緑の勇者の本気
「皆さん。今、ウィリディス領にアルラウネが襲来しています。二〇年前よりも強力になっており、このままだとウィリディス領どころか、プルウィウス王国さえ、滅びてしまうかもしれません。今、緑色の勇者であるプラスさんが皆さんを助けるためにアルラウネと戦っています。どうか、彼女に勇気を与えてあげてください。心強い応援を叫んでください。この状況を変えられるのは勇者だけなんです。だから、皆さんの力を貸してください。お願いします!」
僕はプラスさんに向って応援の言葉を多くの者に発してもらいたかった。勇者にとってそれが何よりも力強い後押しになるのだ。その効果は僕も経験した覚えがある。小さな魔力でも、大量に集まれば、巨大な力になるのだと。
「皆さん! プラスは弱い勇者ではありません! 誰よりも正義感が強く、心優しい緑色の勇者なのです! 確かに、勇者順位戦では万年最下位いですが、勇者の力は強さだけではないのです! プラスは誰もが認める勇者の中の勇者なのです! 仕事は休まず、毎日行います。嫌な雑用もやります。厳しい訓練も毎日します。どの領土の勇者よりも努力が出来る勇者なのです!」
ベルデさんはプラスさんの姿を包み隠さず叫んだ。
「ベルデさん。そのまま、多くの者に語り掛けてください。僕もアルラウネと戦ってきます」
僕はウィリディスギルドの外に出て、巨大な根の上で未だに殴り合っているアルラウネとプラスさんを見た。
「はぁ、はぁ、はぁ……。おらああっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ……。おらああっ!」
プラスさんとアルラウネは拳と拳で殴り合い、プラスさんの方がボロボロになっていた。
「面倒臭いな。もう……。さっさと倒れろよ……。私の養分になれよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……。嫌。私はこのウィリディス領が大好きだから、絶対に倒れない……。あんたを倒すまで、絶対にっ! ぐっ!」
プラスさんは背後から鋭い根に背中を突き刺された。八本ほどの根が体に突き刺さり、口から血を吐き出す。
「ごめん、もう殴り会うのは飽きた。普通に殺すわ」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ほんと、魔物ってバカ……。あんたに出来て、私に出来ないわけないでしょ……。ふううっ!」
プラスさんは体に刺さっている根からアルラウネの魔力を吸い始めた。
「な……。私の魔力が吸わている……。何で。ふぐぐぐぐぐっ! 魔力が引っ張り出せない」
アルラウネの体はプラスさんの体から魔力を引き抜けなくなっていた。先ほどプラスさんがアルラウネに打ち込んだ魔力経路をずたずたにする毒が効いていると思われる。
「うおおおおおおおおおおっ! 緑色の勇者様、頑張れっ!」
「緑色の勇者のお姉ちゃん! アルラウネなんてやっつけちゃえっ!」
「緑色の勇者様っ! 頑張って!」
「緑色の勇者様なら勝てるぞっ! 絶対に勝てる!」
放送を訊いたウィリディス領の民たちは大きな声を上げ、プラスさんを応援し始めた。空中に浮かび始めるのは雨粒のような小さな緑色の魔力だ。その水滴程度の魔力は質が高い魔力に引き寄せられていく。
地上一〇〇メートル付近でアルラウネの魔力を引き抜き、少しの間だけアルラウネよりも魔力量が多くなったプラスさんの体にウィリディス領全体から集まった応援による緑色の魔力が入り込んでいく。
「う、うわ、うわうわ。なにこれ……」
プラスさんの体はキラキラと輝き出し、アルラウネは顔を引きつらせるほど目の前にいる異質な存在に身を震わせていた。
「凄い……。力が溢れてくる。これが、私なの……」
プラスさんは体に刺さった根を引き抜き、穴が開いた体をすぐに再生させる。再生速度が回復魔法の比じゃない。体が常に回復魔法を纏っているかのような状態で、どのような攻撃を受けても瞬時に再生する体になっていた。
「ちっ! 面倒臭いなっ!」
アルラウネは握り拳を作り、プラスさんに向って殴り込む。だが、プラスさんの体に攻撃が入っても、一瞬で治癒されてしまうため、ダメージが一切残らない。逆にプラスさんは握り拳を作り、アルラウネの顔面を殴りつける。
「ぐふっ!」
アルラウネは根の上から殴り飛ばされ、地面に勢いよく衝突した。家屋が無かったからよかったものの、先ほどの拳とは明らかに威力が違う。
「今の私なら、もっと戦える!」
プラスさんは根の上を走り、一気に一〇〇メートル下に飛び降りた。アルラウネを追い、追撃を行い始める。
僕は今のうちにアルラウネの根を切り取りにかかる。
「スゥ……はぁ……。この巨大な根を切れば、人々の魔力を吸っている根を一気に枯れさせられるはずだ」
僕はアダマスの鞘を左手で握り、柄を右手で掴む。かなり巨大な木のようだが、魔力が最大まで溜まったアダマスなら切れない物なんて無い。
「や、やめろっ!」
アルラウネの声が聞こえ、近くを見れば形相を変えたアルラウネが拳を構え、僕の傍まで迫っていた。
「はあああああっ! 邪魔するなっ!」
プラスさんはアルラウネにすぐに追いつき、僕の盾になる。そのまま攻撃を上手く回避し、カウンターを決めていた。
「ぐふっ!」
アルラウネは速度と力が乗った状態でカウンターを受け、自分の力も跳ね返って来ていた。そのため、プラスさんの拳でも顔が抉れるほどの攻撃を負う。
「キース君、やっちゃって!」
「はい!」
僕は巨大な幹目掛けてアダマスを振るった。巨大な幹が切れ、一本の筋が真横に通る。アルブが触れて一瞬で魔力に変え、食した。
「あ、あぁ…………」
アルラウネは自分の魔力の源が切られ、朽ちていく姿をその目で見ていた。人々を襲っていた根も枯れ、叫び声が聞こえなくなり、プラスさんへの応援が鳴り響いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。早く止めを刺さないと」
プラスさんは四つん這いになって倒れているアルラウネのもとに向かう。
「待ってください、プラスさん。アルラウネはまだ諦めていません」
「え……。でも、多くの者から魔力はもう吸い取れないはず。あと、毒のせいで魔力も使えないから戦うことなんてできないよ」




