と蹴りを放って来たあと、僕を弾き飛ばし、大量に生みだした根の槍を放ってくる。
「プルウィウス流剣術、イエロー連斬っ!」
飛んでくる槍を連続で切り伏せ、そのまま最高速度を出し、アルラウネの背後に移動する。
「わかってるんだよ!」
アルラウネのカウンターが僕の顔面に打ち込まれるが、フルーファの穂先がアルラウネの首をかる。手があと少し長ければ首が切れた……。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
僕とアルラウネは場所を少しずつ移動しながら、戦っていた。僕に集中させてウィリディス領内にいる者に危害を加えないためだ。領土の中で本気を出したら多くの者が危険に晒される。被害が少しでも抑えられる場所に移動しようと思った。
シトラとミルは来てほしくない。数がいたら心強いけど、アルラウネに数で押し切れるのか難しいところだ。
どれだけ魔力を削り、強烈な一撃を放てるかが重要。そのため、大きな一撃を放つために、街から距離をとらなければ……。でも、アルラウネがどこまで攻め込んでくるのかが疑問だった。
僕にどれだけの興味があるのか、戦いの癖、戦いの楽しさをどのように感じているか。そう言う点を見てやはり、アルラウネは危険な魔物だと改めて分かる。
アルラウネは僕に興味津々だ。戦いの癖はあまり無い。でも、ものすごく動きが速い。加えて力も乗っている。言うなればミルとシトラを合わせたような攻撃だった。性格は言わずもがな危険で、放っておいたら大量の殺戮を平気で行う。相手を殺すことに楽しさを覚えているのか、僕を殺したくて仕方がないらしい。大量の魔力を奪い、もっと力を蓄えたいのだとか。そう簡単に死ぬ気はない。
僕はアルラウネが気づかないうちにウィリディス領を出た。
「はぁ、はぁ、はぁ…。はぁ……」
「いつの間にか外におびき出されてしまているな。はぁ、なんでこんな鬱陶しいいんだ。でも、倒せば大量の魔力が手に入るだから引かれているのかな。早く、あなた食べたい」
「遠慮してもらいたいな……。僕はまだ死にたくないから本気で戦う」
「そうかい。せっかく、私の一部になれるという名誉ある役割だったのに、残念」
「君の素材はこの領土にいる多くの者を助けることができる。でも、今のままじゃ、被害しか与えない。なら、ここで、駆除させてもらう」
「いいね……。出来るもんならやってみなよ!」
アルラウネは地面を抉りながら走り巨大な根を辺りから生やして共に攻撃してくる。根から大量の槍が射出され、魔力が抉られるのを守っていた。




